第72Q I want to play basketball
ガタンゴトンと揺れる電車の中で、菊川は考え事をしていた。
「やはり桜庭姫乃の遺伝子か。あのスリーは脅威だなあ。だが、まだ完全体じゃない。ドライブもスリーも。桜庭姫乃はワンハンドのスリーと、人の弱点を的確についたダックインを得意としていた選手。麻倉麟はまだ不完全だ。このまま覚醒しないことを祈るばかりだな。桜庭姫乃が再来するともなれば、もはや誰も倒せなくなるぞ………」
そして菊川は襟付きシャツの胸ポケットからタバコを取り出そうとすると、その手を守城に止められた。
「おい、ここは電車だぞ。インターハイ前に監督が法律違反で捕まったなんて、笑い話はやめてくれ」
「悪い悪い、つい癖で」
「どんな癖だ。まさかお前!!」
「いや、やってないぞ! 日頃からやってるなんて、そんなこと断じてないぞ!!」
そしてその頃、ボクたち桜辰はというと。
「参りましたね、約束は約束なわけですからねー。私としてはケジメとして、バスケットボール同好会はここで廃部としておきたいわけなのですが」
菊川の言葉を受けた教頭は悩む素振りを、身振り手振りを見せながらも、ケジメという単語をわざとらしく強調しながら話す。
「話は聞かせてもらいましたよ」
校長が来られないからと代理で送り込まれたはずの教頭を差し置いて、なんと校長が姿を現してしまった。
「なるほど、未来が楽しみですか。いいじゃあ、ありませんか。未来に希望が持てるなら大いに結構。投資というのはその場で結果が分からないからこそ投資。ならば、この子たちの未来に私は投資するとしましょう」
「しかし、校長先生!」
にこやかな校長とは打って変わって、真剣な顔をしている教頭。
「教頭先生は約束のことを言いたいのでしょう。その意見もわかります。ですから、それはそれとして、これらこれとして、神坂先生の給料を減給するという形で、手を打つとしましょう」
「え、ちょっと待ってくださいよ、なんで私の給料が減らされる方向に向かっているんですか?」
話の急展開に、ジェットコースター並みの急降下に、急転直下に、神坂先生は冷や汗を流しながら食らいつく。
「あの、、そろそろ給料減らされ過ぎて生活がままならなくなって来たんですけども………」
「私も非常に心苦しいのですが、やはり一度約束したことを果せないということはダメなことですから、それ相応の罰は受けてもらわなければ、生徒たちにも、示しが付かないというものでしょう」
どこも心苦しそうにしていない校長は軽快な言葉運びでそう言う。
「いやいやいやいや!!!! 誰も!! 生徒たちも誰も!!! 廃部をかけて試合してるなんて知りませんから!!!! なんとでもなるでしょうよ!!!!!!」
神坂先生の魂の叫びが体育館に木霊する。
そしてその叫びによって観戦にやってきていた女子生徒たちに、結果として事実を知らしめることとなってしまった。
「あ……」
「そういうことです。神坂先生、諦めてください。試合終了ですよ」
神坂先生はダンッ! と、わざとらしい大きな音を立てながら膝から崩れ落ちた。
「安西先生・・・!!
・・・・・・・・・・・・・・・
バスケがしたいです・・・・・・」
「神坂先生、何を言っているのですか?」
校長は神坂先生の悪ふざけに乗っかることはなかった。
そしてこの時、ボクは思った。
「何を見せられているんだろうか……」
と。
「但し」
校長は言葉を付け加えた。
「猶予を延長するだけのことです。猶予は今年を含めて後3年」
バスケットボール同好会に執行猶予が付いた。
「この同好会は1年生だけでできたチームのようですからね、君たちが3年生になった夏のインターハイ、そこまでに結果を出しなさい。結果を出せなければ、今度こそバスケットボール部は廃部、そして神坂先生には退職してもらいます」
「え………退職………。減給の次は退職……」
どこまでも追い込まれ過ぎていて、将棋ならば投了したくなるほどに詰んでいる。
「いや、それよりも!」
神坂先生の絶望感に気を取られながらも、ボクはそれを聞き逃さなかった。
「バスケットボール部って、」
「はい、今日からバスケットボール同好会の部への昇格を認めます。これからの発展を期待しますよ」
「あ、ありがとうございます!!!」
「さて、教頭先生、帰るとしましょうかね。ホッホッホッ!!」
何処かから大都会にという歌い出しが聴こえてきそうなそんな一幕であった。
そうして、こうして、ああして、どうして、なにはともあれ、ボクたちバスケットボール同好会は校長と、倒すべき敵の監督の粋な図らないにより、廃部を免れ、それどころか部への昇格というお土産まで貰うことになった。
「お前ら、わかってると思うが、私はもう手加減できねぇ………」
「はい?」
「お前らを全国一のチームにしなければ私に未来はないんだよ………」
絶望的な顔を引き下げた神坂先生は立ち上がっる。
「「おっふ……」」
ボクと湊の声が揃う。
「3年とは言え、もう私たちの夏は終わっちまってる。次は冬の大会、ウィンターカップになるわけだ。それが終わればまた次の夏、インターハイ予選が始まっちまう。この3年はきっとお前らが思っているよりも、あっという間に過ぎていくんだ。今年の目標は県大会突破だ。それが意味することはわかるよな?」
ボクは固唾を飲んだ。
「そうだ、天ノ星と翠央を倒すってことだ。お前らにできるか?」
「やります!」
迷いはなかった。
「私もやります」
「私も…」
「私もやるしかないよな、きっと」
「ちっ、やるしかねぇだろ」
それぞれが戦う意志を見せる。
そして物語はウィンターカップへと向かって加速する。
今週のNGシーン
「なるほど、未来が楽しみですか。いいじゃあ、ありませんか。未来に希望が持てるなら大いに結構。それでは廃部してください」
「え?」
「聞こえませんでしたか? バスケットボール同好会は廃部です。直ちに撤収し、部室も明け渡してくださいね」
「いやいや、いま完全に存続できる流れでしたよね!? え、廃部なの!?」
「廃部です。人生はそんなに甘くありませんよ? 廃部と言ったら廃部なんです。部外者から口を挟まれたくらいで考えを改めるほど桜辰は甘くありません。舐めないでもらいたい」
「マジかよ…………」
ロウキュー娘 完!!!!!




