第19Q vs SuiO Part 1
「自主練してたら遅くなっちまったなあ、そろそろ着くか」
のんびりと急ぐことなく漆原はダルそうに、かったるそうに、歩いている。
こういう、そういう、ああいう、どういう、マイペースなところはやはり、やっぱり、ヤンキーということなのだろう。
「うはっ! やっばいデース!! 完全に遅刻なのデース!!」
漆原が歩いていると、迷子になっている革ジャン姿にジーンズ生地のショートパンツを身に付けた、黄金に輝く、金色髪と青く、蒼く、碧く、美しい碧眼の少女を見かけた。
「あんな奴もこの街に入るんだな」
漆原はそう思いながら、桜辰女子高等学校に向かったのだった。
ボクたちも相手の監督の元へ挨拶に向かう。
しかし、だがしかし、誰もこういった場面に慣れていないのか、翠央の選手たちのようにスムーズには行かない。事は運ばない。
「本日はよろしくお願い致します」
そう丁寧な口調で先陣を切ってくれたのは、流石はお嬢様というべきであろう、湊であった。
やはりお嬢様というだけあって、こういう社交的なことは慣れているということなのだろうか?
どちらにせよ、なんにせよ、彼女の社交性に助けられたということだけは間違いなかった。
「うぬ、創部して1ヶ月だったかな? なかなかに見所のあるチームのようだねぇ。なんだか1人足りないようだけど」
「申し訳ございません、もうそろそろ来ると思うのですが」
「構わんさ、こっちもアップする時間も欲しいし、それまでには来るでしょう。今日はよろしくね」
「「「「はい」」」」
挨拶を終えた両チームはアップを開始した。足の機動力を高めるフットワーク、感覚を確認するためのシュート練習を終えると、いよいよ試合が始まる流れとなった。
「さてさて、今日はよろしくねぇ。神坂くん」
「あはは、よろしくお願いします。先生」
神坂先生は明らかな、あからさまな苦笑いと冷や汗をかきながら、老人監督と握手をする。
「いやはや、まさか神坂くんがチームを率いるようになるとはね。意外だったねぇ」
「私も意外といいますか……」
「まぁいいや。試合の形式はどうする?」
「練習試合だからできる、1Qで区切って、何度も試合をするのでも構いませんが、私たちのチームはなんせ全員揃って5人ですからね。それをするメリットがありませんので、1ゲーム勝負でお願いします」
「ほう、まぁそうなると思っていたよ。でも、そちらさんもメンバーを1人欠いているみたいだし、第1Qは4人で始めようか」
「こんな大事な時にすいません……」
神坂先生は申し訳なさそうにめいいっぱい頭を下げた。
「構わんさ、丁度うちも1人メンバーが来てなくてね。そのうちワシのところも、神坂くんのところも、ゲームを始めてれば来るだろう」
「はい、よろしくお願いします」
バスケットボールの試合、1ゲームは試合時間トータル40分で行う。
しかし、サッカーと違って、40分フルで闘うわけではなく、40分を4分割、10分を4回に分けて闘うことになる。それをQと呼ぶ。
つまり1ゲームは第1Qから始まり、第2Q、第3Q、第4Qの4分割となる。
また第1Qから第2Q、第3Qから第4Qの間にはインターバルと呼ばれる5分間の休憩時間が設けられており、そこで作戦会議などを行う。
さらに第2Qから第3Qの間にはハーフタイムと呼ばれる10分間の休憩が設けられており、公式戦などでは選手が休憩する他、次の試合を控えたチームがアップを行う時間ともなる。
ちなみについ先程、ついさっき、先生たちが話していた練習試合だからできる第1Q区切りというのは、1試合を10分のみで終了させることで、レギュラーといった主戦力での試合だけでなく、準レギュラーを起用したり、2年生チームを起用したり、1年生チームを試してみたりと、今後の戦術を試すこともでき、どの試合も10分で完結するため、40分では物足りないや40分も闘っている時間がないなどの、細かな時間調整も行うことができるというメリットがある。
さて、いよいよ試合かと思われたその時、ダンッ! と体育館の扉が開かれた。いや、蹴破られたという方が正確かもしれない。
「よう、待たせたな」
そんな声と共に現れたのは、登場したのは、何を隠そう、ただのヤンキーである漆原だ。
「あの人が漆原さん?」
湊がボクにそっと近づき、耳打ちする。
「うん、あれが漆原」
「なんというべきか、ユニークなお方なのですね」
「うーん、ちょっとユニーク過ぎるよね」
そして漆原はズカズカと、カズカズと、ボクの元にやってきた。
「待たせたな」
「………」
「なんか言えよ!」
「いや、ごめん。言うほど待ってなかった……」
「ああそうかよ」
「うん。けど、本当に来てくれて嬉しいよ」
「ちっ、んだよ」
ボクたちのベンチの様子を見ていた老人監督はーーー
「あらら、5人揃っちゃったねぇ。神坂くん、それじゃあ、5対5の実戦形式でいいんだったね?」
「はい、よろしくお願いします」
ボクたちは最初から最後までこの5人しかいないわけだが、翠央は選ばれた5人の選手がゼッケンを付けて、コートに入った。
選手プロフィール
桜辰女子高等学校 ユニフォームなし
相葉真裕 157cm PG
大隈陽美 181cm C
漆原麗央 176cm PF
剣崎湊 162cm SF
麻倉麟 163cm SG
翠央高等学校 ユニフォームゼッケン
上木やちよ 174cm PF
佐伯園子 169cm PG
若林風夏 178cm C
渡辺美柑 160cm SF
樋口直美 165cm SG
いよいよ、試合の幕が上がる。




