第39Q vs Yoshimi Part 8
吉美高等学校---
学校自体が創立してまだ3年という、とても新しい学校である。ペンキも色褪せてはいない黄ばみや苔など一つもない白い校舎。
そんな吉美高校創立の年、我こそはと記念すべき一期生として入学したのが、塩山だった。
できたばかりの部活ならまだしも、学校自体ができたばかりともなれば、なかなかにことが上手く進まないものであった。
「せっかくだし、バスケ部を創ろうかな」
そう意気込んだのはいいものの、不便も不便、不便すらも不便。
必要な道具も揃っていなければ、部員も集まってこない。
「うーん、やっぱり女子バスケって人気ないのかな………」
それもあったかもしれないが、それだけでもなかったのだった。
どういうことか、それはどういうことかというと、部活をするということを考慮した上で学校を選ぶとなれば、あえて部活を立ち上げるという観点にはならないのである。
ちゃんとスポーツに打ち込むのであれば、やはり基盤のしっかりとした名門校を選ぶのが人なのである。
餅は餅屋という言葉までのことでもないが、つまりはそういうことであり、創立したばかりの吉美高校にそこまでを望んでいる生徒自体が少なかったのだ。
それでもどうにか、どうにかこうにか、創部したバスケットボール部だったが、顧問も無理矢理押し付けられたような先生であるが故に練習の指導などあるはずもなく、塩山は中学時代のバスケ部の練習や、ネット動画で調べた練習方法をとにかく実践した。
そんなある日のこと---
「へぇー、バスケ部なんてあったんだ」
塩山の練習を見ていた、のちに副部長となる榎本が塩山に声をかけてきた。
「一から始める部活ってのもなんか粋だね! よし、私も入るよ!」
「ほんと!? ありがとう!!」
こうして2人になった吉美女子バスケ部は勢いに乗り、練習の合間を縫って、学校の休み時間を利用して、勧誘に力を入れた甲斐あって、部員たちも1人、また1人と集まっていった。
そしてついに5人が揃い、初めての公式戦にも出場するまでになった。
結果は惨敗だったものの、一から自分たちで始めた部活がここまできたことが、既に何よりの喜びであった吉美女子バスケ部は、負けたはずなのに笑顔で満ち溢れていた。
「なんであの子たち笑っての? え、私たち勝ったよね? え、どういうこと?」
吉美高校の選手たちがあまりにも楽しげに笑うものだから、勝ったはずの対戦校が思わず困惑してしまう。
「よし!! 来年は勝つぞ!!!」
「「「おー!!!」」」
翌年、2年生になった塩山たちはインターハイ予選県大会出場を目標とし、練習に励む。
目標に向かう過程で、1年生たちも同じ夢に向かって入部してきた。その中には馬場もいた。
元々からある他校のバスケットボール部と比べればまだまだ発展途上の部ではあるが、それでもあの時の1人しかいなかった頃のバスケ部とは比べなのにならないくらいに部活動らしさがそこには、体育館にはあった。
「私、この皆で勝ちたい」
それが塩山の夢だった。
ただ、ただただ、力で勝ちたいのではない。
「決して楽な道のりじゃなかったけど、こうして集まってくれた皆とだから、勝ちたい。今年は無理でも来年は必ず!」
「何やる前から諦めんてのよ?」
「そうですよ、部長!」
「勝てるなら今年勝った方がいいわ」
「皆……」
その年のインターハイ地区予選、対戦したのは上仙高校。
上仙高校は歴史のある学校で県大会の常連校であった。吉美高校が目標である県大会に出場するには、この上仙を倒す以外に道はなかった。
どうにか地区予選会決勝まで上り詰めた吉美だったが、最後に待ち構えていた上仙という壁はあまりにも高かった。
「負けた………!!」
この日まで全てを賭けてきただけに今回の敗北は悔しくて仕方がなかった。仕様がなかった。
自然と、意識せずとも、吉美の選手たちからは涙が滲んでいた。
上仙との一戦からさらに練習に打ち込んだ。練習に励んだ。
そして迎えた冬の大会、ウインターカップ予選。
再び上仙と相対することになるのは、同じ地区にいる以上、避けて通ることは決してできない。
だから、なので、当然、必然的に、再戦することになる。
インターハイ地区予選からウインターカップ予選の数ヶ月間、ただ、ただただ、上仙という高い壁を越えるために頑張ってきた。
そうして迎えた一戦だったが、数ヶ月の努力で倒せるほど、上仙は甘くも、生易しくもなかった。
それもそのはずだ。
何故なら対戦する相手も同じように、上仙も同じように、誰もが同じように、勝ちたいと努力し、上を、優勝を、目指しているのだから。
勝つためには、勝ち進むためには、平行線を辿るような努力ではなく、相手を上回る練習量が必要だった。
3年生の春がやってくる。
「これが最後の年だね」
「うん」
「高校最後のインターハイ地区予選。必ず突破して本戦に出ようね! 皆、こんな私に今までついて来てくれてありがとう。明日の桜辰戦は確実に勝って、上仙へのリベンジに繋げよう!!」
「「「「おう!!!」」」」
塩山の掛け声と共に円陣が組まれた。
スパッ---
「連続スリー!!!」
「桜辰の12番が爆発してるぞ!!!」
「あの子、誰だよ!!?」
「桜辰、開幕早々、逆転し返したぞ!!!!」
そして現在、吉美は上仙への挑戦の道が閉ざされかけていた。
「はあ……はあ……桜辰…‥強い!! でも、負けない! 負けるわけない! 勝ちたい気持ちは私たちの方が上なんだから!!!」
「私たちの3年間をぶつけてやろ。そして勝とう」
ベンチに座り込む塩山にそう言って手を差し伸べたのは、創部当初から共に頑張ってきた榎本だった。
「うん! 第4Q。皆、ここが最後の踏ん張りどころだよ! 行くよ!!!」
「「「「おう!!!!!」」」」
吉美の選手たちも第4Qに向けて、コートへと足を踏み入れる。
いよいよ最後の10分が幕を開けようとしていた。




