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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第2章 銀珠海洋編
80/89

005:航行中

少し時間がかかりましたが、投稿までこぎつけました。

船の上でゆったりと・・・です。

お楽しみいただけたら幸いです。


 船が出発したのは陽が暮れ出した頃だった。風も凪いで来たため船速が緩み、2隻の船は緩やかにハス=キロワ海を横断していく。

 陽が沈んだ頃、アーティスは海賊船『マセルトーラ』へ招待された。他の3人の乗客は『エンテルプライゼ』の客室に押し込められている。監禁ではないが、まったく自由というわけにはいかなかった。武器も再度取り上げられていたが、ヴェスラ港で解放されるまでは仕方ない措置だろう。


 渡り板を伝い、『マセルトーラ』へ移ると、一番上層の船室に通された。船長室である。


 アーティスが扉を開くと、赤い肢体が目に飛び込んできた。

 ディアナは真っ赤なドレスで長身を包み、靴も赤という髪の色に合わせた衣装をまとっていた。紅寄りの赤色の前髪を膨らみのある胸の前に垂らしている。こめかみの辺りの編み込んだ髪でまとめられた後ろ髪は腰の辺りまで伸びていた。緩やかにカーヴした赤い髪は艶やかにろうそくの光りを反射してキラキラしていた。

 赤いドレスの胸元は大胆に開いており、豊満な双丘のつややかさが目を引く。ドレスの形状のため腰のくびれも尻の線も露わで、ドレスの裾は足の付け根辺りから切れ目が入り、白い素足がチラチラとのぞく。唇も紅を引いて艶を放っており、切れ長の目が妖艶に微笑んでいる。

 昼間の剣を振るっていた姿とは別人のようの変貌ぶりだ。


「いかが?」

 ディアナは細い腰に右手を当て、やや上半身をひねりながらにこりと笑った。赤い唇の口端が妖美につり上がる。

「うまそうだ」

 アーティスはそう言ったが、目線はちょうど運ばれてきた料理の方に奪われていた。

「ちっ」

 ディアナは小さく舌打ちし、料理をテーブルに並べた部下に「チッチッ」と早く出て行くように手を振った。


「ま、冷えちゃうから食べましょ」

 ディアナはさっさと席に座り、アーティスは背中の大剣と腰の直剣をそろえて壁に立てかけ、ディアナの向かい側に設定された席に腰を下ろした。

 海上にもかかわらず、用意されたのは肉料理だった。油が滴るようなステーキと野菜のスープ、それに果物がいくつか。

「魚ばっかりだと飽きるのよ」

 苦笑いしながら、ディアナは赤身の肉をナイフで切り取り、右手に持ったフォークで口に運んだ。肉の脂が赤い唇を色付け、妖美な光沢を放つ。口内で肉を()む音が艶めかしい旋律を刻む。


「な~に?」

 自分の口元に視線が注がれているのを見てディアナがしてやったりという感じの笑みを浮かべる。

「・・いや・・」

 アーティスは慌てて視線を下に向け、自分の料理に手を付け始めた。

「フフン」

 やや得意げに微笑み、ディアナはフォークに刺した肉をくるりと回すと、パクリと口に放り込んだ。


「ついに手に入れたわけね」

 肉の一片を口に運んだあと、ディアナがそのままフォークの先で壁に立てかけた大剣を指した。

「ああ・・・」

 アーティスはチラリと後ろの剣に視線をやってから頷いた。それ以上の言葉はない。アーティスは黙って果実酒(キンダー)を口に含んだ。明らかに話したがらないようすだった。

「そう・・・」

 ディアナは複雑な顔で剣とアーティスを見比べ、何度か首を振った。この剣を手に入れるまでにどれだけの辛労があったのか。それは無理に聞くべきことではないような気がした。ディアナは小首を傾げて、にこりと笑うと話題を変えた。

「こっちに来たのなら、連絡してくれればいいのに」

 ディアナは拗ねるように体をくねらせ、上目遣いにアーティスを見る。やや胸を強調するように上体を反らした。普通の男性なら、意識を持って行かれるところだ。だが、アーティスには効かなかったようだ。

「連絡の付けようがないだろう・・・」

 ディアナは海賊であり、連絡先などあるはずがないのだ。困った表情をしたアーティスはディアナの肢体には目もくれず、柑橘系果実(ファーマ)の一片を口に頬張った。

 自分に興味がなさそうなアーティスに再び「ちっ」と小さく舌打ちして、ディアナも食事を進める。積もる話もないではないが、まずは腹ごしらえからだ。アーティスの態度はそう言っていた。


「で、私に会いに来てくれたわけじゃないのね?」

 一通り食べ終わると、ディアナはフォークを皿の上に置いて、テーブルの上に両肘を付いた。両手を合わせた上に顎を乗せ、のぞき込むようにアーティスを見つめる。顎を乗せた手の下には、豊かな胸丘が窮屈そうに谷間を作っている。普通の男性なら目は釘付けになるところだが、アーティスはいたって冷静だった。

「残念だけど、違う」

 アーティスはそう言って首を横に振った。

 ディアナとしてはアーティスを誘惑したいのだが、アーティスにその気がないことも知っていた。ディアナにとっては一種の遊びなのだ。アーティスにはディアナよりももっと大事な(ひと)がいることは分かっているが、これほどまでに無視されると自分に自信がなくなってくる。


 「はぁ・・」とため息をつきかけたディアナが、突然キッと真顔になり、音も立てずにすうーと立ち上がった。思わずディアナを見上げるアーティスに、ディアナは右手を出して制止し、左手で皿の上のナイフを握った。そのナイフを右肩までかざすと、船室の扉めがけて投げつける。

 ビンッと音を立て、ナイフが木製の扉の中央に突き刺さった。その向こうから「ヒィッ」と小さい悲鳴が聞こえる。

 ディアナがドレスにも関わらず大股で扉に駆け寄ると、勢いよく扉を開いた。その扉の外では、男が3人尻餅をついていた。

「カーク! マッコイ! チャーリー!}

「す、すいやせーーん」

 名を呼ばれた3人の男は文字通り這々(ほうほう)(てい)で逃げ出していく。そのようすを見送って、ディアナは扉を閉め、見事に突き刺さったナイフを抜いて、「はあ」と大きくため息をついた。


 彼らなりに、年頃の首領のことを心配しているのだ。それは分かるのだが、ディアナにとってはうざい(・・・)の一言なのだ。

 ディアナ自身の現状は父親から譲り受けた地位であり、その父親はさらにその父親から譲られたものである。親子3代の世襲なのだから、この後もそれが続くと思うのは自然だ。したがって、首領の跡継ぎというのはその一党にとっては重要問題なのである。

 それゆえ、一般的にいって適齢期となった首領の相手が誰になるのかは最重要課題なのだ。彼らの理念では結婚という形式は必ずしも必要はないが、後に彼らが頂く党首としての資質は大事な項目だった。党首は強く、賢く、敬意を払える相手でなければならない。幸いにも過去3代はそれらに欠けることはなかった。だが、ここでどんな血が入るのかは、彼らの生活を左右する大問題である。それ故、覗き見したりしてくるのだが、ディアナにとっては迷惑な話であった。

 ただ、ディアナもアーティスも知らぬことであったが、じつはこの男女の子であれば賛成する者は多かったのである。

 

「あぁ」

 ディアナは再度ため息をつき、左手を額に当てて首を横に振った。

 席へ戻ると、やや乱暴にナイフを皿に置く。ナイフが乱暴に扱われたことにガシャンと抗議の音を立てた。


「気が削がれたわ」

 そう言って、ディアナは椅子に背を預け、豊かな胸の前で腕を組んだ。無頓着に足を組むと、スカートの切れ目から赤いハイヒールを履いた長い足が見えた。先ほどまでとは変わって、(しな)を作ることは止めたようだ。

「で、私に会いに来たのじゃないなら、何をしにこんな南の海に来たわけ?」

 アーティスはアルファムの出身だ。中原の国アルファムからはるばる南海に来るには相応の理由があるはずだった。それも聖剣を携えて、である。

「・・・グラナダ、ね?」

 複雑な表情で返答をしないアーティスに向かって、ディアナがやや首を傾げながら答えを投げた。

 アーティスは2度首を縦に振り、無言で肯定した。

「魔物退治ってわけ?」

「・・・いや、目的は別にある」

 アーティスは今度は首を横に振り、真剣な視線を向けた。

「魔物退治はついでだ」

 グラナダ島近辺で魔物が発生している。島に上陸し、それ(・・)を探すためには自動的に魔物を倒すことが必要になる。


「グラナダに行くためにあの船に乗ったの?」

「そうだ」

 短く答えたアーティスに、ディアナは呆れたという風に天井を見上げた。

「言ってくれれば迎えに行ったのに」

 ちょっと拗ねるように顎を上げ、攻めるような目付きでアーティスを見る。

「いやいや」

 アーティスは首を横に振って抗議した。

「さっきも言ったが海賊にどうやって連絡するんだ。トリスタン・トリクタンって(ふみ)に書いて届くのか?」

 神出鬼没で、本拠地が分からないのが海賊である。そこに連絡をつけるすべは普通ない。

「まぁ、それは・・」

 ディアナはばつが悪そう視線を泳がせる。確かに相手からは連絡出来ない。

「・・・・、一つだけ言っておくけど、私たちは海賊じゃないわよ。海上を自主的に警備している貿易商ですからね。間違わないでよ」

 負け気味の会話をごまかすためか、やや強めの口調でディアナが言うと、アーティスは呆れたように首を小さく横に振った。

「やってることは、海賊だと思うが・・・」

 アーティスがつぶやくと、ディアナは切れ長の碧眼でアーティスを睨みつけた。

 トリスタン・トリクタンは一般の船は狙わない。今回のような密輸や本当の海賊だけを襲うのだ。いわゆる義賊で、本人達は悪いことはしていないつもりらしい。

「・・・分かったよ。この話は不毛だ。止めよう」

 アーティスはうんうんと頷いて、矛を収めた。そもそも本題はそこ(・・)ではない。

 アーティスは椅子に座り直すように背筋を正し、まっすぐにディアナを見た。アーティスの視線を感じて、ディアナの頬がほんのりと桃色に色づく。惚れた弱みか。ディアナの自覚が頭の中でそう告げた。


「ということで、頼みがあるのだが、グラナダ島の近くまで行ってもらえないか」

 ディアナは腕組みをほどき、左の人差し指を形のよい顎に当てた。

「ということってどういうことよ!」

 そう突っかかってから、「ふん」と鼻を鳴らした。それから思案するように視線を遊ばせる。数瞬の間のあと、ディアナがアーティスに視線を戻した。

「いいわよ。もっとも魔物がうようよいるから、どこまで島に近づけるか分からないけど」

「構わないよ。島が見える辺りまで行ければ、どうにかなる」

 グラナダ島の周りの海にも魔物がいると言われているので、無事に着けるとは思っていない。その辺りの魔物を倒して行くことになるだろう。ある程度近づけば、泳ぐことも出来るし、今のアーティスにはそれ以外の手段もある。

「ただし、条件があるわ」

 ディアナは長い足を組み直し、テーブルに両肘を付いて手を組んだ。その手に赤く印象的な口唇を付け、口端をゆがめて悪戯っぽい笑みを浮かべた

「わたしも連れてってね」


今回はディアナの回です。

本章のヒロインですからね。

第1章のイノとは違ったキャラですが、どうでしょうか。

楽しんでいたければ、いいのですが。

ディアナの手下については、そう例のあの人たちの名前を使いました。

チョットしたお遊びです。


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