第13Q The strongest woman
「あの、それでワタシに何か用なのか?」
「ああん?」
いちいち、逐一、漆原という女子生徒はヤンキーである。
「す、すんません」
先程から、さっきから、ボクが言葉を発すれば、威圧されるという流れの、くだりの、繰り返しで1つも、何一つも、話が進まない。話が前に進んでくれない。進ませてくれない。
「それでワタシにどうしろと……?」
「そんなの決まってんだろ?」
「決まってますかね?」
「決まってんだよ!!」
決まっていたようです。どうやら、彼女の中では既に決まっていたようです。
「と、言いますと?」
「あの、その、えっと、その」
何故か、どうしてなのか、オラオラの勢いでガンガンと、グイグイと、攻め込んで来ていた漆原だったが、ここに来て、この土壇場で、言葉を詰まらせ始めた。
「?」
「あー! もうウゼェなー!!」
「!?」
「んだよ! 文句あんのか! ああん!!」
彼女の情緒はどうなっているのだろうか?
「いや、ないけど、明らかにアンタ、変だけど、大丈夫?」
「んだと!! ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」
もう何が何だかわかったものではない。
「ちっ! もういい! 帰る!!」
「え、帰るの?」
「うるせえ!!」
漆原は帰ってしまった。去っていってしまった。彼女は何をしにここに来たのだろうか? 最後まで謎は謎のままとなってしまった。
それからもう少しだけ練習して、ボクは寮に戻った。
練習で流した汗をシャワーで流し、そのまま就寝する。明かりを消し、消灯し、ピンク色のベッドの中で漆原のことを思い出す。
「なんだったんだ?」
考えてもこれといって意味があるわけでもなく、どころか、それどころか、謎が謎を呼び、謎がさらに深まるのみであるため、考えるのをやめた。やめたというよりも、やめて気が付いたら夢の中にいた。つまり眠っていたのだ。
次に気が付いた時には、目覚まし時計のベルが鳴っていた。
「もう朝か、さて! 今日も頑張るか」
鬘を被り、食堂に降りる。
食堂にはいつものように湊が先に朝食を食べている。
「麟ちゃん、おはようございます」
「おはよう」
「お疲れのご様子」
「うーん」
そう言われて、こう言われて、ああ言われて、どう言われて、頭に浮かぶのは、頭をよぎるのは、思い当たるのは、スケバン姿のヤンキーのことだろう。
「なんか変なのに絡まれた……」
「それってどういう……?」
「うーん、なんだろうな? なんだったんだろうな」
「?」
湊は不思議そうな顔を浮かべた。無理もない。ボク自身もよくわかっていないのだから。体験したボクですらわかっていないのに、そんな話を聞かされた湊は、それはそうなるだろうという顔であった。
放課後、ボクはもう一度、大隈に声をかける。
「あのさ」
「なに?」
「やっぱりバスケやらない?」
「やらない」
「なんで?」
「なんで? 逆になんでやらなきゃなんないのよ」
「いや、それは……。勿体ないだろ」
「なにがよ?」
「せっかくそんな身長を持っているのに、それを使わないなんて、勿体ないだろ? ほら、早く行こう!」
ボクは強引に大隈の手を引き、体育館へと引きずり出した。
「何すんのよ」
「バスケすんのよ」
ほらと、ほらほらと、大隈にボールをパスすると、大隈は慣れた手つきで、ボールをキャッチする。
「麟ちゃん、彼女はどちら様ですか?」
湊がボクのところに駆け寄ってくる。詰め寄ってくる。寄ってたかってくる。
「ああ、昨日から勧誘してるワタシと同じクラスの大隈。あの身長はこのチームには必要だからさ。どうしても入ってほしくて」
「そうですね! 私も彼女の身長が羨ましいです!」
いや、湊はその姿で、その身長だから可愛いのであって、湊が180cmもあっては、それはもう、もはや、港ではないのではないだろうか。
「ほら、見せてくれ! カッコいいダンクを!」
「いや、私ダンクシュートは……」
「大隈さんはダンクシュートができるのですか!?」
これには湊も瞳を、目を、まなこを、星のようにキラキラと、ラキラキと、輝かせた。
そもそも、もそもそ、ダンクシュートとは何か?
ダンクシュートとはジャンピングシュートやジャンプシュートとと並ぶ、バスケと言えばの代名詞シュートと言えるシュートで間違いないだろう。
ボールをしっかりと片手、もしくは両手でボールを掴み、そのままカゴにダイレクトで叩き込むスラムダンクである。
得点はジャンピングやジャンプと同じ2得点ではあるのだが、何故あえてダンクシュートを放つのかというと、繰り出すのかというと、シンプルに格好がいいからに他ならない。点数に影響しない以上、格好が付く、もしくは会場が盛り上がる、沸くというくらいなものだろう。
しかし、だがしかし、それは男の話、女子バスケでダンクシュートを放てる選手がチームにいるというのはかなりのアドバンテージと言える。有利に試合運びができることは間違いない。
だから、なので、ボクは大隈さんのダンクシュートが見た上で、彼女を仲間にしたい。
大隈は小慣れたドリブルで、ゴール下まで近付くと、レイアップシュートの要領で1、2と、右、左と、ステップを踏み、大きく跳び上がる。
そのジャンプはとても高く、ボクくらいなら軽く飛び越えられるのではないかというほどに、高く、それはもう高く、跳んだ。
そしてボールをなんとその大きな手で、片手でボールを掴み、ダンクシュートの体勢に突入する。
『決まる!! ダンクシュートが決まる!!』
その場にいたボク、湊、相葉、誰もがそう思った。
しかし、だかしかし、ダンクシュートはゴールに届くことなく、空振り、空を斬り、空を裂き、見事なまでに落ちていった。
「背が高いからと言ってダンクシュートが打てるとは限らない……」と大隈。
「「「おっふ」」」
その場にいた誰もが言葉を失った。




