第32Q vs Yoshimi Part 1
ハーフタイム---
10分間のインターバルのうちに、次に試合を控えているボクたち桜辰と、対戦校である吉美高校が、ウォーミングアップを開始した。
こういった公式戦ハーフタイムでのウォーミングアップでは、時間が限られているということもあって、普段の練習でも行うフットワークと呼ばれる、脚がメインのウォーミングアップの短縮版を行う。
フットワークを終えた後は、レイアップシュートやフリーシューティングといったシュート練習で、試合に備える。
ウォーミングアップを終え、そそくさと退散する。このハーフタイムでの練習はなかなかに慌ただしいと言えるだろう。
第3Q、第4Qが終わると、いよいよボクたちの試合の順番がやってきた。
「よおし、ついにこの日が来たな! お前たち!」
バッチリとメイクを決め込んだ気合いの塊のような神坂先生が声を上げた。
「対戦相手の吉美高校もまだ創部して3年目の歴史の浅いチーム、相手がどれほどの闘いをくぐり抜けてきたかはわからないが、お前たちも翠央という地獄をくぐり抜けて、今日まで来た。私の見立てでは、十二分の戦いができるはずだ。私は監督、選手はお前ら。私が何を言おうとも、直接闘うのはいつだってお前たちだ。後はお前たちのこれまでとこれからに任せる」
神坂先生の言葉を胸に、ジャージを脱ぎ、ユニフォームをお披露目する。
「よし! 行ってこい!!」
「「「「はい!」」」」
コートに足を踏み入れた。
ユニフォームを着ているからなのか、他校の生徒が観戦しているからなのか、観客が見ているからなのか、大会の空気感なのか、翠央戦とでは、また違った緊張感が心の中を支配している。
ドクンドクンと、ドカンドカンと、周りに聴こえているのではないかと、恥ずかしくなるくらいに胸が高鳴っている。心臓が弾け飛びそうだ。
「ふう……」
どうにかこうにか、心を落ち着けようと、深く息を吐いてはみるものの、特に何か変わったわけでもない。
「大丈夫ですか?」と、湊。
「大丈夫じゃなさそう」
「なに緊張してんだよ」と、漆原。
「緊張するだろ、初の公式戦だぞ」
「はっ、公式戦たっても、まだ地区予選の初戦だぞ、今から緊張してちゃ、先が思いやられるってもんだ」
「私もドキドキしています…」と、相葉。
「私もだ」と、同調するように大隈も。
どうやら、みんな緊張しているようだ。
「そうだ、円陣。組んでみませんか?」
そう提案したのは、湊だった。
「いいですね…! やりましょう…」
それぞれがそれぞれの型に手を回す。
男と円陣を組んだことはあったような、なかったようなだが、男とは明らかに違う、女の子の肩。
そんなことを考えていると、
「げっ、私がなんで漆原の横なんだ、やだよ」
そう言うのは、大隈だった。それも仕方のないことだろう。仕様がないことだろう。
なんと言っても、大隈と漆原は殴り合ったややこしい仲だからだ。
「んなの、ウチから願い下げだっつうの!」
「いやいや、円陣なんだから我慢できないのかよ………」
「「できない!!」」
何故そこで2人の息が合ってしまうのかと、頭が痛くなる。
「これから一緒に闘うんじゃないのかよ……」
結局、円陣を組む間も無く、吉美の選手たちがコートに入ってきた。
緊張感は最高潮に達しようとしていた。
選手プロフィール
桜辰女子高等学校 ユニフォーム・白と桃
相葉真裕 6番 157cm PG
麻倉麟 12番 163cm SG
漆原麗央 9番 176cm PF
大隈陽美 8番 181cm C
剣崎湊 11番 162cm SF
吉美高校 ユニフォーム・水色
塩山 4番 SG 161cm
榎本 5番 PF 171cm
山谷 6番 PG 159cm
松田 7番 SF 162cm
馬場 11番 C 177cm
塩山はボクたちのユニフォームに書かれている数字を見回した。見渡した。
「キャプテンもいなければ、副キャプテンもいないんだけど。え、どういうこと?」と、心の中で頭を抱える。
「ねぇ、ねぇってば」
塩山は隣で整列する榎本に耳打ちした。
「なに?」
「向こうの背番号見てよ」
「見たけど、なに?」
素っ気ない態度で榎本は言葉を返した。
「え、それだけなの? もっとほら、見てよ。よく見てよ」
「何よ、見てるってば」
「キャプテンもいないし、副キャプテンもいないんだよ?」
「そうみたいね」
「反応薄くない!?」
「あのねぇ、そもそも4番がキャプテンで、5番が副キャプテン、7番がエースなんて、時代はもう古いのかもしれないわよ?」
「え、私たちが時代遅れってこと!? まだ創部して3年目なのに!!?」
「これまたアンタも極端ね。別に番号が全てじゃないのかもよ? 向こうには向こうなりのチームの在り方があるんじゃないの?」
「あー、なるほど、闘えばわかるってやつ?」
「そうかもね」
「もー、それを早く言ってよ! じゃあ、みんな!」
塩山は切り替えたようにコートのメンバーに声をかけた。
「去年は地区大会、惜しくも準優勝だったけど、最後の年、今年こそ優勝して、県大会に出るわよ!」
「はいよ」
「任せて!」
「うん」
「了解です」
間も無く地区大会第2試合、桜辰女子高等学校と吉美高校の試合が始まろうとしていた。




