二回目 受信フォルダ
To:海月
『今何してる』
To:海月
『すぐにメール返して』
To:海月
『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』
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海月は空良からの暴力が止んでから、携帯に空良からのメールが頻繁に届くようになった。
件名は無し。
添付ファイルも無し。
ただ、短い本文がつらつらと書いてある。
それが10分置きに来る。
しかし、人はすぐに慣れてしまうもので、海月もすぐに慣れてしまった。
夜はメールが来ない。
当然の事だが。
受信フォルダはすぐに埋まって、古いものは消えていった。
海月には友人と呼べるものは居なかったから、空良からのメールは寧ろ嬉しかった。
ただ、空良は海月の今の状況を聞いても、自分の状況は絶対に海月に教えなかった。
それは二人の間に交わされた暗黙のルール。
破ってしまえば、その先に待っているものはBADENDだ。
こうして、もとから闇に居た二人は、尚更深い闇に堕ちていった。
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くぁ、と空良が欠伸をする。
その横には茶髪の女が居た。
「なぁに、眠いのー?」
「…………」
「お姉さんの膝貸してあげようかー?」
「…………」
「シカトは悲しいよー?」
空良はその女からの言葉をスルーして、携帯を取り出した。
「なぁに、彼女居んのー?」
「…………」
「居なかったらお姉さんがなったげるけど、どう?」
「……あんたみたいな奴、趣味じゃないから」
「うわっ、ツンデレだ」
空良は隣で騒ぎ始めた女に向かって心の中で舌打ちした。
そして、海月に向かってメールを打ち始める。
「名前読めないんだけどさー、なんて読むの、これ
うみづき?」
「あんたには関係無いだろ」
しばらくの間を置いて、女が空良に声をかけた。
「お姉さんの好みのタイプだよ、君」
「俺はあんたみたいな奴、一番嫌いだから」
「お姉さんといいことしない?」
「うざいから早く消えろ」
空良がすっぱりと切り捨てると、女は携帯を取り出しだ。
ぱしゃ
「……何してんだ」
「写メ
君可愛いからさー
友達にもこんな子がいたぞーって自慢するために撮りましたー」
「撮ったら満足だろ
早く失せろ」
空良が半ば怒り気味に言ってもその女は空良から離れなかった。
「きゃはははははっ!!
友達も可愛いって言ってるよー?
ホントにお姉さんといいことしなくていいのー?」
甲高い笑い声を右耳にモロに受けながら、空良は小さく呟いた。
「うるせぇ
あと香水臭い」
此処まで来ると、死亡フラグが立ってしまう。
もうすでに立ってしまったのかも知れないが。
海月へのメールを送った空良は、未だ笑い続けている女の腕を引っ張った。
「そんなことよりいいことしてやるよ」
「え、何、いきなりやる気!?
君やるねー。
きゃはははははっ!!」
この女の命はこの日を境にぷっつりと途絶えた。
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To:海月
『服に赤黒いシミがあっても気にすんなよ』
海月は、空良からのこのメールの意味が分からず首を傾げていたが、空良が気にするなと言っているのだから、何も言わないようにしよう、と小さく呟いた。
「(赤黒いシミがつくような場所ってなんだろう……?)」
海月は首をもう一度傾げ、空良に返信した。
To:空良
『あんまり遅くならないでね』
海月は、何も知らない。