第31Q Official game !!!
電車に揺られ、30分程度。
地区予選の会場となる市営の体育館が見えてくる。
「おっ、あれだな」
会場では学校指定ジャージに身を包んだ選手たちだけでなく、地区予選という、まだまだ盛り上がりには欠ける試合を観戦しに、わざわざやってきたおっさん達までと、思いの外、人混みを生み出していた。
「すごいですね」
「そうだな」
「は、はぐれないように、手を繋いでも………?」
頭が火山のように噴火するのか? と、言いたくなるような赤い顔で、湊はそう言う。
しかし、だがしかし、ボクもこう見えても、どう見えても、そう見えても、男である。女と見せかけた男である。
湊の言葉に対して、平静を装いたくとも、ボクの中の本当が、ボクの中の男が、男の子が、沸き立つ。
つまりどういうことか?
顔がとてつもなく熱いのである。触れば火傷するのではないだろうかと思えるほどに熱いのである。
「あ、えっと、、、それはその……」
ここで断るのは不自然である。
なので、それなので、これなので、あれなので、どれなので、断ってはならないのだが、男であるボクが、彼女の手を易々と握って良いものなのかと、自問自答するが、既に“下着姿を見ている”という大罪に比べれば、最早、悩む必要などないのかもしれない。
「うん………」
「それでは失礼します////」
湊の温かく柔らかい手が、ボクの手に触れる。
この時、その時、あの時、ボクは思った。
きっとこの役目が終わった後、ボクは確実に。
「地獄に落ちるな………」
「? 何か言いましたか??」
「あ、いや、何も」
体育館周辺を見回すように、見渡すように、歩く。
「これってまだ地区予選だよな?」
「そうですね」
「ここの地区だけでも、こんなにも出場している学校があるんだな」
それこそ手を離すと迷子になってしまうなどの人の数だからだ。
人の渦をかき分け、体育館の入口付近までどうにかやってくると、そこにはよく目立つサイズ感をした大隈が立っていた。
「おはよう、大隈」
「おはよう」
「おはようございます、大隈さん」
「おはよう」
「他のメンバーはまだ来てないのか?」
「私は見てないな」
「そっか」
「時間もありますから、到着しているとは思いますが、どうしますか?」
「もしかしたら、中にいるのかも、体育館に入ってみよう」
湊と大隈を連れ、体育館に入る。
すると、何故かしっかりとおめかしをしている神坂先生を発見した。いや、化粧はいつもしている。ただ、ただただ、今日の化粧は試合仕様ということなのか、とても気合いが入っているように見える。
「よう、来たか」
「はい」
「なんか人数足りてねぇ気もするが、さすがに試合に来ねぇなんてことはねぇだろ。まぁいい、今のうちに着替えとか準備は済ませとけ。今やってる試合のハーフタイムでアップ開始だ」
「「「はい」」」
コートに目を向けると、既に白熱の試合が展開されている。
「では、着替えましょうか」
湊がボクの手を取る。
「あー、ごめん、ワタシはもうジャージの下に着て来ちゃったから。大隈と行ってくれるかな?」
「そうなんですね」
「いや、私も着てきたぞ」
これは誤算であった。
普段、湊や大隈、相葉と、桜辰バスケットボール同好会の面々の下着姿を拝むという犯罪行為を、ましてや公式戦の他校の選手たちも使用する更衣室で、着替えを見るなんて行為だけはしてはなるまいと、事前に対策しておいたことが、湊をひとりぼっちにさせてしまうという誤算を生むことになるとは思いもしなかったのだ。
さて、どうしたものか。
「ま、まぁ1人で着替えてくるのも心細いだろうから、わ、ワタシも着いて行くよ」
「ありがとうございます!」
これは不可抗力である。
そう必死に、必死で、自分に、己に言い聞かせる。言って聞かせる。
更衣室では案の定という言葉がしっくりと来てしまうほど、他校の女子生徒たちが肌を露出させて、更衣を行なっている。
「ホント、地獄にすら行けないかもしれない……」
「? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない……」
そして他校の女子生徒たちに混ざって、湊もユニフォームに着替える。
湊の着替えを目のやりどころに困り果てながら、待っていると、
「麻倉さん…」
さまざまな会話が行き交う、飛び交う、更衣室で、か細い、弱々しい声で、名前を呼ばれる。
「ん?」
辺りを見回すと、見渡すと、そこには着替えを済ませた相葉が立っていた。
「おはよう…」
「相葉か、おはよう」
「今日は頑張ろうね…」
「おう、頑張ろうな!」
そのすぐ後ろにはいかにも柄の悪い、どこからどう見ても知り合いな、ヤンキー娘の姿があった。
他校の女子生徒たちも彼女を避けているように見える。確かにここまでしっかりヤンキー娘だと、避けたくもなるというものだろう。
正直、チームメイトでもなければ、ボクも避けたいところである。
「漆原……」
「よう、シケたツラしてんな。ビンタで気合い入れてやろうか?」
開口一番もやはりツッパリが効いている。
「いや、大丈夫。こう見ても気合いはもう十分だから」
「そうかよ」
「うん」
「お待たせしました!」
ボクと相葉、漆原の元に湊も合流した。
「相葉さんに漆原さん、おはようございます。久しぶりに5人が揃いましたね」
湊の言う通り、翠央の敗北以来、一度たりともこの5人が揃うことはなかった。これからチームで戦うというのにだ。
本当に大丈夫なのだろうかと、お腹がキラキラと痛んだ。




