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私だけ色々おかしくないですか?  作者: 狐囃子 星
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神様の仕事(1)

 非常に納得いかない。

 そんな気持ちの中でファラは動き回る人々の姿を見た。

 その顔には笑顔があり、活気があり、明るく話し合う声がそこかしこから聞こえてくる。

 それ自体はまったく嬉しい事なので構わないのだが、あまりにもテアシスの言った通りに彼らが新しい神を受け入れた事に非常に強い違和感があった。

 ルナリに聞く限り前の神は暴君だった。

 暴君が去り、穏健的な存在が同じ場に立ったのならば確かに喜ぶべきことだ。

 しかし国王の様子を見ればかの蛇が国に刻み込んだ傷の深さは相当なものだと思われる。

 こうも簡単に事実と信じて受け入れることが出来るのだろうか?

 そして気に入らない事はもう一つ。

 「ファラ様、こちら近くの林より取れた木の実であります。どうぞお納めください。」

 「……前にも言いましたけど、そういったものは是非皆さんで分けてください。私はそんなに多くは食べられませんので。」

 「なんと慈悲深きお言葉! 感激の至りにございます。」

 「う、うん…………。」

 ずっとこの調子である。

 常に顔色を伺われて、兎に角次から次へと機嫌取りのように声をかけてくる。

 というか機嫌取り以外で声をかけてこない。

 果たしてこれが崇められるという事なのか、いまいち何か違うような気がした。

 しかし何が違うのかと考えると、その感覚的な物に対する答えは思い浮かばない。

 頭の声が言うには、神に対する対応は千差万別であり共通したものは存在しないも同然の為、この国の文化歴史を詳しく記録しなければ正確な事は分からないとのことだった。

 「ほっほっほ、随分と浮かない顔じゃなぁ。」

 「アナタは随分と暇なんですね。」

 「そう苛めないでおくれよ。わざわざ面白い事を教えてやろうと来たんじゃからな。」

 「わざわざも何も、毎日来てるじゃないですか。」

 そもそも彼の齎した面白い事に今のところ一つとして喜ばしいものは無かった。

 昨日食べたパンに新種の酵母が使われていたとか、空を飛んでいたら虹羽鳥を見たとか、遠くで遥か昔に沈んだ宝船の一つが発見されたとか、どれもこれもファラには無関係なものばかりで、むしろ反応に困る代物もある。

 かれこれと十日近くそんな話題を出され続けては、期待などしようもないだろう。

 「そんな態度だと教えてやらんぞ?」

 「言わなくていいです。」

 「ああ、そう言われると言いたくなるこの神心!」

 それは天邪鬼というのでは?

 疑問に対して『天邪鬼です。』と太鼓判が押されたところで、誰も聞いていないのにテアシスは一人ぺらぺらと話し出した。

 「実はこの山、今かなーりマズい状態なんじゃよ。長らく頂点だった蛇が消し飛んで、大人しくしていた連中が一気に隆起しているからのう。勢力争いで大混乱中なんじゃ。」

 「え、今そんな事になっているんですか?!」

 「お前さん、蛇倒したきり姿を見せていないからのう。ちゃんと山は自分のもんだと宣言せんからこういうことになるんじゃぞ。」

 「そんなの今初めて聞いたんですけど!」

 というか逃げた上に戻って来てからも一度もそんな事は教えてくれなっただろうに。

 十日近くの時間があったにも関わらずだ。

 「でも、ならどうしてこの国の人達はこんなに落ち着いているのでしょう?」

 チラチラとファラたちの様子を見ながら、しかし笑顔を絶やさない人々の賑わいは衰えを見せない。

 だが良く見ていると誰一人として“外に出ていない”事が分かった。

 この国は壁面にある事から出入りに使える道は数えられるほどしかない。故にその全てを瞬時に確認する程度の事は今のファラには容易な事だった。

 「そりゃお前さんがいるからに決まっとるじゃろ。」

 「私がいるから?」

 「新しい神が専属の守護神になってくれたら心強いじゃろ? その為にご機嫌取りもしっかり行っているみたいじゃしのう。」

 国の人々の一連の行動に関する答え。

 確かにそれならば異様に気を使われていることにも説明がつく。

 でもそれはファラにとっては余り嬉しくない事だ。

 言い方を変えれば都合の良い狂犬のようなもの。そういう類の神もいるのかもしれないがファラとしてはそのように扱われるのは不本意だった。

 よって――。

 「どうすればいいでしょうか?」

 「あ、それ聞くの? ワシ、選択肢は実質的に無いと思っていたんじゃが。」

 「やはり、やるしかないのでしょうか?」

 溜息。

 しかし自覚なくとも仮にも山の神、主になった以上は平穏を守るのは重要な仕事だ。

 「それじゃあ、ちょっと話し合いに行ってきます。」

 何事も平和的に解決するのが一番。力で押さえつけては善人と同じだ。

 ファラは立ち上がり、当然のように空へと上がる。

 『検索情報を表示します。』

 「じゃあ、一番近いここに行ってみよう。」

 頭に浮かび上がる立体地図に動き回る光点の数々。

 その中で今まさに国へと押し寄せんとしている一団を指定する。

 『目標地点へと転移を行いますか?』

 始めて聞いた単語。

 それは非常に魅惑的な響きを秘めていた。

 「新出ワード! どうぞやってください。なんだかワクワクします!」

 ただ一つ問題があったとすれば、正確に移動先の情報を指定しないと酷い目に合うという事に気がついたのが既に手遅れになってからだったという。


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