第40Q vs Yoshimi Part 9
第4Q---
最後の大一番に臨む10人がコート上に出揃う。
最後の先攻は吉美から始まる。
これまでの第1、第2、第3も試合ということもあって、緊張感は漂っていた。しかし、だがしかし、今このコートの緊張感は、それまでの、これまでの比ではなかった。
塩山が審判からボールを受け取ると、山谷にボールを出す形で、試合を再開させた。
「これが最後の大一番、なら!」
山谷に渡ったボールを、再び塩山が返すように要求する。
「麟ちゃん! スクリーンにいきました!!」
「わかった! スイッチだ!」
湊の顔は見ていない。
確認していない。
全てはこの会話のみ。
スクリーンということは、どこかでもあったように、ボクの斜め後ろの死角には、足止めするための選手が控えていて、フリーになったところを塩山がお得意のスリーを打つという手筈なのだろう。
それをいち早く察知した湊からの合図。
ならと、ボクはあえて塩山を追わず、ドリブルでボクを躱そうとする塩山を見送る。
スクリーンの大勢で待ち構えていた榎本もこれには、
「え、動かない!? これは不味いかも!!」と、そうよぎらずにはいられない。そして塩山がボールを両手で持ち、シュートモーションに入り、シュートを打つために跳んだところに、榎本が叫んだ。
「待って! これは何かがおかしい!!」
しかし、だがしかし、身体は既にシュートを打ちかけている。そこから着地してしまえば、ボールを持った状態で歩いたバイオレーション、つまりトラベリングという反則を取られることになる。
バイオレーションとは、バスケットボールにおける相手に害をなすファウル以外の反則の総称である。
ボールを持った状態で跳んでしまえば、着地するまでにパスを出すかシュートを打つ以外の選択肢が選べなくなるということ。
そんな駆け引きの中、塩山はシュートモーションを崩すことなく、スリーポイントシュートへと向かった。
「ダメェええ!!」
そんな榎本の声はもう塩山には届かない。
次の瞬間、塩山が放ったシュートは地面に叩き落とされる形で阻止されることになる。
塩山のシュートをブロックしたのは、ディフェンスを交代した湊だった。
そう、ボクは信じることにしたのだ。湊の跳躍力ならば、塩山のスリーポイントをブロックできるのではないかということを。
そして見事にそれを成し遂げてくれるのが、湊だった。
弾かれたボールを相葉が丁寧に拾い上げる。
「速攻…!」
「よし! いくぞ!!」
相葉は漆原にパスを出した。
漆原のドライブでディフェンスに戻っていたはずの松田をあっさりと抜き去る。
「速い!!」
「まだだ!!」
次に立ちはだかったのは、馬場だった。
馬場はとても凄みのある気迫で漆原の前に立ったが、漆原はそんなことに構うことなく、馬場に向かっていく。
そして抜くか抜かないかのギリギリの距離の中、漆原はボールを掴み、ノールックで、一度も振り抜くことなく、ボールを真後ろに投げた。
そのボールの先にはボクがいる。
「ナイスパス!」
落ち着いてシュートを決める。ディフェンスのいないフリー状態ならば誰だってできる簡単なフリーシュートだった。
「くっそ! やられた!」
「切り替えよう! まだ時間は残ってる!」
塩山の代わりに榎本がチームを牽引する。
吉美の攻撃、山谷から塩山へとボールが渡り、塩山から榎本へと移っていく。
「私たちはまだ終わってなんかいない!!」
榎本がドライブで漆原を抜きにかかる。
「甘いんだよ!! そんなドリブルじゃウチは抜けない!!!」
榎本のドライブをスティールしてみせる。
「走れ! 速攻だ!!」
漆原が野球投げでパスしたボールを、またしてもボクが受け取る。今度はスリーポイントラインで。
「止める!!」
しかし、だがしかし、塩山が既に戻ってきていた。
それでもボクはシュートをやめない。ボクのシュートが決められると思ったからじゃない。この一連のシュートが決まると思ったからだ。
「これってまさか!!!?」
「そう、そのまさか」
ボクがボールを放った先には湊が走り込んでいた。
そして湊はタイミング合わせてジャンプすると、空中でボールを掴み、ダンクシュートとしてゴールリングに叩き込んだ。
このシュートが決まった時、この瞬間、その瞬間、あの瞬間、これまでも沸き立っていた試合会場が、これまで以上に最高潮の盛り上がりを見せてくれた。
「アリウープだ!!!!」
「スゲェ!! アリウープだ!!」
「まさか地区予選でアリウープが観れるなんて!!」
「やっば!! 鳥肌立った!!」
アリウープとは1人の選手がボールをゴール付近にリリース、パスし、もう1人の選手がそれを空中で受け取り、ダンクシュートなどでゴールする高等テクニックのことである。
まさか練習もなしに、ぶっつけ本番で成功するとはボクも思わなかった。
そして翠央の2人も、
「ほう、アリウープなんて随分と粋なことをするようになったなアイツらも」
「こんな試合見てたら私も早く試合がしたくなってきたデス!! もう居ても立っても居られないデース!!」
「そうだな。私もバスケが無性にやりたくなったよ。そろそろ行くか、1番の見どころは観れたようだし、もうこの試合の結果はわかった。あとは、自分たちの試合に備えるとしよう」
「OK!! これからがお楽しみの時間デス!」
上木と木谷は試合終了を待たずして、会場を後にするのだった。




