第34Q vs Yoshimi Part 3
松田は湊を前にして一歩も動けない。
先を読めば読むほど、湊の可能性に怯えて動けない。
松田は何もすることなく、ボールを山谷に戻そうと緩いパスを出してしまう。
しかし、だがしかし、その緩みを見逃すはずもない。見逃されるはずがない。
瞬発的にパスを遮ったのは、カットしたのは、漆原だった。
「遅えんだよ!!」
パスカットからそのままドライブで攻め上がる漆原の動きに合わせて、湊と大隈が攻め上がる。
漆原の前に榎本が立ち塞がると、漆原は迷うことなく、考えるなんて時間を設けることなく、瞬時に、瞬間に、前を走る大隈にワンバウンドでパスを出してみせる。
大隈はそれを冷静に決めた。
「ナイスパス………」
「おうよ」
まだ、未だ、いい関係が築けているとは言い難いが、勝ちたいという目的が同じである大隈と漆原の連携は完璧であった。
だが、バスケットボールというスポーツは、サッカーのように劇的なゴールが決まる度に試合を止め、ハイライトを観せてくれるわけではない。余韻に浸らせてくれるわけではない。
ゴールを決めても、決めても決めても、勝利を確信することはできないし、逆に決められたならばすぐに切り替えて攻め返さなければならない。
第4Q最後のブザーが鳴るのその瞬間まで、気を抜くことは許されない。
「ディフェンス!」
すぐさま自陣に戻り、相手のオフェンスに備える。
「連続得点……。試合はまだ始まって数分、まだ返せない点差じゃないし、焦るタイミングでもない。けれど、今の一連の攻めと守りで桜辰がどのようなチームなのかはわかった気がする。要するに、相手が歴戦の全国常連校であろうとも、創部して1ヶ月程度の新チームであろうとも、油断したら負ける! それがバスケットボールというスポーツなんだ」
塩山は心の中で、グッと慢心した気持ちを一蹴し、気を引き締め直した。
「みんな! ここからは油断なしよ!!」
塩山の呼びかけに吉美のメンバーも気合いが入る。
「こっち!」
さっきと、先程と、同じように松田がパスを要求する。松田がボールを貰うということは、再び湊とマッチアップするということ。
まだ試合は始まったばかり。同じポジションである以上、対決することは避けて通れない。そのことに気付いた松田は逃げずに挑む選択肢を選んだ。
「もう駆け引きなんていらない!」
松田は全力で湊を抜いてみせる。
「よし!!」
松田のドライブに合わせるように、馬場が大隈を押し退けて、前に出ると松田からパスを貰い、ダンクを決めた。
「吉美もダンクを返したぞ!!!!」
試合開始早々のダンクの応酬に会場は盛り上がらないわけがなかった。
ボールを掴み、大隈が再開させる。
「ここからだ。落ち着いていこう」
「はい」
「うん」
「ああ」
「うん…」
ボールを相葉に回し、攻めの形を整える。
「一本…」
いつもの相葉らしい弱々しい、頼りのない声。
声色から緊張の色が窺えた。
今の相葉に必要なのは、あの時のような、翠央戦の時のような、仲間からの怒号ではない。
「相葉、こっち空いてる」
ボクはディフェンスを振り切り、できるだけ、できる限り、できる範囲で、できる以上に、できる以上の、優しい声でパスを呼びかけた。
「うん…!」
相葉からボクにパスが通る。
「ナイスパス相葉!」
ディフェンスに追い付かれないように、すぐさまシュート体勢に入る。
そしてディフェンスが間に合うか間に合わないかのギリギリのタイミングで3Pシュートを放った。
放たれたシュートはスパッというゴールネットを揺らす心地よい、バスケットボールをプレイする者であれば、一度は聴きたい、そんな、こんな、あんな、どんな、ゴール音と共に得点ボードの点数に3点を追加した。
ゴールリングにボールが入るのを確認し、ボクは迷うことなく相葉へと向かう。そしてハイタッチをした。
「やったな!」
「うん…!!」
相葉はとても嬉しそうな顔を浮かべた。
劇的なゴールなんてないし、気を抜けるタイミングなんてない。
でも、それでも、ゴールが決まったその一瞬だけは、その刹那だけは、嬉しそうな顔をしたって、喜んだっていいはずなんだ。
成長を感じるのもまたスポーツの醍醐味なのだから。
「桜辰、強い……!! 焦らずに大事に攻めよう」と、塩山。
シュートを決めても、すぐに吉美も取り返してきた。
流れはどちらにも傾くことのないまま、タイマーは時を刻み、第1Q終了のブザーを鳴らすのであった。
「正直、桜辰がここまでやるなんて思ってなかった。話では創部してまだ日の浅いチームだと思ってたから」
塩山はそう話しながら、得点ボードに目を向ける、目をやる。
得点ボードには23-18という数字が付けられており、吉美は最初に付けられたままの5点差を追いかける形になっていた。
「私たちは県大会に出場するためにも、初戦でなんて負けていられない。必ず去年、私たちを下した上仙にリベンジするんだから!」
「そうね」
「うん!」
「勝とう」
「勝ちましょう!」
第2Qまでの2分間のインターバル、吉美はより一層、チームの絆を強めていた。




