第53Q SuiO vs Amanoboshi Part 7
守城が出場してからというもの、一度は翠央に傾き始めていた流れは完全に断ち切られ、天ノ星が流れを支配していた。
「たった1人が入っただけで、ここまで流れが変わるなんて。これが神坂先生の言っていた7番、エースの力ということなのでしょうか?」
試合を観て、剣崎はなんとも言えぬ表情を浮かべながら、そうボクに尋ねた。
「チームを勝利に導く絶対的な存在、勝利の象徴……。多分、それがエースなんだよ」
「守城、実力はもう完全に全国レベルだな。あんまり自分のところの部員を褒めたくはないが、あの実力なら女子高校バスケだけじゃなく、男子を含めても日本トップクラスのプレーヤーだろうな」
菊川は顎を撫でながら、そんなことを呟いた。
シュート一本分まで迫っていた点差も今では、20点差まで広げられてしまっていた。
「タイムアウト、白」
見かねた東堂がタイムアウトを取る。
タイムアウトとはボールがコート外に出た際に、監督やコーチが電子タイマーの操作員に申請することで、試合を中断させ、作戦を立て直すことのできる、ちょっとタンマ!! 制度である。
タイムアウトに与えられる時間は1分間であり、前半に2回、後半に3回と、1試合において5回使用することができる。
しかし、だがしかし、繰り越しはできないため、仮に前半は全くタイムアウトを取らずに、後半に入ってから5回を使うことはできない。
「うーん、ちょっと思ったよりも相手のエースが強過ぎるよねぇ。困ったなぁ」
東堂はわかりやすく頭を抱えた。
「どうだい、木谷ちゃん? 勝てそうかい?」
「………ワカラナイ……デス……」
動揺を隠せない木谷はいつも以上にカタコトな言葉を紡ぐ。
「タダ……」
「ただ? なんだ木谷?」
タイムアウトが終了し、試合が再開される。
再開早々に木谷がボールマンとなった。
木谷の前には守城が当然のように立ち塞がる。
「勝つためにできるコト……」
守城は木谷の視線の動きを見逃さなかった。木谷の視線の動きが自分の斜め後ろを見ていることに気が付いた守城は思った。
「パワーフォワードの方を見ている。パスか? いや、視線フェイクからのドライブ? 矢田さんが振り切られたということか? それともスクリーン? どう来る?」
決して大きな動きではない。極々小さな、視線の動き、身体の動き、つま先の動き。どんなに小さな動きであっても、守城は見逃さない。
「見逃しはしない、決して。油断して倒せるほど、お前は弱くないんだろう? その背番号をつけていいうことは」
守城が木谷の視線の動きに考えられるありとあらゆる攻撃パターンを予測する。思考する。
「守城! スクリーンだ!」
「やはりか」
守城の死角から上木がスクリーンを仕掛ける。神木のスクリーンの動きに合わねて、木谷もドライブに入る。しかし、だがしかし、それを読んでいた守城は上木のスクリーンを躱し、木谷のディフェンスを何事もなかったかのように続けた。
「スクリーンを避けるだと!?」
「そんなバカなデス!!」
「悪いな」
木谷のボールをカットし、守城がカウンターに走る。
「ここから先は通さないっす!!!」
「それはどうかな」
右への切り込みに若林が対応しようとすると、その裏をかいた切り返しで左へと転換する。その切り返しの速さに若林は崩され、尻もちをついた。
「なんでっすかぁああ!!」
そして守城はダンクシュートを決めた。
天ノ星の一方的な試合が展開される。何度抜かれようとも、何度負かされようとも、何度も何度も木谷は守城に挑み続けた。
第2Q、タイムアウトでのこと---
「タダ……」
「ただ? なんだ木谷?」
「少し時間が欲しいデス」
「どういうことだ?」
「あの7番のドライブ、確かに速いデスが、もう少しで慣れるデス」
「慣れるだと?」
「そうデス。だけど、あと少しなのデス。もう少しあの7番の動きのパターンや癖を見たいデス。それまで持ち堪えて欲しいのデス」
「わかった。お前に任せる」
上木は木谷の提案に迷うことなく、一瞬たりとも考えることなく、即答してみせた。
「上木ちゃんはそれでいいんだね?」
あまりにも早く答えるものだから、思わず東堂も聞き返してしまう。
「はい。木谷の準備が整うまでの間、私たちが天ノ星の猛攻に耐えれば良いだけのことなのでしょう。そこまで難しいことではありません。仮にここで持ち堪えられずに木谷任せで負けてしまうのであれば、遅かれ早かれ翠央は負けてしまうでしょう。私たちが勝つには私たち5人で頑張る必要があるのです。だから、木谷。それまでは私たち4人で持ち堪えてみせる。お前はお前の仕事を成せ」
「任せてくれデス!!」
守城のオフェンス、木谷は集中力を高めていく。
「気のせいか? いや、少しずつだ。少しずつだけど、確実に私のスピードに追いついて来ている?」
「どうしたデスカ?」
2人の向き合う姿を見て、菊川は焦りの色を浮かべる。
「こりゃあ、不味いことになったかもしれんな」
わかっていても、第2Qは残り数秒で終わる。手の施しようがない。
「なら、望み通り何度でも倒してやる!」
守城は持ち前のドライブで木谷を抜き去った。だが、まだ2人の戦いはゴールが決まるその瞬間まで終わっていない。
守城が抜き去ったそのすぐ後、その直後、木谷は後方へと手を伸ばし、ボールをスティールをしてみせた。完全とは言えないが、その手は確かにボールに触れ、ボールに手が触れたことで守城のドリブルのリズムが崩れ、ボールは生き物のように守城の手から離れていった。
「なに!? 追い付かれた!?」
そしてボールを若林が拾い上げたところで、第2Qは幕を閉じることになった。
10分間のインターバルに突入し、両チームの選手たちは控え室に戻ることなった。
「はあ……はあ………」
控え室に備え付けられているベンチに腰掛けたまま、木谷はピクリとも動かない。
「凄い消耗だ。あの7番と渡り合うのはやはり相当な体力を消費するのか………」
上木はただ見守るしかなかった。
「監督、少し外に出てもよろしいですか?」
「うん、構わんよ」
上木は控え室を出た。




