第7Q Training
「どこで着替えるんですか?」
「体育館横の更衣室でいいんじゃないか?」
「なら、急ぎましょう!」
ボクは湊に引っ張られるようにして、更衣室へと連行される。
これは非常にまずい展開と言えるだろう。男が女子更衣室で着替える。ましてや、女子と一緒になんて、犯罪以外の何者でもない。
純真無垢な湊の下着姿を拝むわけにはいかない。ボクなんかで汚していい人ではない。これだけはどうにかして回避しなくてならない。全力で、全身全霊で、回避しなくてはならない。人として。
「ごめん、ワタシちょっとトイレに行ってくるから、先に行って着替えててよ」
「そうなんですか?」
「うん、すぐ行くから!」と、ボクはその場を立ち去ることになんとか成功した。
トイレに逃げ込むと言っても、逃げ込んだトイレですらも、女子トイレというまさに犯罪に犯罪を重ねた状態である。
立て籠ったトイレの個室、外からは女子生徒の話し声が平然と聞こえる。
こんな状況、状態、現状、正気でいろと言う方が無理な話であった。
声がしなくなったところを見計らいボクは女子トイレを脱出し、更衣室へ向かう。
しかし、だがしかし、更衣室に向かう道中、湊の姿が見当たらなかったのは何故なのだろうか?
そんな疑問を頭に残しながら、更衣室を開けると、そこには可愛らしい純白の下着姿の湊がいた。
「もう遅いですよ? 早く着替えないと練習時間なくなっちゃいますよ?」
「あ、あ、あ////」
「どうされましたか?」
白い雪のように繊細で美しく溶けて無くなりそうなほどに白く綺麗な肌。急いで目をそらす。視線をそらす。
ボクの中の男が熱く込み上げてくるのがわかった。見てはならないという意思と、可愛らしい少女の下着姿を見たいという、直視したいという、ガン見したいという、思春期とが、激しくぶつかり合い、葛藤が生まれる。
そしてボクもまた制服を脱いだことで、下着姿を、スポーツブラとボクサーショーツ姿を、港に見られる。
これは一体全体何体なのか。変態なのだろうか。
「ちょっと麟ちゃん!」
「は、はい!! なんでしょう!!?」
「お肌綺麗ですね」
そう言って彼女はボクの身体に触れた。
「え、えっと、そ、そうかな??」
「はい、とても綺麗なお肌です」
「そ、それはよかったよ」
変態のようにチラチラと、ラチラチと、下着姿の湊を見ながらーーー
「み、湊も肌綺麗だよな……」
「うふふ、ありがとうございます。女の子同士なんですから、そんなに照れなくても大丈夫ですよ?」
「そ、そうなんだけど、み、湊があんまりにも綺麗だから、びっくりしちゃって」
「そんなに褒められてしまうと、私も照れてしまいます////」
湊は両の手で頰を触り、照れたような素振りを見せる。身振り手振りで照れたように振る舞った。
その隙にTシャツとバスケットパンツ、通称バスパンと呼ばれるかっこいいデザインのハーフパンツを着用し、着替えを済ませる。
「ふうー。なんとかなったな………」
これからこんなことを毎日潜り抜けなければならないと思うと、ボクは精神が擦り減りそうであった。擦り減っているだけならまだいい、擦り切れる可能性まである。
どうにかこうにか、こうにかどうにか、着替えを済ませたボクと湊はようやく練習に取り掛かる。
「お前ら、着替えるのに随分時間がかかったな?」
「ま、まぁ、女の子ですから……」
神坂先生の言葉に対して放った、ボクのこの言葉にはボクのこれまでとこれからの苦労が全て集約されているように思える。
それからのトレーニングは本当に基礎トレーニングでグラウンドをひたすら走り、筋肉トレーニング、体幹トレーニング、縄跳びと体力作りとなった。
一通りの練習が終わる頃には日も落ち、辺りは真っ暗になっている。
ちなみにボクたちはというと、ボロ雑巾のように乾涸びていた。本当に女子バスケ部なのかと言いたくなるほどにキツい練習メニューであった。
「し、死ぬ………」
「死にますね………」
この地獄のメニューにはお嬢様である湊もお嬢様ではなくなっていて、普通の女の子になっていた。
「お前らなに呑気に寝てんだ? バレー部が帰ったから、これから中で練習するぞ!」
神坂先生は倒れているボクたちに追い討ちをかける。追い込みをかける。
しかし、だがしかし、そこはやはりバスケットボール好きが集まっている同好会というだけはあるのだろう、さっきまで、先程まで、まな板の上の魚のような状態だったボクたちは、すぐさま立ち上がり、すかさず立ち上がり、体育館へと猛ダッシュした。
グラウンドをダッシュした疲れはどこへやら。
バスケットシューズ、略してバッシュに靴を履き替え、コートに入る。
「でも、ここってバスケ部なかったんだよな? ボールはあるのか?」
ボクはあることに気がついてしまった。
「そう言うと思ってな。私が予め買っておいた。私の給料でな………」
どこまでのお金に貪欲な神坂先生は残念そうにバスケットボールをボクに渡した。
「あ、ありがとうございます………」
ボールにとてつもない重みを感じる。




