第?Q Flame of fate
書いた作品を整理していたら出てきたので投稿してみます。もしかしたらこれが最終回になるかも??
1年半前、インターハイ女子決勝トーナメント2回戦---
「私、いけます!」
「わかった! 頼んだよ! 葵!!」
ボールが仲間から託される。
ボールを受け取った彼女は凄まじいドリブルスキルでディフェンスの選手たちを翻弄する。
そしてシュートへと向かう。
すると、ディフェンスがブロックに跳ぶ。彼女がそれを躱し、ダブルクラッチの体勢に入ると、ダブルクラッチを待ち構えていたかのようにディフェンスがスティールせんと飛び付いてくる。
しかし、だがしかし、彼女はそれすらも躱し、シュートを決めた。
そのゴールが決まった瞬間、会場は一時的に静まり返った。
「トリプル…‥クラッチだ……」
そして誰かがそんな言葉を口にした途端だった、会場は静まり返った空気から一変して、大盛り上がりを見せる。
「すげぇええええ!!! トリプルクラッチだ!!!!」
「あの子、半端ねぇぞ!!!」
トリプルクラッチの原理は単純で、ダブルクラッチからさらにもう一度ボールを下げて、ディフェンスを躱してシュートを決めることだ。
言葉では簡単に説明できるが、これを成すのは至難の業である。ダブルクラッチですらも、タイミングや滞空中のフェイントによるディフェンスの躱しが求められるというのに、トリプルクラッチは限られた滞空時間の中で2度もディフェンスを躱さなければならないのだから、その難易度は別格と言えるだろう。
あのバスケの最高峰、NBAでも滅多にお目にかかることはできない技である。
それを若干16歳の少女が成し遂げてしまったのだから、スカウトマンたちは目の色を輝かせて彼女に注目したことだろう。
だが、神様が本当にいたとするならば、あまりにも彼女に厳し過ぎたのかもしれない。
トリプルクラッチが炸裂した直後、彼女は激しく咳き込み始めたのだ。
「ゲホッ! ゲホゲホゲホッ!」
「君、大丈夫かい?」
明らかに様子のおかしい彼女に審判が声をかける。
しかし、だがしかし、彼女は言葉を返す余裕などなく、そのまま床に血反吐を吐いて、倒れ込んだ。
「はあ……はあ……はあ………はあ………!!」
崩れる息使いの中、少女は思った。
『私、死ぬの? こんなにバスケが楽しいのに……。これからもっと楽しくなるはずだったのに…………』
そこで少女の意識は途切れた。
《第3章 Blue Flame》
今日も今日とて練習に励む桜辰女子高等学校バスケットボール部のボクたち。
しかし、だがしかし、今日はついていなかったと言えるだろう。
レイアップシュートの練習において、ボクは脚を思いっきり全体重を乗せ込んで、挫いてしまった。
そしてボクはそのまま体勢を立て直すことができないまま、倒れ込んだ。
「あだっ!!」
「麻倉ぁあ!! お前は何をやってんだ!! 早く立てオラァ!!!」
立ちたいのは山々だが立とうにも脚に全く力が入ってくれない。
そんなボクの様子を見て、湊と相葉が駆け寄ってくれた。
「麟ちゃん、大丈夫ですか?」
「ああ、うん……なんとか」
「保健室に行った方がいいよ…?」
「そうだな」
そんなボクたちの会話に割り込むようにして、神坂先生は、
「馬鹿野郎、今日は保健室は休みだよ。ったく、しゃあねぇなぁ!! 剣崎、相葉、大隈、3人で自主練やってろ、私はこの馬鹿を病院に連れて行ってくるからよ。くれぐれも怪我はするなよ? いいな?」
神坂先生はボクを自分の車に乗せ、病院へと連れて来てくれた。
「ただの捻挫ですね。湿布出しときますので、ご安心ください。それではお大事に」という医者の診断を受けた。
ただの捻挫だったとしても、わざわざただのと付けないでもらいたい。
ボクも病院に来たくて来ているわけではないのだから、余計にただの捻挫が惨めに思える。
「んで、お前財布持ってんのか?」
「え、持ってませんけど」
「んだよ、財布も持ってねぇのかよ」
神坂先生の物言いは完全にチンピラのそれである。
「しゃあねぇなぁ、会計済まして来るから座って待ってろ」
「すんません」
神坂先生が会計を済ませてくれている間、ボクは待合室のソファで腰掛けることにした。
ソファでボーッとしていると、隣から声をかけられた。
「君、バスケやってるの?」
「え、あー、うん、そうだけど」
返事を返すと同時に、返事を返しながら、声の主に目を向けると、とても落ち着いた雰囲気で、どちらかと言えば内気な印象を受ける見た目をしているが、その容姿はとても整っていて、間違いなく美少女に分類される枠組みの人がパジャマ姿で隣に座り込んでいた。
「あ、ごめんなさい。急に声かけちゃってビックリしてるよね? 私もバスケやってたから、ついつい声かけたくなっちゃったんだ」
そう話す彼女の言葉にはどこか影が落ちていた。
「えっと、君は?」
「私は炎村葵、今はこの病院に入院してるんだ」
「ワタシは麻倉麟」
「リンか、いい名前」
炎村が優しく微笑む。
「あ、ありがとう」
彼女の笑顔に思わず照れてしまう。
「ポジションはどこなの?」
「ワタシはシューティングガード。君は?」
「私はスモールフォワードだったんだ」
彼女がバスケの話をする度、彼女はどこか遠い思い出を、懐かしい思い出を、思い出しているかのように、どこか遠くを見つめながら、見据えながら話している横顔がとても印象的で忘れられなかった。
そして本当にたまたま、レイアップシュートで捻挫したことがきっかけとなって出会った炎村葵という儚げな、今にも枯れてしまいそうな、散ってしまいそうな、ただ、ただただ、散るその瞬間を静かに待つ花のような少女。




