第52Q SuiO vs Amanoboshi Part 6
「いいんだな?」
「ああ、流れが翠央に傾き始めている。流れをうちに戻す必要がある。あの7番をぶっ倒して来い。お前に求めるのはそれだけだ」
「了解した」
守城はジャージを脱ぎ、ユニフォーム姿になった。
そしてタイマーに声をかける。
「交代、お願いします」
公式戦においての選手交代はコート付近にいる電子タイマーを操作している操作員に申請することで、ボールがコート外に出た際に、交代が行われる。
「アウトオブバウンズ、黒ボール」
そしてタイマーが鳴らされる。
「交代、黒」
タイマーのコールと共に守城がコートへと入る。
「明智さん、交代だ」
「ええ、もう?」
「はい」
「仕方ないなあ、んじゃあ、あとは任せたよ」
「任された」
守城と明智がバトンタッチして、交代を完了させた。
選手交代
明智 → 守城
選手プロフィール
天ノ星学園
守城祐歌 7番 175cm Swingman
Swingmanとは、バスケットボールにおけるポイントガード、シューティングガード、スモールフォワード、パワーフォワード、センターの基本的な5つのポジションから派生したポジションの1つで、別名ガードフォワードと呼ばれるポジションでもある。
スモールフォワードとシューティングガードの仕事を同時にこなすことを求められるポジションであり、逆に言えばこのポジションについている選手というのは、フォワードが本来持っているドライブによる突破力と、シューティングガードの強みである精度の高いアウトサイドのシュート力のどちらも併せ持っているということになる。
つまり何が言いたいかというと、強敵であることに間違いはないということである。
「やはり出てきたか。天ノ星の7番……」
上木が見据えるその先には背番号7番を付けた守城の姿が映っていた。
守城がコートに入ったことで、さらなる緊張感がコートを支配し始めた。
「天ノ星のエース。天ノ星は部員数が100を超えている。現にベンチ入りできていない殆どの選手は観客席からの観戦をしている。つまり天ノ星は3年生から1年生まで凄まじい選手層を誇っているということだ。そんな中で勝ち取られた2年生エース、その実力は………。気を引き締めていくぞ!!」
想像するだけでも鳥肌が立つ。ましてやここまでの試合展開もエースを抜きにした状態でも、どうにかく互角に戦えていたというのにだった。そんな恐怖を抑え込みながら、上木は声を張り上げた。
ボールが芦屋から、
「話が早くて助かるデス」
「私もそう思うよ」
そしてボールが渡った先で、会場はザワザワとざわめき出した。
「7番同士のエース対決……」
「一体、どちらが勝つのでしょうか……」
ボクと湊もまた固唾を飲んで両エースの1on1を見守っていた。
ボールマンである守城の細かな動きから、木谷はいくつもの攻撃パターンを予測する。
「右か……左か………」
「いくぞ、勝負」
守城が一言そう言った時には、木谷は既に抜かれた後だった。
「エ………?」
「木谷が一歩も動けなかっただと!?」
あまりにも一瞬の出来事で、まだ何が起こったのかわからない状態であった。
だが、抜かれても木谷は諦めておらずバックチップを狙う。
バックチップとは抜かれた後に、背後からボールをカットすることを言う。
しかし、だがしかし、そのバックチップですらも守城は鮮やかに躱し、インサイドに侵入した。
すぐさま上木がヘルプに向かうが、木谷を上回るキレのあるストップ&ジャンプシュートで得点を決めた。
「間に合わなかったか……。よし、すぐに取り返すぞ! 流れはまだうちにある! 攻めて流れを引き戻すぞ」
翠央のオフェンス、ドリブルで佐伯が運ぶ。
佐伯が松風にパスを出したところを、パスコースに守城の手が伸び、パスカットされてしまった。
「なんと!?」
「嘘でしょ!? スティール!!?」
そして守城がドライブで先行する。
「戻れ! ここは死守だ!!」
若林と松風のダブルチームで守城のディフェンスにあたるも、2人のディフェンスなどはなからなかったかのように、2人の決して緩くない、甘くない、ディフェンスを、いとも簡単に、いとも容易く、躱してゴールを決めた。
翠央のリスタート、ボールは佐伯から木谷へとまわる。
「今度はこっちの番デス!」
「来い」
全くと言っていいほど、無駄のない守城のディフェンスに、木谷はありとあらゆる攻めの手段を模索する。
「左にフェイク、クロスオーバーで右!」
木谷は左手でドリブルを行い左方向に切り込むフェイクをかけると、フロントチェンジで相手を出し抜くために右手にドリブルを入れ替えて、交差するように切り込んだ。
クロスオーバーとはその名の通り、ディフェンスを抜く際に、左に行くと見せかけて右にドライブを切り替える、またはその逆パターンで行われる技で、ドリブルの手を左右に持ち替えるフロントチェンジの応用技で、スピードに乗せ、足の踏み込み方、身体も左右に振り切ることで、より相手を出し抜きやすくするテクニックである。
このキレのあるクロスオーバーでどんな相手も倒してきた。木谷の全力の、フルパワーの、ドライブ、フルドライブ。
だが、守城は目の前に立っていた。
抜いたはずの、抜けたはずの、守城が目の前にまだ立っていた。
「あり得ない………! 木谷のドライブを持ってしても、天ノ星の7番は倒せないというのか!? 木谷! こっちだ!」
木谷が1on1で敗れたという事実に動揺しながらも、キャプテンとして、上木は次の一手を考えて木谷にボールを要求する。
ボールを上木に出そうとしたその刹那、再び守城のスティールが割り込んだ。
「動きが散漫になっているぞ?」
「!!!!」
ドライブで駆け上がる守城の前に上木が立ち塞がる。
「これ以上はやらせない!!!」
守城は木谷よりも遥かにキレのあるクロスオーバーで右から左へとサイドチェンジするが、上木はどうにかそれに追い付いてみせたが、ここから守城はさらにレッグスルーで左から右に切り返した。
ドリブルの持ち手を変えることで進行方向が変わることから、サイドチェンジと呼ぶこともある。
レッグスルーはフロントチェンジのように持ち手を変える技の1つで、フロントチェンジは相手の目の前でV字を描くようにドリブルして持ち替える技になるが、このフロントチェンジはドリブルスピードを速くしなければ、V字を描くコースを読まれてしまうと容易にカットされてしまうことがある。
それに比べてレッグスルーとは、左右どちらかの足が前に出ている状態で、股を通してサイドチェンジする技である。股を倒しているため、カットされる確率が格段に下がるのである。
またフロントチェンジの相対として、バックチェンジも存在し、相手と向き合ったまま、自分の身体の後ろでV字を描いて持ち替えるという技もある。
止まった状態でただ股を通すだけのレッグスルーではなく、スピードに乗った走りながらのレッグスルーのキレは凄まじく、右左と、左右に揺さぶられた上木は頭では分かっていても、理解していても、身体が守城のドライブテクニックに追い付かなかった。そして体勢が崩れ、上木は尻もちをついた。
「くそぉお!!」
高度なドライブテクニックによる左右への揺さぶりは、相手の重心を不安定にさせ、相手の体勢を崩すことがある。
人によってはだが、オフェンスとディフェンスの実力差があった場合にも起こると言う人もいる。
人はそれをアンクルブレイクと呼ぶ。
木谷は敗れ、上木は崩れた。ディフェンスはまだ間に合っていない。
守城は完全なるフリーの状態でスリーポイントを決めた。




