第41Q vs Yoshimi Part 10
お互いの思い、技術、全てを賭けて行われた地区予選のこの試合。
きっとこんな試合なんて強豪校からすれば、なんら取るに足らない試合だったのかもしれない。
けれど、だけれど、それだけれど、この40分間の闘いは、ボクたちにとってはとても大きな意味を持った試合だったのだ。
創部、3年間の集大成、減給、部への昇格、ありとあらゆる思惑がコートには渦巻いていた。
そう、ティップオフのその瞬間までは。
そしてティップオフ、試合が始まってからはそんな邪念や、余念は消えてなくなっていた。
勝ちたい。ただ勝ちたい。ただただ勝ちたい。
目の前の相手に勝って、この先に進みたい。まだ見たことのない景色を見るために、目の前の壁を越えたい。超えなければならない。でなければ、見たい景色を見ることは永遠に叶わない。
その一心で40分間という長いのか、長かったのか、短いのか、短かったのか、今でもよくわからない時間を走り抜けたんだ。駆け抜けたんだ。
最後の方なんて、あとどれくらいで時間が残されていたかすらも忘れて夢中で走っていた。
そんな中、唐突にその音が鳴り響いたんだ。
ブビィイイイイイ---
電子タイマーから発せられるうるさくて、機械的で、鈍いが体育館全体に終わりを知らせるのにうってつけの電子音。
それが鳴り響くと、勝つためにボールを追いかけていたはずの誰もが脚を一斉に止めた。
あんなにも盛り上がっていたはずの観客たちもこの一瞬だけは静まり返った。体育館が静寂に包まれた。
そしてコートの中にいる10人のうち、5人は歓喜の声を上げ、もう片方の5人は敗北の悔しさを噛み締めることになった。
「勝った……。やった……勝った!! 勝ったぞ!!!」
「麟ちゃん、やりました! 私たち勝ちましたよ!」
湊が勢いよくボクに抱きついてきた。抱きついてきたというのか、飛びついてきたというのか。
「やったんだね、私たち勝ったんだね…」
「ふう、やったぜ」
「なんとか勝てたな」
疲れ方、喜び方、その全てが全国大会の決勝戦くらいのテンションだった。
まだ地区予選の1回戦だというのに、これからまだまだ先は長いというのに、こんなんで大丈夫なのだろうか。
でも、それでも、今だけは目の前の勝利を喜んでもいいと思う。勝利は喜んでこそだ。この勝利を喜ばなくていつ喜ぶというのだ。
その一方で吉美の選手たちは---
「負けた………私たちの夏、終わったんだ…………」
「塩山、お疲れ」
「キャプテン、お疲れ様でした!」
「お疲れ様」
吉美の選手たちがそれぞれにキャプテンである塩山に労いの言葉を投げかけた。
それに対して塩山は、
「桜辰、強かったね。上仙以外にも借りができちゃったね。この借りは冬返そう。必ず、次こそ、最後のチャンス。ものにしよう」
「だね」
「次は倒しましょう! 桜辰も上仙も!!」
「次こそ勝つぞ!」
「「「「おう!!!」」」」
「整列、88対79で桜辰の勝ち。礼!」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
ベンチに戻ると神坂先生が当然待ち構えている。
「お前ら!!」
何故か凄みを帯びた神坂先生の声に誰もが身構えた。
「よくやったな。この勝利は一重に私のおかげだが、まあお前たちも褒めてやる。よくやった、偉いぞ。ただ、勝ったことで新たな道も拓いた。次の対戦相手は、このあと行われる試合の勝者のどちらかだ。地区予選第1回戦、吉美高校相手に残念ながらの接戦での勝利だ。喜びたいが、先のことを考えると素直には喜んでもいられない。対戦相手の偵察は私が行う。お前たちは明日の試合に備えて今日はゆっくりと身体を休めろ。以上だ、解散!!!!」
こうしてようやく試合が終わりを迎えた。
試合はどうにか勝利に収めたが、しかし、だがしかし、ボクの闘いはまだ終わっていない。
そう、着替えるしかないのだ。
40分間走り抜けたユニフォーム、ましてや皆さんお忘れかもしれないが、ボクは男であり、さすがに着替えないと臭くて仕方がない。仕様がない。どうしようもない。
だから、なので、それだから、それなので、着替えたいのだ。
どうにかして着替えなければならないのだが、
「どうしたものか………」
「ん? 麟ちゃん、どうかしましたか?」
「ああ、いや、なんでも!?」
「さあ、早く着替えて帰りましょう!」
湊がボクの背中を押す形で、強引に更衣室へと誘う。
「え、いや、それはちょっと……」
「んん? なんですか?」
「あー、いやー、なんでもないんだけどー」
「じゃあ、早く着替えましょう!!」
湊はボクを更衣室に押し込み、自分もユニフォームを脱ぎ始めた。
「やめてくれぇえええええ!!!」
ボクの心がそう叫んだが、もう遅かった。手遅れであった。
どうにか着替えを済ませることに成功はしていない。決して。成功はしていない。むしろ湊に無理矢理、更衣室に押し込まれたところから失敗している。
「なんか試合以上に精神使った気がするな……。ってあれ、皆は?」
大隈、漆原、相葉の姿がない。
「もう先に帰りましたよ?」
「早いなアイツら」
「私たちが少しゆっくりしすぎたのかもしれませんね。ふふ、さあ、私たちも帰りましょう」
「だな」
体育館を後にしようと歩き出すと、何やら、何処からか、声が聞こえた。
「うう……うえええん! 負けちゃったよぉおお!!」
よく、よくよく耳を澄ませると、そんな女の子の声が聞こえた。
「何か聞こえなかったか?」
「聞こえましたね」
ボクと湊は顔を見合わせた。
そしてフラッシュバックさせた、ハーフタイムでの出来事を。
まさかと2人で体育館の裏側を覗くと、案の定、塩山がコウ君と抱き合っていた。
そしてその後は言うまでもないだろう。
「ねえ、コウ君……慰めて……?」
「うん、いいよ」
試合に勝って、勝負に負けたとはこのことなのか……………。




