013:聖剣
お待たせしました!(待ってないかも知れませんが)
昨年末にアップしてから、実に9ヶ月ぶりですの再開です。
今年に入ってちょっと体を壊しまして、入院や手術をして書ける状態ではありませんでした。
本業の方も休んでたんですが、ようやく復帰して書ける状態になりました。
というわけで、それでは、続きです。
魔法士の二人が村の様子を見に行ったあと、残った5人は周囲を警戒しながら水分を取り、とりあえず一息をついた。辺りには何も気配は感じなかった。茶色の魔物の襲撃は終わったようだが、この後もこのような魔物がいるはずなので油断は出来ない。
「さすが聖剣士というべきか」
ゲオルグがガシャガシャと鎧の音をさせながらアーティスに近づいてきた。
「ありがとう。君のおかげで全員助かった」
アーティスは座ったまま顔だけをゲオルグに向け、疲れた笑いを浮かべた。
「いつでも出来ると思わないでくださいね」
「聖剣士は無敵だと思っていたが」
微かに口端を歪めて笑うゲオルグに、アーティスは小さく首を振った。
「聖剣士も人間ですからね。聖力は無尽蔵ではないです」
やや苦笑気味のゲオルグにアーティスも苦笑いで返す。
もっとも、アーティスの言葉には謙遜もあった。聖力についてはアーティスは聖職者も含めて彼の聖力を超える人間に会ったことが無い。聖剣を使うためには多大な聖力が必要だが、聖力が不足するという感覚に陥ったことはなかった。その力のおかげで強力な聖剣を使えるようになった。それでも聖剣によって聖力や体力を奪われていく感覚は常にあった。無尽蔵というわけにはいかないのだ。
「しかし、聖剣士とはすごいものだな」
ゲオルグは魔物も聖剣士も生まれて初めて見たが、いずれも想像以上の衝撃だった。
大陸に住むものは子供の頃から建国の物語を聞かされており、子供の頃は魔物や聖剣の存在を信じていることが多い。だが、実際に聖剣士がいる国はテルアーナとガイデスメリアのみで、それ以外の国では実際に聖剣士を観たことがあるという者はほとんどない。それ故に一般的には聖剣士や魔物は伝説であって、実在するとは思えないものだった。
だが、この島に来て、巨大な大海魔や鳥や獣のような魔物に遭遇し、改めてその存在を認識した。伝説が急に現実になったが、それでもまだ夢のようだった。一度寝てしまえば、夢だったとなるんじゃないかとも思えた。だが、鳥のような魔物や茶色の獣のような魔物に襲われた実感は間違いようがなかった。
魔物に感じる禍々しい気配は恐怖を覚えるものではあったが、それ以上に聖剣士の強さは驚異であった。
ゲオルグ自身も海士団長であり、強さには自信があった。ヘプターニ一の剣士という評判もその自負を支えるのもであった。だが、今日の戦いを観て、その自信も吹き飛んだ。何とか対峙しているものの、魔物を相手に戦うの容易でなかった。所詮人間相手の強さでしかないものと実感した。
もちろん魔物相手は常人ではままならないものであるし、向き合っているだけでも賞賛に値すると思う。だが、ヘプターニ最強は魔物の前では意味のないものと感じざるを得ない。
アーティスの戦いを目の当たりにすると、その思いはさらに強くなった。聖剣士には明らかに常人と違う強さを感じる。
「聖剣の力がすごいだけですけどね」
自嘲気味に言ったアーティスは上目遣いにゲオルグを見上げた。ゲオルグを見る目が少し悲しそうだ。
聖剣は一振りずつ能力が違うと聞いているが、アーティスが持つ『青の聖剣』の威力は驚異的だった。水を操るというその能力は想像を超えていた。確かに聖剣は恐るべき能力を秘めているが、それを操る聖剣士も常人ではありえない。それを目の当たりにしたゲオルグには聖剣と聖剣士は驚愕の存在に見えた。
「アーティス殿の聖力も相当なものだと思いますよ」
ゲオルグの背後から、スフィナが金髪を覗かせた。やや青みがかった白の神官服も裾は泥で汚れ、袖の辺りにも傷が付いているが、その表情は曇っていなかった。
「私などでは及びも付かないほどの力をお持ちと見受けます」
「えっ!?」
ゲオルグが思わず、スフィナを振り返ると、彼女は無言で頷いた。
ほとんどヘプターニから出たことがないゲオルグにとって、サーランド神殿の神官長であるスフィナが最上位の聖力の持ち主だった。奇蹟とも思える御業を見たこともある。
それよりも上とは、もうゲオルグの想像を超えていた。
「はぁ」
ゲオルグはアーティスに視線をくれて、小さくため息をついた。
「上には上、か」
まったく、自分が小さく見える。自分よりも遙かに体が小さいスフィナは多大な聖力の持ち主だ。この聖剣士はそれをさらに上回るという。ヘプターニ一の海士と呼ばれているのが恥ずかしくなる。
だが、今の状況で、この二人の力は頼もしい。
「興味本位で聞くのだが、聖剣はどうやったら手に入るものなのかな」
聖剣は6振りとされているが、存在が知れているのは3振り。テルアーナの紅剣『カルス=ビンガー』、ガイデスメリアの碧剣『グラン=サイバー』、それに皇帝の証し、白剣『ラング=リスベック』である。あとの3振りは行方知れずと言われている。
そのうちの1振りが目の前にあった。彼はどうやってそれを手に入れたのか。どうやって聖剣士となったのか。剣士となれば気になるところである。
「私も聞きたいわ」
いつの間にか傍に来ていたディアナがアーティスの後から声を上げた。アーティスが振り返るとディアナは小首を傾げ、にこりと笑った。顔を戻すと、ゲオルグが期待に満ちた目でアーティスを見ていた。
「探しました」
アーティスはゲオルグから視線を外し、やや首を傾げて宙に浮かせる。
「場所は言えないんですが、青い竜に会いました」
「青い竜に会ったのか?!」
思わずゲオルグが声を上げる。聖剣は竜の鱗から作られたという伝説がある。だが、竜はすでに数百年見た者がいないといわれている。聖剣以上に幻の存在なのだ。
アーティスは小さく頷いた。
「竜と戦って、戦って・・」
アーティスは遠くを見るように目を細めた。
「・・気がついたら、傍らに置いてありました。詳しくは覚えていません」
もう立てなくなるほど戦った覚えはあるのだが、本当に最後はどうなったのか、自分でも覚えていない。
「竜は仕留めたのか」
「いいえ、気がついたときには竜はいませんでした」
「竜に認められた、ということか」
アーティスは頭を振った。
「わかりません。どうなったのか自分でもわからない。でも、聖剣は寝ている傍にありました」
夢物語で聖剣は手に入らないだろうから、言っていることはその通りなのだろう。
「アーティス殿にはその資格がありと認められたのでしょう」
スフィナがアーティスに微笑んだ。まっすぐにアーティスを見る目は澄んでいて
「聖剣は持ち主を選ぶと言います。聖剣士は聖力の持ち主、すなわち正義の徒なのです。アーティス殿はそう認識されたのでしょう」
スフィナの言葉にアーティスは照れたように頭を掻いた。
「不思議な話だな」
ゲオルグには分からないが、相当な戦いだったと思われる。そもそも竜と戦うなど人間に可能なことなのか。それを成したから聖剣を得たのか、聖剣に選ばれる資格によって得たものか。まさに神のみぞ知るということなのだろう。
「聖剣士になっても、アーティスはアーティスだけどね」
ディアナは後からアーティスの左腕に自分の右腕を絡めて、何故か右側にいるスフィナの方をのぞき込むようにして、フフンと微笑んだ。
ゲオルグは怪訝そうな顔をし、スフィナはやや驚いたように目を丸くする。
「おい!」
アーティスが顔を近づけてきたディアナを睨みつける。
ディアナはそれに悪戯っぽく笑って返した。絡めた腕をほどこうとはしない。
「はあ」とため息をついて、アーティスが体を右に引いて引き離そうとしたときだった。
「助けてくれ!」
声が聞こえた。見れば、魔法士2人が探索に行った村の方に人影が見えた。
ブランクが長くて、書くのに時間がかかりました。
もともと遅筆ですしね。
今後は流石にここまで間が空くことはないと思います(たぶん)。




