第0Q 桜庭ノ姫 Part 3
迎えた練習試合当日。
私も姫乃もこの日までできることは全てやってきた。
いよいよ試合が始まろうとしている。
監督の口からスターティングメンバーの5人が読み上げられていく。
その中には当然、桜庭姫乃の名前があった。
そしてやはり私の名前は出てこない。
「柳、試合は40分あるんだよ? チャンスはまだまだある。諦めちゃダメだよ?」
「わかってる。姫乃こそ私が出るまでに取り返しがつかないくらい点差つけられないでよね?」
「あはは、誰に言ってんの?」
姫乃とハイタッチを交わし、姫乃をコートへと送り出す。
コートへ向かう姫乃の背中には7番の文字が刻まれていた。
ジャンプボールから始まる練習試合。
さすが慧ノ美に練習試合を挑んでくるだけあって、相手校も点数的には負けているものの、離されることなく接戦を演じている。
試合が進むに連れて、うちのチームにはある欠点が浮き彫りになることになった。
それは何か。
それは姫乃だった。
チームで間違いなく、1番上手いはずの姫乃がかえってチームの弱点となってしまったのだ。
どういうことか?
姫乃が弱点とは言ったものの、姫乃が弱いと言うわけではない。
姫乃のレベルが高過ぎたのである。
大体の選手というのは緊張や、その他諸々の心理状態から練習通りの力を発揮することは難しい。
どんなに優れた選手であっても100パーセントを発揮することはできない。
どれだけ絶好調に調子を持ってきたとしても、80パーセントの力が発揮できたのなら、それはとても良い方だと言えるだろう。
そんな中で姫乃は練習以上の力を発揮してしまったのである。
練習でも見せたことのなかった彼女のポテンシャルの高さに他の4人はついて行くことができなかった。
パスのタイミング、速さ、彼女との連携が何一つ噛み合わない。
いつしかリードしていたはずの点差が逆転されることになった。
この現状に監督は頭を抱えることになった。
「あっちゃー、私、もしかして浮いてるよね?」
これにはさすがの姫乃であっても焦りを覚えた。
監督はタイマーに姫乃の交代を申し出ようと立ち上がる。
この時、何が私をそうさせたのかはわからない。
でも、それでも、直感的にここで姫乃を下げたら負けると思ったのだ。
「監督待ってください!!」
「どうした、柊木」
「私を使ってください!!」
「何を言っている、お前は1年だろう。まだまだ試合に出られる実力は付いていないはずだ」
「そ、そうかもしれません。でも、姫乃に合わせられます!! 私なら姫乃の力を最大限に引き出せます!!」
「ほお」
「だから、私を使ってください!! 必ずこの現状を打破して見せます。だから!!!」
監督は悩むことなく私に言葉を返す。
「試合に出たいという気持ちはここにいる誰もが思っている。バスケットボールというスポーツはこんなに選手たちがいるのに、5人しか試合出ることができない狭き門だ。誰もが試合に出たいという気持ちを我慢して応援に徹しているんだ。お前の出しゃばりは決して許されることではない。まして、お前は3年生でも、2年生でもない。入部したばかりの1年生なのだから尚更だ。
だが、スポーツは賭けでもある。時には何よりも面白い采配をできたチームが勝つこともある。柊木、お前が桜庭の力を引き出せるというのなら、俺はそれに賭けてみる価値があると思っている。お前と桜庭はいつも夜遅くまで居残り練習をしているようだからな。
柊木、お前に10分やる。そこでこの盤面をひっくり返せなければ、お前も桜庭も永久に試合では使わない」
「ありがとうございます!!!」
私は深々と頭を下げた。
「おい、誰かユニフォーム貸してやれ」
先輩から借りた12番のユニフォームを背負い、私はコートに入った。
「へへっ、待ってたぞ相棒」
「お待たせ」
「勝ちに行こう」
「うん!」
試合が再開されると、ボールが私に渡る。
ボールを持つと途端に緊張が走り抜けた。
試合特有の緊張感に支配された。
そして私はパスミスをしてしまった。
監督はその姿をしっかりと目に焼き付けている。
このままでは私と姫乃は高校生活で二度と試合に出られなくなってしまう。そう思うとより身体を動かなくなっていく。
固まる私に対して、姫乃が私に膝カックンを仕掛けてきた。
「うわっ! 何するのさ!」
「なーに、一丁前に緊張してんの? 落ち着け落ち着け。柳は落ち着けば大丈夫だよ。だって、私の相棒なんだもん。絶対大丈夫だよ。いつもみたいにやろうよ。楽しくさ、だってこんなにも早く2人の夢が叶ったんだよ? 2人で試合に出るって夢がさ。もう楽しさしかこのコートにはないよ。そんな緊張なんか取っ払って、ハイになろうぜ?」
「言い方………」
「こっからが本番だよね?」
「そうだね」
私は余計なことを試合で考え過ぎていたのかもしれない。
考えることをやめ、私は姫乃とこの試合を楽しむことにした。
思いっきりこの試合を楽しむことにした。
すると、気がつくと試合の点数はひっくり返り、私たちは勝つことができた。
試合終了のブザーが鳴り、私たちは勝利の喜びを噛み締めた。




