第0Q 桜庭ノ姫 Part 2
姫乃の実力は群を抜いていて、1年生ながらに3年生を、それもレギュラー入りしている部員を1on1で圧倒してしまうほどだった。
そんな姫乃のがチームから認められるのはもちろん当然のことで、来週に控えた練習試合のメンバー発表にて、
「明日の試合は桜庭、お前をレギュラーにしようと思う。まだ1年生ではあるが、その実力は誰もが知るところだ。部のみんなも桜庭のレギュラー入りに異論はないだろう」
と、監督。
「おうっしー!」
監督の言葉に包み隠すことなく、謙遜することなく、素直に喜びを全力で表現した。
その姿をすぐ隣で見ていた私は、彼女のことを凄いと思う反面で、少し嫉妬していた。
これをみんなは格好悪いと思うだろうか。
でも、それでも、この気持ちは仕方のないことだと思ってもらいたい。
バスケットボールをしている以上、いや、これはバスケに限ったことではない。
スポーツをしている以上、それを真剣に取り組んでいる以上、やはり試合に出たいと思うものである。レギュラーに入りたいと強く思うものである。
もしそう思わないのだとしたら、それはそのスポーツに真剣に取り組めていない証拠と言えるだろう。
私は違う。
私は、レギュラーに入りたい。
そして1年生ながらにしてレギュラーに入ってしまった姫乃が羨ましくて仕様がなかった。仕方がなかった。どうしようもなかった。
練習終わりの更衣室---
「レギュラー入り、おめでとう」
親友がレギュラー入りしておめでたいと思う気持ちと、親友でありながらライバルでもあると思っていた相手に先を越された複雑な気持ちが、入り混じった声で姫乃に声をかける。
「サンキュー。でも、そのテンションで言われてもあんまり喜べないかもー」
「なにそれ」
「だってそうでしょう? 柳は私のことをおめでとうと思ってないでしょ。だって顔に書いてあるよ? 悔しいって」
「それは………」
完全に図星であった。
図星なだけに、親友に対してそんな気持ちを露わにしている自分なだけに、そこを的確に指摘されたことが、堪らなく恥ずかしく思えた。
穴があったら入りたいとはこのことなのだろうか。
今すぐ消えてしまいたかった。
「そんなに恥ずかしいって思うことじゃないよ?」
「え……?」
「きっと私と柳の立場が逆だったら、私はきっと泣いて悔しがると思うよ? そうする自信が私にはある」
「ふふ、何の自信それ?」
「お、やっと笑った! 柳はそんな落ち込んでる顔よりも笑ってる顔の方が可愛いんだから、ずっと笑ってなきゃダメだよ? これからは私の前で暗い顔するのは禁止ね!」
「そんな無茶な……」
「無茶じゃないよ。無茶じゃない。なんてたって、私が、この親友の私が、柳のことを笑顔にしてみせるから」
「な、なんか告白みたいでヤダよ、その言い方////」
「あはは、照れてる照れてる! かっわいい!!」
「や、やめてよ!!」
彼女にはやはり不思議な魅力がある。
彼女と話していると、心の中にあったモヤモヤとした何かが、スッと消えていくのだから。
「それにしても柳、可愛い下着つけてるね! もっとよく見せてよ。ってか、スタイルも超いいんじゃん!! もっとよく見せろし!!」
「やっ、やめろぉおおお!!」
同じく下着姿の姫乃に身体をマジマジと見られるのは、レギュラーに入った姫乃に対して抱いていた嫉妬の気持ちを自覚した時よりも、恥ずかしい。
そして帰り道---
「柳はもっと自分に自信を持った方がいいよ。スタイルもいいんだし、下着も可愛いし」
「下着が可愛いのは余計だよ!」
「ほら、可愛い! そういうところも可愛いよ?」
「やめてやめて! この話は終わり!!」
「ええー、感想戦がまだだよ?」
「終わりったら終わりなの!!!」
すると、姫乃はとても楽しそうに笑った。
「何がそんなにおかしいの?」
「ん? そうだなー、柳と一緒にいる時間が楽しくて。ついついニヤけちゃうなー」
「そんな恥ずかしいこと言わないで」
「柳は? 私といて楽しい?」
「////」
「ええ、なになに? 言葉にしてくれないとわっっかんないよ?? ほら、早く早く」
「もー!! 私も楽しいよ!!! だから、もっと楽しくしたい!!」
何を言っているんだ私は。
でも、もう元には戻らない。
もう後には引けない。
もう後戻りできない。
口が、心が、思いが、気持ちが、勝手に動くんだ。
「私も姫乃と同じところに立ちたい!! もっと一緒にいたい!! ずっと一緒にいたい!! あーもー!! こんな恥ずかしいこと言わせないでよ!!!」
「うほー、これはなかなか////」
姫乃は顔を真っ赤に、深紅に染め上げている。
そして次のように言葉を続ける。
「んじゃあ、一足先に待ってるよ。私も柳と一緒にプレーしたい。だから、柳も駆け上がってきたよ。私のところまで。私は待ってるからさ」
「うん、待ってて。そう長くは待たせないから」
「おっ、なんか今の台詞、映画みたいでカッコいいね!」
「茶化すな」
「ごめんごめん」
この日以降、私はどんなに過酷な練習であろうとも、全力で向き合った。
練習試合まではまだ時間がある。ここでアピールできれば、目に留めてもらえれば、もしかしたらと私は諦めないことにした。
放課後も毎日のように居残り練習をした。
秘密と特訓と言いたいところであるが、そこにはいつも姫乃がいるので、秘密でも何でもないのだが。
そうまでしてでも、姫乃と一緒にバスケがしたいのだった。




