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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第2章 銀珠海洋編
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004:海賊!!

「君たちはどこかで巻き込まれないようにした方がいい」

 「自分も一緒に」という剣士風の女の言葉を遮って、アーティスが首を振った。

「わざわざ巻き込まれる必要はない」

 言外に自分は関係があると言うことを告げると、アーティスは歩き出した。


 剣士風の女と魔法士風の男は船室のところまで上がると、商人風の男と共に船室に籠もった。

 アーティスだけが甲板に出たが、そこかしこで剣戟が交わされており、どちらがどちらの陣営か分からないぐらいの騒乱状態だった。

 

「死ねぇ!」

 いきなり首に赤いスカーフを巻いた男がアーティスに向かって剣を振り上げて突進してきた。アーティスは背中の青剣の柄を握り引き抜こうとしたが、その男はアーティスの手前で急停止した。半月刀を振り上げたまま、アーティスの顔をまじまじと見る。

「あんたは・・・」

 四〇絡みのその男の顔にアーティスは見覚えがあった。海賊船『マセルトーラ』の船員のひとりで、名はカークといったはずだ。

「なんだ。アーティスのだんなじゃないですか」

 男は剣を下ろして、ニタリと笑いを浮かべた。

「・・おっと、これは姉御に知らせなきゃ」

 言って男は振り返り、手を上げた。

「あね・・ごっ!」

 言い終わる前にカークという男の姿はアーティスの右の方へ弾き飛ばされ、舷側の柵まで転がっていく。

 

 カークを突き飛ばし、彼の代わりにアーティスの目の前に立っていたのは、赤い髪を頭の後ろで束ね、朱色の胴着に茶色の短いズボンの美女だった。女性としては長身でアーティスの目線当たりに頭があった。やや日焼けした肌に健康的な艶が光る。

「アーティス!」

 その赤毛の美女が親しげにアーティスに笑いかけた。名をディアナ・トリクタンという。海賊『トリスタン・トリクタン』の3代目の首領である。

「こっちに来てたのなら教えてよ。私に会いに来てくれたの?」

 腰を軽くくねらせてアーティスに微笑む。

「いや、そういうわけでは・・・」

 アーティスが返答に困っていると、彼女の後に迫ってくる影があった。


「うぉ~!」

 ディアナの背後にいた男が剣を振りかぶった。

「・・うっさい!」

 言うなりディアナは振り向き、片手に持った曲剣を袈裟懸けに振りかぶった。男は剣を下ろす間もなく、首筋から血を吹き出し甲板に倒れ込んだ。

 その倒れる男に目もくれず、ディアナは再びアーティスの方に向き直った。

「いるなら、いるって言ってくれればすぐに迎えに来たのに」

 何事もなかったようにディアナはアーティスの微笑む。口元の歪ませ方が何かの意味ありげで、微笑みそのものが妖艶といっても良かった。ただ、その右頬に赤い血が点々と付いていなければ。


「いや、・・」

「な~に、つれないわねぇ」

 口ごもるアーティスにディアナが抱きついてきた。剣を持ったまま、ディアナの両手がアーティスの首に巻き付いてくる。

「おい! ディアナ!」

 ややうろたえ気味のアーティスを無視して、ディアナはアーティスの肩に顔をすり寄せる。

 ハッと小さくため息をつくとアーティスはディアナの肩を両手で押さえ、体を引き離した。

いやいやとかわいらしく首を振るディアナを押し出し、アーティスは首を横に振る。


「え~~」

 アーティスは抗議の声をあげるディアナの肩越しに甲板上の喧騒に指を指す。

「こんなことしてるより、あれの方が先だろ」


「ふ~」

 目線を上に上げ、唇を結んでディアナは息を吐いた。確かにこの騒動の決着は付けないといけない。

「そうね」

 ディアナは踵を返し、甲板上の剣戟に向かって走り出す。が、すぐにアーティスを振り返った。

「すぐに終わらせてくるから待っててね」

 片目をつぶって見せたディアナは再度戦っている仲間の方へ向き直る。

「さー、野郎ども! さっさと終わらすよ!」

 アーティスに話しかけていた口ぶりと全く違う声でかけ声を掛ける。

「おーっ!」

 一斉に男達の声がして、途端に形勢が変わった。「おー」と叫んだ男たちの動きが速くなり、次々と相手を斬り、薙ぎ倒し、蹴り、殴り、足を引っかけ、文字通り倒していく。

 いつの間にか剣を構えている『エンテルプライゼ』側の人数は5人に減っていて、船縁の一角に押し込められていた。その周囲には『トリスタン・トリクタン』の連中が10人以上で囲んでいる。

 すでに何人も甲板上で倒れていて、息のある者は一カ所に集められていた。被害者はほぼ『エンテルプライゼ』の乗員で、攻めてきた『トリスタン・トリクタン』には死人がいないようだった。

 

 アーティスがそお様子を眺めていると、程なく、追い詰められた『エンテルプライゼ』の5人は一斉に剣を捨て、膝を折った。

 彼らが捕縛されて、一応騒動は集結した。

 あとは事後処理と言うことになるが、これは慣れているのか、『トリスタン・トリクタン』の船員はテキパキと処理していく。死人と怪我人と無事な人間を分け、捕縛や手当を施す。その作業の他に、『エンテルプライゼ』の船内の調査に向かう者もいた。

 アーティスたち、『エンテルプライゼ』の乗客4人は一旦元の船室で待機することを指示され、それぞれの船室で待つことになった。


 死体を集め船倉に保管し、生きている方は別の船倉に捕縛したまま格納した。『エンテルプライゼ』は数人の船員が乗り込み、『マセルトーラ』の後に付いてゆっくりと動き出した。

 行き先は告げられなかったが、アーティスはインゼル島を目指して行くのだろうと思った。

 インゼル島はカスタマーナ州の最大の島カスタマーナの東にあるブランニ島のさらに東に位置する。外周5ハーラ(約30キロメートル)程の山がちの島だ。島の周囲は全体が切り立った崖のようになっており、一見では取り付くような場所がない。従って、この島はほぼ《・・》無人島だ。

 ほぼ(・・)なのはこの島が海賊『トリスタン・トリクタン』の根城にしているからで、巧妙に隠された岩場の隙間があり、そこに侵入できることは彼ら(・・)しか知らない。

 

 カスタマーナ島には州都エルクがあり、そこにこの自治州の評議会が設置されている。カスタマーナの自治は、貿易商人や港湾管理人、漁業組合などの代表による評議会が担っていた。当然、その中には航行の安全に関する業務も含まれているが、何故か『トリスタン・トリクタン』については議題に上がったことがない。

 それは、『トリスタン・トリクタン』が航行する船を襲撃、捕縛するという海賊行為を行っているものの、今回のように密輸や不正貿易などの船を狙って行っており、一般の船舶は決して襲わないからだ。

 いわば、義賊のような行為であり、それによって交易の正常化や本来の海賊の抑制になっていることで、評議会の構成員になにがしかの利益をもたらすためである。評議員の一部には、直接的に歴代の『トリスタン・トリクタン』に助けてもらった恩義を感じている者もいた。もちろん、彼らは決して口に出しては言わないが、下手に取り締まりよりは好きにやらせておいた方がいいというのが本音のところだろう。黙認という暗黙の了解が評議会の空気に混じっているようだった。


 そのような事情により、『トリスタン・トリクタン』は咎める者もなく、自由にハス=キロワ海を航行し、彼らの信条に基づいて行動しているのだった。

 アーティスは東に向かうのものだと思っていたが、沈みかけている太陽の方向から、どうやら南下しているようだった。ただ、方向としては東に寄ってはいたが。

「彼らを下ろさないといけないからね」

 様子を見に来たディアナがそう言った。彼ら、というのは乗客の3人と捕まえた『エンテルプライゼ』の連中のことだ。彼ら(・・)ということはアーティスはその中に入っていないらしい。

「ヴェスラの近くまで行って、そこで下ろすわ」

 ヴェスラというはカスタマーナ島の北端に近い港町だ。確かに彼らを隠れ家に連れて行くことは出来ない。

「その割には、東に向いているようだが」

 船が走り出したときに東の方を向いていたので、アーティスはてっきりインゼル島に向かうのだと思ったのだ。

「迂回しているのよ。グラナダを」

 ディアナの顔が曇る。グラナダ島周辺には魔物が出ていて、船を襲われるのだ、とディアナが続けた。

「後で部屋に来て」

 それだけを言うとディアナは踵を返した。海賊の首領は色々と忙しいのだろう。


海賊のお話はここで終わりです。

まだ序盤ですので、魔物の登場はまだ先になります。

ちょっと今人物構成について悩んでいることがあるので、次話は少し先になるかも知れません。

おもしろそうだな、と思ったら、ブックマークや感想などお願いします。

単純におもしろい、おもしろくないでも構いませんので、何か感想をいただけると励みになります。

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