第61Q Fluctuating thoughts 《vs Amanoboshi Part 1》
鹿鰤大学体育館---
細谷と漆原の激しい1on1が繰り広げられている。
「ちょっとはやるようになったみたいだけど、まだまだ私には届かないなぁ!」
「はっ! 言ってろ! すぐにぶち抜いてやるよ!!」
内容はやはり細谷が一方的に勝っている展開、そんなところへある人がやってきた。
「盛り上がってるとこ悪いが、邪魔するぞ」
体育館に足を踏み入れたのは、神坂先生だった。
「よう、元気そうだな。相変わらずキャラは被ってるけど」
「テメェ……」
「今日はお前に喧嘩を売りに来たんじゃねぇんだよ。今日はお前にあることを伝えに来たんだ」
「勿体ぶらずに早く言えよ、ウチは早く練習に戻りたいんだけど」
「そうかいそうかい、そりゃ結構。今日伝えるのはその練習をさらにヒートアップさせるための着火剤ってところだな。練習試合が決まった」
「練習試合? 相手は?」
「いい食いつきだ。相手は県内最強、天ノ星学園だ。勝たなきゃバスケ部は廃部になる」
神坂先生は淡々と話す。
「廃部がかかった大事な一戦だ。気合いを入れてお前には挑んでもらうぞ。こんなところで廃部になったんじゃ、マジでシャレになんねぇからよ。んじゃ、細谷、そいつの最終調整は任せるぞ」
「はーい」
細谷はバイバイと体育館を去る神坂先生に手を振った。
そして漆原を見た。
「だってさ、廃部をかけた一戦が天ノ星だなんて、ついてないにもほどがあるね。どう思う?」
当事者ではない細谷にとっては面白い話以外の何物でもなく、ニヤニヤと、ニタニタと、笑いながら漆原に尋ねる。
「大事な一戦? 何が大事な一戦なんだよ。勝てば他の試合となんら変わらないただの練習試合だろうが。世間話をしてる時間はない。さっさと再開しろよ」
漆原はそう言って細谷にボールを投げつけた。
「アンタってほんと、可愛げないし、生意気よね。ほんとやんなっちゃう。まぁいいわ、それじゃあ、再開しましょうか」
こうして夜は更けていった。
もうあと数日でインターハイ決勝トーナメントが開催されようというこの日、ボクたちはそれぞれの思いを胸に試合に挑もうとしていた。
「負ければ廃部………。これではお母様の目論見通りになってしまう。この試合、なんとしても勝たないと!」と、湊。
「アンナちゃん…」と、相葉。
「しんど…………」と、疲れが抜けない大隈。
「絶テェ勝つ」と、漆原。
「天ノ星か、、。嫌になるな、運命ってやつも。私の野望のためにも、アイツらには勝ってもらわなきゃ困る」と、神坂先生。
それぞれの思いが渦巻く練習試合が幕を開けようとしている。
「そんな時にボクは鬘被って何やってんだ……」
ふと冷静になると、ふと我に返ると、自分が何をやっているのかと馬鹿らしくなる時がある。
「ボクは……この同好会を護りたいのか? 本当にボクはこの場を存続させたいと思っているのか……?」
恥ずかしながら、残念ながら、自分がわからないのだ。
嫌々始まったこの生活をこれからも続けたいと思っているのか、この数ヶ月の中で心境に変化があったのか、数ヶ月前のボクならば迷わず負けたいと願っていただろう。
ところが今のボクはどうだろう。
この試合に同好会の運命がかかっている試合に、ボクは何を思い臨めば良いのだろうか。
今回は桜辰バスケットボール同好会の部への昇格をかけた一戦という経緯から会場は桜辰女子高等学校の体育館で行われることになった。
確かにそれが妥当だと言えるだろう。天ノ星学園に出向いて、試合を行なって誰も知らないところで桜辰バスケットボール同好会の消滅が決定するなんてあってはならない話だろう。
そしてボクはどうして迷うことなく負けると思っているのだろうか。
「ボクは……どうすれば……」
いつも通っていた体育館の扉の前で立ち止まる。
「麟ちゃん」
扉の前で立ち止まるボクに湊が声をかける。
「どうしたのですか?」
「あー、いやっ! なんでもないよ!」
本当はもう解放されたいのかもしれない。
「遅いぞ」と、大隈。
「勝とうね…」と、相葉。
「ふん」と、そっぽを向く漆原。
ボクはきっと天ノ星に負けたいと思っている。
そして終わらせたいのだ。
彼女たちを騙し続ける日々に終止符を打ちたいのだ。
だが、だがしかし、本当にそれでいいのか。彼女たちにとってどうすることが、どうしてあげることが正しいのか、迷いが拭い去れない。
正しさなんてボクが今この女子校に立っている時点で失われているというのに、この期に及んでボクは正しさを求めようとしている。追求しようとしている。追い縋ろうとしている。
「麟ちゃん、麟ちゃん? やはり今日は様子が変ですよ? 大丈夫ですか?」
会場準備中にどうやらボクは長椅子を持ったまま、ボーッとしてしまっていたようだった。
いつもならこんなことをしていると神坂先生から怒号が飛んでくるのだが、何故か今日はそんな怒号は聞こえてこない。
神坂先生に目を向けると、何か思い詰めたような表情を浮かべてジッとこちらを見ていた。
「………ワタシは大丈夫だよ。ごめん、早く準備しないとな」
「はい……」
湊は心配げな顔でボクの背中を見送った。




