私だけ色々おかしくないですか?
『そういうわけで、手っ取り早くいきましょう。』
「どうしたんですかいきなり? あと口調変わっていますよ。」
『だって、またウダウダと連続の戦いパートは誰も望んでいないと思われるのです。読者も、作者もです。』
「それ後者が本音ですよね?」
『なので折角、大物な小物感を出していた新顔の女神様には申し訳ないのですが。』
「あの方神様だったんですね。」
『迅速に進めさせていただきます。』
「あ、はい。」
「どうしたのだ? 先ほどからブツブツと独り言を。」
女神は不信そうに顔を曇らせながらも、両手を掲げるようにあげて何かの準備を始める。
「答えます。これより先は繊細な動作が必要となる為、私が対応いたします。」
「……何者だ、貴様?」
「ファラ様に備え付けられたサポート機能です。」
目が赤くなる。
ファラの体は両腕を広げる。まるで目の前の相手を歓迎でもするように。
――ドクン。
違和感、いや異常だ。
女神は背筋に薄ら寒い物を感じる。そして同時に襲って来た胸を締め付ける感覚が間違いではない事を証明した。
「貴様、何をしている?!」
「回答します。超新星は寿命を終える時、自らの重力によって潰れ崩壊することが分かっていますが、残念ながらアナタの星はそれほど巨大ではありません。つまり重力が足らないのです。“だからコチラで足すことにしました。”」
「何を……。」
ドクン。
その予感に間違いはない。鼓動が早くなる。体温が上がる。体が悲鳴を上げ、体がはち切れんばかりに内側から膨大な力が押し寄せてくる。
「動力の出力をコンマ二パーセントから七パーセントへ上昇。質量、重力操作システム使用率一九パーセントへ調整。演算終了。……縮退圧上昇、反応加速、膨張――。」
「や、やめろ……やめろ!」
悲鳴に似た声を女神はあげる。
しかし体を押しつぶす力、そして反発するように体の奥底から溢れ出そうとする力。二つがせめぎあうことで発生する激痛に経験は無い。
「重力崩臨界点突破――。」
「やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろや――――――。」
「爆縮します。」
星が潰れる。
光り輝く星が。
育ち膨れ上がり赤く全てを喰らう熱が、一瞬にして一握りのように縮む。
同時に溢れだす光の大津波はあらゆるものを飲み込み消し去っていく。
逃れる術などない。
光速と同等に広がる、時空その物を歪める絶対の暴力から逃れる方法などあるはずもなかった。
その世界にとっては大きすぎる、しかし宇宙にとっては小さな爆発は何年もかけてあらゆる星を飲み 込んでいく事だろう。
だがファラはそれを見届ける気など無い。
「帰りましょうか。」
漆黒の壁、事象の地平の中にあって観測不能な外に思いを馳せながらファラは呟いた。
『次元転移を行います。』
無機質な声が頭の中に響き、全ては遥か彼方へと変わった。
朝日が眩しい。
柔らかで暖かな光は、とても優しく体を温めてくれる。
蛇を葬った際の余波。クレーターの中に跳躍したファラは一息ついてから大きく伸びをした。
物理的に帰還できたという事が夢でなかったことを証明するが、それでも頭の中はボンヤリ出沖のような気分のままだ。
『脳機能を強制覚醒させますか?』いいや、暫くこの微睡みの中にいよう。
非現実的な出来事を受け入れる準備はまだ出来ていない。
「――うん?」
もぞもぞと足元で動くもの。
恐る恐るファラは顔をそちらへと向ける。
「うえへへへへぇ……。」
そこには、それはそれは幸せそうに眠る一人の娘がいた。
「えっと、え? へ?」
「んう? ああ……おはようございます。」
「あ、はい。おはようございます。」
思わずあいさつを返す。
黒衣に身を包んだ髪も目も光を全て吸い込む穴のような漆黒の少女。一方でその肌は雲のように白くシルクのようにきめ細かく滑らかだ。
少女は起き上がりボウっとした瞳でファラを見る。
そして顔が見る見るうちに青くなった。
血の気が失せ、それまで以上に青白くなった少女はすぐさまその場に膝をつく。
「も、申し訳ありません! 御前と知らず失礼なことを!」
「急に何事ですか?! というか、いきなりかしこまられると緊張するので気にせず立ったままでお願いします。それと、とりあえず詳しくお話を聞いても良いですか?」
「何と、この愚者には勿体なきお言葉……。しかし、仰せとあればそのように。してご質問とは?」
少女は感極まったように瞳を潤ませたのち、袖で零れた雫を拭い立ち上がった。
「まず、アナタのお名前は?」
「以前の名でしたらフェルミと及び下さい。」
「フェルミさんは、いったいどのようなお方なのでしょうか?」
「フェルミで結構でございます。それと、どのような、とは具体的にお聞きしても?」
「何者なのか、という事です。失礼なのですが、何処で出会ったのか思い出せないので。」
「起きなさらず。我が主がお気を止められぬは私の精進が足りないという事でありますので。ご質問の方ですが、今の私がお会いしたのはこの瞬間、とお答えしましょうか。何分ややこしく。」
「今の? 以前の貴方にはお会いしていたのですか?」
「それはもう、そっけなく、そして激しく。こうして生まれ変わる事が出来ましたのも全ては我が主のお力あってこそであります。」
「えっと……んん?」
果たして何かトンデモナイ事をしただろうか。
ファラは記憶を呼び出して凄まじいスピードで確認を行うが、それらしい場面は一向に見つからない。であれば、彼女の記憶違いというのがもっとも可能性が高いか?
『分析結果を報告。』
いつの間にやら勝手に作業を進めていた声。
ファラは答えを素直に待つ。
『質量、存在率、概念経路、全てが計算結果と一致。対象は重力崩壊を引き起こした恒星、その後に発生した超重力星、通称ブラックホールを根源とする疑似存在です。』
――――はい?
『女神の根源である恒星を強制的に重力崩壊へ導くため不足分の質量を付加した結果、重力星発生に必要となる質量に達し、結果として誕生したと分析。』
「ああ、その声、そのお方が我が主様に宿るお力なのですね。」
「え、聞こえるんですか?」
『強固な概念的結びつきを確認。切除しますか?』
「御心配には及びません。我が主が望みとあれば、私の方から結びつきを切らせていただきます。」
「あの、混乱しているので少し黙っててくれますか?」
ファラは両手の人差し指だけを立て他の指を折り、伸ばした指の先端をそれぞれのこめかみへと当てて目を閉じる。悩み、考え、瞑想を行う姿だ。「お悩みになる姿も……。」などという外野の声は認識の外に追い出す。
つまり、声のいう事が正しければフェルミを生み出したのは自分なのか? いや正確に言えば声が作ったとも言えなくもない。意識はあったがあの瞬間の肉体の主導権は声の方に会ったのだから。しかし、その声に許可を出したのは自分であって――。
そもそも恒星を根源とする女神? その事自体が初耳だったのだが。
そして星が生まれ変わったから新しい女神に? それほど単純な事なのだろうか。
疑問は疑問を呼び、しかしその疑問を吹き飛ばすような現実が目の前に。
頭の中が沸騰しそうだ。
「あ、貴様! また何やら卑怯な手を使ったみたいだが今度は――。」
「ちょっと黙ってください!」
聞き覚えのある文句が飛んできたが、余裕のないファラは適当に遠くへと発生主を飛ばす。
混乱は極限にたっし遂に――どうでもよくなった。
そう。考えても考えても現実が変わることは無いのだから、諦めてありのままを受け入れよう。
決めてしまえば案外気持ちは楽になるものだ。
ファラは空を見上げる。
近くで「ああ、このお顔もまた――。」とうっとりした様子の声が聞こえてくるが当然無視である。
空は青々として、太陽は煌々として、流れる風は涼やかだ。
とりあえず暫くは深く悩まず気ままに世界を見てみよう。
〈あ、もしもしファラちゃん? 勇者会議あるんだけど、今暇?〉
緊張感のない鈴のような声。
ファラは問題ない事を伝えると、唐突に体が光に包まれてフェルミから抗議の声が上がった。
簡単には付いてこられないらしい。
しかしファラの今の関心は別にある。
「この事、話して信じてもらえるのでしょうか?」
常軌を逸した力、常識とかけ離れた出来事の数々。
果たして勇者たちがその話を信用してくれたのか。これからどのような無茶が待ち構えているのか。ファラの未来には混沌ばかりで先は見えないが、きっとどうにか出来るだろう。
それだけの力を与えられてしまったのだから。
「あ、一言だけ抗議はしなきゃいけないですね。」
思い出したあの天の神への文句。
この地に対して、この体に対して、この扱いに対して。
――おかげさまで私だけ色々おかしな事になっているんですが!




