第56Q SuiO vs Amanoboshi Part 10
「交代」
タイマー操作員がブザーを鳴らし、交代を呼びかける。
「玖城、お前の出番だ」
菊川がベンチの玖城を呼び出す。
「へへっ、ようやく真打登場ってわけ?」
「第3Q残り4分、翠央の流れを完全に断ち切りたい。できるな?」
「誰に言ってんのよ? あたしは誰にも負けないっての」
玖城がコートに入った。
選手交代
金木 → 玖城
選手プロフィール
天ノ星学園
玖城アンナ 15番 172cm SF
玖城がコートに入った瞬間、その目立つ容姿から以前、桜辰の体育館にやってきた人だとすぐにわかった。
「玖城アンナ………」
「あの方は相葉さんの」
「まさか天ノ星の選手だったなんて」
あの時、ボクは相葉に言った。言ってしまった。彼女を倒そうと。倒さなければ彼女に想いを伝えることはできないのだと。
しかし、だがしかし、まさか相手が翠央をも圧倒する天ノ星の選手だったなんて、夢にも思わないわけだが、よくよく考えれば少し考えればわかる話でもあった。
一度は離れた街に帰ってきたというのは、推薦でバスケの強い学校に入るために帰ってきたということだったのだ。
「あれがワタシたちが倒さなきゃならない相手」
「玖城アンナさん」
濃色の紫のユニフォームをまとう玖城の姿はどことなく、闇を纏っているようにも見えた。
「ちと早いが、最終局面と行こうか」
新たなカード玖城を投入し、菊川は腹を括ったような顔つきで試合を見守る。
ボールが芦屋から玖城へと渡る。
誰もが玖城の動きを固唾を飲んで見つめる。
「いかせんでござる。しかし、なんだこの者が纏う独特の空気感は……」
ディフェンスとして、マッチアップとして対面した松風は玖城の放つ殺気だった雰囲気にゾクリと、恐怖に近い何かを感じ取った。
「へへっ、好きだらけだっての」
そんな言葉が聞こえた時には、松風は既に玖城の姿を見失っていた。
「ぬっ!? どこにいったでござるか!!?」
ダンダンと、ダムダムと、ドリブルされる音ですぐに自分が抜かれたことを悟る。
「速すぎて全く反応できなかったでござる」
「松風! ここは私に任せろ!」
上木がヘルプに向かう。
「おお、おお、アンタね。インサイドをこじ開けるパワーもあって、スリーを決める決定力もある。いいね、いいねいいね! あたしを楽しませてみてよ」
「あまり調子に乗るなよ、1年坊主!」
隙だらけの玖城にスティールを仕掛けると、それを躱すようにして、ロールターンで上木を出し抜く。
完全フリーとなった玖城がダンクに向かうと、それを横から叩き落とす手があった。
「アウトオブバウンズ、黒ボール」
「そう簡単にこの流れは断ち切らせないデス」
玖城のダンクを防いだのは木谷だった。
「いいね、いいね、サイコーだよそういうの。もっと頂戴よ、アンタの強さをさ」
「不気味な人デスネ」
尚も天ノ星のオフェンスは続く。
今度は守城にボールが渡る。
「動きが散漫になってるぞ」
木谷の明らかな消耗を見抜いた守城は手加減することなく木谷を抜き去ってしまう。
「しまったデス!」
「いかせないっす!!」
若林がブロックに跳ぶが、そんなことはお構いなしにジャンプシュートを決めた。
「あの15番が入ったことで、ドリブラーが2人になったのは流石に不味いな。どうにか木谷が対応してくれているとはいえ、木谷の消耗具合を見ても、そう長くは続かないだろう。どうにかして打開しなくては」
玖城の投入によって試合の流れはまた違う局面を迎えようとしていた。
守城と玖城の連続攻撃、そして天ノ星というチームはエース以外の選手たちも、地方予選や県大会レベルのエース以上の力を持っており、ただでさえ守城と玖城だけでも手をつけられないというのに、勢いに乗った天ノ星を止めることなど、不可能に近い状態となっていた。
第3Qが終了し、ベンチに戻る翠央、木谷はベンチに戻るなり、座り込んだまま動かなくなってしまった。肩で息をしているところからも、これまで以上に辛い局面であることが窺えた。
「多種多様な攻撃パターンを持っている天ノ星を倒すことはやはり至難ということなのかねえ……」
この展開には監督の東堂も肩を落とした。
「はあ、はあ、諦めるのは……まだ早いデス……はあ、はあ、」
「木谷………」
「まだ試合は……終わってない……デス……」
「だが、今のお前を持ってしても」
上木は途中で言葉を途絶えさせた。
「まだ手は残ってるデス!!」
木谷がバッと立ち上がり、上木の胸ぐらを掴んだ。
「頑張れば勝てるはずデス!!!」
「木谷、お前……」
「このまま終われないデス………」
「翠央、ここで落とすには本当に惜しいチームだ。これは実質、全国大会決勝と言ってもいい試合だと俺は思っているよ。正直、県大会はエースを温存しても勝てると思ってたが、まさか守城だけじゃなく、玖城まで引っ張り出されるとは思いもしなかった。強かったよ、翠央。だが、ここで終わりだ。いいかお前ら、第4Q、15点差でも油断はなしだ。さらに点差を広げていくぞ。敵は虫の息だ。ここでしっかりとトドメを刺して、インターハイへの弾みにする」
菊川は勝っていなくとも、まだ勝敗はわからなくとも、兜の緒を締めたのだった。




