第46Q SuiO High School
「Oh no〜!!」
とある学校の体育館にカタコトな日本語が響き渡っていた。
「木谷! 待て!!」
「嫌デス!」
いつものように上木と木谷が何やら騒がしい。
そう、ここは翠央高校の体育館である。
翠央高等学校、桜辰女子や吉美、上仙、そして天ノ星と同じ県内にある公立高校。
偏差値は少し高めで、学問とスポーツの両立、文武両道を学校側が掲げているそんな学校。
故に、それ故に、学校がそういう教育方針を取っているがために、部活動への入部は全生徒強制となっている。
しかし、だがしかし、誰もが文武両道などできるわけもなく、部活動は必ずしも運動部に入らなければならないというわけではない。
なので、だから、それなので、それだから、運動が苦手な生徒は文化部に所属しているのが殆どである。
そんな勉強も部活も手を抜かない翠央高校の全生徒の代表、生徒会長を務めるのが、何を隠そう上木やちよなのだった。
上木やちよ。生徒会長にしてバスケットボール部の部長でもある、まさに翠央高校が望む文武両道の完成形にして、生徒の見本、生徒の模範と言える完璧な女子生徒。それこそが上木やちよなのだ。
また女の子にしては高めの身長と、バスケットボールにおいてゴール付近、パワーフォワードで仕事をするということもあって、色々と考えられた上で、考慮された上で、周囲からはゴリラと馬鹿にされることが多い。
「やーい、ゴリラ!」
「コラ待て! 木谷!」
ゴリラと馬鹿にされがちな上木だが、実は目鼻立ちはかなり整っており、背が高いことも相まって、まるでモデルのようなプロポーションをしているのだが、一度ついてしまった汚名はなかなか払拭できないということなのかもしれない。
そんな上木を要する翠央高校バスケットボール部は決して部員数が多いわけではない。それこそ昨年度の県大会では準優勝という結果を残してはいるものの、推薦入部という制度がないこともあって強い選手が確実に入ってくるわけでもなく、強制入部制でありながらも、部員は毎年10人は入らないという人気の無さであった。
人気のないバスケットボール部を指導するのは、東堂茂雄という白髪のお爺ちゃん。
温厚な見た目を裏切らない温厚な性格であることから、部員たちからも人気が高い。神坂先生とは雲泥の差である。
しかし、だがしかし、ただ優しいというわけではないのが、またこの人の魅力なのだろうか。
「それじゃあねえ、コートダッシュ、うーん、とりあえず、200にしとこうか」
意外と鬼である。
「もう無理デス……」
木谷が膝から崩れ落ちた。
「木谷ぃい! へばってないで早く立て!」
そんな木谷を無理矢理、床から引っぺがすかのように腕を引っ張り上げるのは、いつも上木の役目のようだ。
「まったく、2年生のお前がそんなのでどうする。1年生に示しがつかないだろう」
「示しなんてつける必要ないデス」
「お前なぁ……」
上木は頭を抱えずにはいられない。
「ようし、それじゃあ、一旦集合しようか」
東堂が集合を呼びかける。
部活動とはその学校ごとに同じスポーツをしていても、部員や監督が違うだけで雰囲気も大きく異なる。
全力ダッシュで集合する天ノ星とはまた打って変わって、翠央はのんびりと皆が焦ることなく集合する。監督はそれを見ても何か怒るわけでもない。
しかし、だがしかし、監督の代わりに声を張り上げるのが、部長である上木だったりする。
「お前たち! 何をのんびりとしているんだ! 走って来い!!」
優しい監督の代わりに厳しさを持ってチームを牽引しているということなのだろう。
「うむ、みんな集まったね? さて、いよいよ夏の県大会だね。去年もうちは天ノ星に敗れて準優勝で終わってしまったね。今年はその雪辱を晴らそうねえ。それでこれが今年のトーナメント表だから、みんな目を通してね」
東堂が人数分刷ってきた紙を部員たちに配る。
「見てもらうとわかるんだけど、初戦の相手は上仙だね。まぁ足元すくわれないように油断せず行こうね。そして順当に勝ち進められれば、天ノ星と当たることになる。でも、ワシは実はあんまり心配してないんだよねえ」
「?」
上木は東堂の本当に心配していないような言葉運びに、なんとも言えぬ表情を浮かべた。
「だって、うちには頼りになる上木ちゃんもいるし、木谷ちゃんもいる」
「イェース!」
「木谷、調子に乗るな! 監督も木谷を調子に乗せないでください!」
「ごめんごめん。それに佐伯ちゃん、若林ちゃん、樋口ちゃんに渡辺ちゃん、松風ちゃんもいる。今年は翠央史上最強の布陣だから。何にも心配してないよん。今年こそお空のお星様を落としてくれよう」
「はい!」
優しくも闘志が込められた東堂の言葉にチームの心は一つとなった。
翠央と天ノ星、まるで違うスタイルのチーム。実力はどちらも全国レベル。しかし、だがしかし、同じ県内に存在してしまったがために、どちらかはインターハイ本戦に出場することなく散ることになる。
決戦の時は刻一刻と迫っていた。




