第29Q Seven
ある日の放課後、ようやく大隈を含む4人が練習に揃うようになった。
「なんだかこうして顔を合わせるのは久しぶりですね」
湊が嬉しそうに他3人の顔を見渡した。見回した。
「おうおう、集まってるみてぇだな。久々に4人になったところで、お前たちに先生からプレゼントだ。ありがたく受け取るように」
と、それなりに大きな段ボールを、両の手で、両の腕で、抱え込んだ神坂先生が姿を現す。
神坂先生は、プレゼントと言うわりに、段ボールをだらしなく、雑に、乱暴に、体育館の床に叩きつけた。
「オラ、さっさと開けろよ」
「…………」
お互いに顔を見合わせ、無意味な牽制を続けている。
「何やってんだよお前ら。別に怪しい物なんて入ってねぇよ。これはユニフォームだよ!」
痺れを切らした神坂先生が、自ら段ボールのガムテープを剥がし、箱を開封した。
開かれた段ボールの中を4人が頭を突き合わせながら、まるでエサに群がるハイエナのように、いや、そんな酷いものよりも、お乳に群がる子犬と言った方が女の子らしい表現かもしれない。とにかく、覗き込む。
箱の中にはビニール袋で丁寧に梱包された、新品のユニフォームが折り畳まれている。
せっかくなので、背番号4番が刻まれたユニフォームを開封してみる。
ビニールから取り出し、広げられたユニフォームのデザインは白地に、桜辰の桜を彷彿させるピンクのラインと、神坂先生曰く、辰の龍をイメージした黄色いラインが稲妻のように駆け抜けている、そんなユニフォームだった。
「とてもいいユニフォームですね!」と、湊。
「ユニフォームを見ると気が引き締まるね…」
気が引き締まっているようには思えない小さな声で相葉。
「さて、お前たちのテンションが最高潮に高まったところで、今日はみっちりとしごいてやるから覚悟しとけよ」
楽しそうに神坂先生が言う。
そのアップダウンは本当に必要だろうか。
「そういえば、背番号はどうするんですか?」
いつの時代もスポーツというものをしていると、レギュラー、即ち、スターティングメンバーといったチーム内の争いが起こるものだが、残念ながらなのか、喜ばしいことなのか、このチームは全員仲良く揃ってようやく5人であるため、そんな血で血を洗うような熾烈な争い事は存在しない。
しかし、だがしかし、当然と言えば当然のことなのだが、バスケットボールのユニフォームである以上、背番号は付きものであるため、自らがこれから付けることになる背番号はかなり重要なことだろう。
「なんでもいいぞ、好きなの取れよ」
神坂先生は寛容なのか、大雑把なのか、雑なのか、その辺りは定かではないが、とりあえず、段ボール箱のユニフォームに目を戻し、そもそもユニフォームが何枚存在しているのか、何番が存在しているのかを確認する必要がある。
段ボールからユニフォームを全て取り出すと、14着あることが確認できた訳だが、ここである疑問が生まれる。
「あれ? 数おかしくない?」
これからバスケ部を立ち上げ、後世に残していく都合もあって、ユニフォームは多く作る必要があるのは事実である。
しかし、だがしかし、逆にユニフォームを大量に作ったところで、バスケットボールのベンチ人数は15人であるため、ユニフォームは15着あれば足りる計算となる。
そのため、このため、あのため、どのため、これからのことも踏まえて15着を揃えるという考えはわかる。
では、ではでは、何故、どうして14着なのか。
その答えは全てのユニフォームの背番号を並べることで初めて解き明かされることになった。
「7番がない?」と、最初に気が付き、戸惑い混じりの声を上げたのは、湊だった。
湊に続いて、ボクたちもその事実を知ることになる。
「神坂先生、7番だけ抜けています」
「ああ? それは業者のミスじゃねぇよ? 私が初めから発注してねぇんだよ。桜辰の7番は欠番だ」
「「「「??」」」」
何故、どうして、そんなことをする必要があるのか、疑問で仕方がない。仕様がない。
「いいか? 今じゃ廃れた風習なのかもしれねぇが、かつてバスケットボールにおいて、7番とはチームで最も強いものが付ける背番号だった。エースナンバーってやつだな。その意味がお前らにわかるか?」
「意味………」
「そうだ、エースとはチームを勝利に導くための絶対的な存在。チームの象徴たる存在。お前らの中にそんな奴いるか? どう見てもいねぇだろ。いないものは必要ない。金の無駄だからな。だから、桜辰に背番号7のユニフォームは存在しねぇ。わかったら、その中から好きなユニフォーム取り出しやがれ。私はちょっとトイレに行ってくるから、さっさとユニフォーム選んで練習始めろよ」
神坂先生は体育館の外へと出ていった。
そんな神坂先生の手には、背番号7番のユニフォームが大切に握りしめられていたことなんて、今のボクたちには、知る由もなかった。
それぞれ、ユニフォームを選んだボクたちは、いよいよ間近に迫った地区予選に向けて、練習に励むのだった。




