第74Q after genius
「はあ……はあ……はあ」
どうしてボクが今、息を切らし、地面に大の字で倒れ込み、空を眺めているのかを説明しよう。
「いつまで倒れてるの? 早く立ちなさい、次行くよ」
叔母さんが、いや、ボクがこうなった原因がそう言う。
「早く立ち上がらないと、時間が勿体無い」
「わかってるよ」
では、ではでは、改めてボクが今、どうして叔母さんと1on1をしているのか説明しよう。
話は今朝に遡る。
寮生活が板につき始めていたこともあってか、目が覚めると実家の天井を眺めているというのは、懐かしくもあり、どこか落ち着かなさもあった。
「ああ、、そういえば今、実家なんだっけ?」
そもそもボクが何故このタイミングで、実家に帰省することになったのかということに関しては、今は説明しないでおこう。
洗面所で顔を洗い、リビングに顔を出すと、叔母さんが朝食の準備をしていた。
「あら、おはよう。もう少し寝ててもよかったのに」
「うーん、いつもこの時間に起きてるから、いつもの癖で起きちゃうよ」
現在時刻は午前6時半。
寮生活が始まってからというもの、何かと準備することが多くなったボクはこれくらいの時間に起きることが普通になっていたわけだったが、この家で暮らしていた時はそう言われてみれば、もう少し起床が遅かったかもしれない。何も準備する必要がなかったからだ。
「まあ、早起きは三文の徳とも言うし、お寝坊さんだった姫乃の息子にしては上出来ね」
「母さんってお寝坊さんだったの?」
「ええ、寝起きはあまり得意じゃなかったわね」
「なんでそんなこと知ってんの?」
「同級生だったから」
「え」
「あれ、あなたに言うの初めてだったかしら?」
「うん、初耳だよ」
この間も話したかもしれないが、ボクは母さんのことを何も知らない。ましてや、母さんと叔母さんの関係性なんて尚のこと知らない。
「そっか、姫乃はあなたに何も話していないのね……」
叔母さんはどこか寂しそうにそう話す。
生前は多くの人から愛されていたという母さんだったらしいが、叔母さんもまた母さんのことが好きだったのかもしれない。
いや、好きでなければ、その息子であるボクを引き取ったりはしないだろう。
好きであることは大前提だったと言えるだろう。
では、ではでは、母さんと叔母さんは単なる同級生だったのだろうか?
単なる同級生という間柄で息子を預けるという話に発展するだろうか?
どれだけ仲が良くとも、息子を預けるなんてことにはならないのではないだろうか?
ボクならどうだろうか?
湊や大隈や相葉や漆原から自分の子供をこれから預かってくれと頼まれたならば、ボクは快く、わかったと答えるだろうか?
確かに4人とも大事な仲間で、友達だが、そんなことにはならないだろう。そもそもボクたち5人がそんなことを切り出せるまでの深い絆で結ばれているかもまだ不確かだ。
この発言がもとで壊れる仲かもしれない。
なのに、それなのに、叔母さんは母さんの頼みを受け入れた。どうしてなのか。
「まぁいいわ、今日から私も夏休みだから、バスケがどれくらい上手くなったか見てあげる」
「え"」
「昨日も言ったけど、夏休みで練習がないからと言って、何もしなかったら差が付くだけ。本当に勝ちたいなら抜け出すための努力が必要なのよ」
「う、う"ーん"」
「そんな露骨に嫌な顔しないの。手加減してあげるから」
「うーん」
そして現在に至るわけだ。
「叔母さんってなんでこんなに強いの?」
「ん? それは全国制覇をしているから?」
「そりゃ強いよ……」
そして誰もが辿り着くであろう、思い付くであろう質問を投げかける。
「そんなに強いのに、どうしてプロにならなかったの? 叔母さんの実力なら、プロにだってなれたはずでしょ?」
「それは……」
叔母さんは何かを思い出しているように遠くを見つめた。
「私はプロにはならないよ」
「えー、なんでよー! 一緒にプロになろうよ! そんで2人で日本代表になるんだよ」
「それはすごくいい夢だけど、私は姫乃とだから闘えただけだよ。私1人じゃプロではやっていけない。だから、私はここで降りる」
姫乃は私の肩を殴った。
「痛っ! 何するのさ」
「バカ……。カッコつけんなし。柳なんてもう知らない。勝手にすれば? あーあ、つまんないの」
私は姫乃を傷つけてしまったかもしれない。裏切ってしまったかもしれない。私だって本当ならば、姫乃と一緒にいたい、これからもずっと。
でも、そんなことできるわけがない。
ずっと一緒なんて叶うわけがない。
だから、夢はここで終わり。
私たちの関係はここで終わり。
叔母さんは我に返ったように、
「どうしてだったかな? そんな昔のこと忘れちゃったな。さて、休憩も終わったでしょ?」
と、言う。
お盆が近づいている。
それまでにボクは知らなければならないのかもしれない。
母さんと叔母さんの全国制覇と、友人や親友すらも超えた2人の関係、そしてボクの父さんと母さんの出会いについて、ボクは知らなければならない。




