第55Q SuiO vs Amanoboshi Part 9
ストレッチ4とは---
基本的な5つのポジションから派生したポジションの1つであり、パワーフォワードのことを指して呼ぶ。
ポジション、または戦術とも呼べるこのストレッチ4は、本来ゴール下やインサイドプレーで仕事をするパワーフォワードがアウトサイドからスリーポイントやミドルシュートを狙ってくるというもので、ストレッチ、つまり伸ばすという意味合いの通り、インサイドに凝り固まったディフェンスを外からの攻撃で外へと引っ張り出すという効果が見込まれる。
そして4というのは、バスケットボールにおいて5つのポジションは背番号とは別の数字で呼ばれることもあり、ポイントガードを1番、シューティングガードを2番、スモールフォワードを3番、センターを5番、そしてパワーフォワードが4番となる。ストレッチ4の4はパワーフォワードのことを指しているのである。
「おお、おお、帰ってきたら凄いことになってんのな」
神坂先生がとてもスッキリした表情で観客席に帰ってきた。
「よくもまぁ、そんな長々とトイレにいられたわね。逆に凄いわよ」
呆れたように言う。
「まぁまぁ、ここからはちゃんと観るって。どうせいずれは闘う相手なんだしな。翠央も、天ノ星も」
そう言って観客席に腰掛ける。
「ふーん、でも、なんか意外だわ」
「何がだよ?」
「一絵が監督をやっていることがよ」
「そうか?」
「そうよ。一絵ってどこからどう見ても、そういうことをする人じゃないもの。似合ってないわよ? 居酒屋で飲んだくれている方が貴女らしいわ」
「それは私もそう思う。できることなら毎日飲んで遊んで暮らしたいよ。でも、働かないと金がねえんだよ。お前と違ってな」
「あははっ、私というよりは実家がお金持ちなだけだけどね」
「そうだったな、お前ん家は相当デカいもんな。なんたって天下の剣崎家だもんな」
「そうよ」
剣崎栞はニヤリと、ニタリと、笑ってみせた。
「ところで、お前の気付いてるか? この試合、妹も来てるぞ」
「ええ、さっき貴女がトイレに行っている間に気付いたわよ。でも、あの子はあの子なりの道を歩んでいるみたいだし、それはそれで良いことなのかもしれないわ。あの子は剣崎家には相応しくないもの。だから、そういう観点では一絵がバスケの無名校に引き取ってくれたのは、私としては感謝すべきことだわ。まぁお母様はカンカンだけども」
「だろうな、剣崎家はそのお母様とやらが、お前らの人生を狂わせてんだろうからな」
「ええ、そうね。狂ってるわ、あの家も、あの母親も」
そう話す剣崎栞は神坂先生を一度も見ない。見向きもせず、コートを眺めている。試合を見つめている。
「そう考えるなら、あの母親に染まらなかった湊ちゃんはある意味では普通の女の子なのかもしれないし、一番幸せなのかもしれないわね」
「お前だって今からでも遅くはないんじゃねぇのか?」
「遅いわよ。北皇に入ったあの日から、もう手遅れなのよ。私は……」
「そうかよ、まぁ飲めよ」
影を落とす剣崎栞に神坂先生は缶ビールを手渡す。
「貴女、また飲むの?」
「っったり前よ!! こんな人生、飲んでなきゃやってられないっての!」
カシュッウゥ。
神坂先生は缶ビールを開けると、ゴクゴクと飲み始める。
「それもそうね」
剣崎栞が缶ビールを一気飲みすると、席を立ち上がった。
「ん? なんだよ、急に立ち上がって」
「私、もう行くわ」
「妹には会って行かないのか?」
「ええ、きっと湊ちゃんは私になんて会いたいと思っていないもの。だから、一絵からよろしくって伝えといて」
「わかった、お前も試合、頑張れよ」
「さんくー」
剣崎栞は振り向くことなく手を振って、体育館を後にしたのだった。
そんなこの人たちどんな関係なんだよというやり取りの中、翠央と天ノ星の激戦は続いていた。
「速攻!」
木谷がドライブで攻め込むと、守城がヘルプに現れる。守城を十分に引きつけ、引き寄せ、上木にパスを出す。
「ナイスパスだ、木谷!!」
上木がスリーポイントを決めた。
「木谷ちゃんのインアウト、どちらもこなせる攻撃力は決して無視できない。だから、ヘルプに行くしかない。そこを上手く利用して上木ちゃんがスリーを決める。これが本来の翠央なんだよねぇ」
「んとに、あのジジイ、とんでもない伏兵を用意してやがったな。切るか、新しい一手を」
東堂の戦略に押され始めた菊川はベンチの玖城を見た。
「ゴリラのスリーだけが脅威ではないデス! こっちもいるデス!!」
今度は上木のスリーをフェイクにディフェンスを出し抜き、木谷がダンクシュートを決めた。
点差が目に見えて縮まり始める。
上木と木谷の連携に勢い付いた翠央メンバーは、次々と追加点を量産していった。
「なるほどなー、これが翠央の底力ってわけね」
芦屋は思った。
そしてもう一つ思った。
「あの7番の子、誰かに似ている気がするのは気のせいなのかな?」
それと同時に守城も同じようなことを考えていた。
「似ている、アイツに。よく似ている」
「よし、10点差だ! ここが正念場だ!! いくぞ!!」
第3Q、流れを掴んだのは翠央だった。
翠央と天ノ星の試合を書き終えたら、少し休載しようかと考えています。
それでは今回も読んでいただきありがとうございました!
感想等もいただけるとかなり嬉しいので、お待ちしております(笑)
次回もお楽しみに!!




