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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第2章 銀珠海洋編
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003:海賊!

『マセルトーラ』。

 それは青き竜の名前であり、この場合はその名を冠した海賊船の名前である。

 その名の通り、船体は青色に塗られており、船首には翼を広げた青竜(マセルトーラ)の像が掲げられている。

 帆は赤く染められ、その上には黒字にドクロと竜が絡んでいる図案が描かれた旗がひらめいている。帆船の中でも高速な船で、神出鬼没と言われていた。

 そして、この海域では魔獣の次に恐れられる存在でもあった。


「やばい!」

「逃げろ!」

 船員達が声を上げ、あわてて帆を張り、近づく青い船から遠ざかろうとする。

「お前らは部屋に戻ってろ。出てくるなよ」

 船長は4人の乗客にそう言いつけると、踵を返して、船首の方へ駆け出した。

 船員達がかなり慌てた様子で船上を駆け回った。

 船員の一人が4人の乗客に向かって、剣を振り部屋に戻るように促す。

「ほら、部屋に戻っていろ!」

 船員が剣をちらつかせた。


 4人の乗客は、喧騒の中、逆らうことなく渋々船内に入っていく。アーティス以外の3人は何が起こっているか分からず、混乱しているた。だが、武器を持たない身で殺気立つ船員に逆らうことも出来なかった。

 4人が入ると船室の扉がバタンと閉じられた。最後尾のアーティスはチラリと後を見たが、船員はついてきていない。

「あなたは部屋に戻る方がよい」

 商人風の男にアーティスは言い、そのあと残り2人に視線を向けた。

「私はこの状況を利用して、剣を取り戻しに行くが、どうする?」

「私も一緒に行く」

 剣士風の女がすぐに同調した。もう一人の魔法士風の男は無言で頷き、同意する。

 3人は荷物を商人風の男の部屋に置き、そろりと船室が並んでいる奥へと足を進めた。



 ドン!

「あうっ!」

 階下へ向かう階段を見つけたとき、船体が大きく揺れ、3人は右側の壁に肩をぶつける。

「なんだ?」

 肩をさすりながら、魔法士風の男が声をあげる。

 揺れが収まる前に、さらにドン、ドンと何かがぶつかる音がする。

「追いつかれたな」

 アーティスが言って、壁にぶつかった肩を回した。

 最初の揺れは船体がぶつかった音だろう。その後は船体同士を繋ぐ渡り板が置かれた音だ。アーティスの脳裏にはその光景が浮かんでいた。海賊船『マセルトーラ』がこの船に追いついたらしい。

「今のうちだ。急ごう」

 アーティスが言って、歩を進める。船室の外がバタバタ、ガタガタとうるさくなってきた。

 その喧騒を気にしながら二人はアーティスのあとに続いていく。

 

「あっ!」

 アーティスが進もうとした先の部屋の扉が開き、男が一人飛び出してきた。

「あうっ!」

 その男が剣を持っていることを即座に見て取ったアーティスは男の手首に手刀を加え、持っていた剣を叩き落とすと、もう一方の腕でその男の首を締め上げた。男の体がドンと壁にぶつかり、男は背中が壁に押しつけられる。あっという間の出来事で、後にいた剣士風の女は眼を丸くした。


 あらためてその男の顔を見ると、乗船前にアーティスの剣を預かった男だった。アーティスは男の首を締め上げながらニヤリと笑った。

「ちょうどいい。私たちの剣はどこにある?」

「へっ!」

 締め上げてくる腕を引き離そうと上げかけた右腕をアーティスの左手に止められた。アーティスは捕まえた腕をすぐに離すと、素早く左腕を引き、その男が上げかけた右肘に拳を打ち込んだ。

「あう!」

 ゴキッと鈍い音がした。壁と拳に挟まれて腕が折れたようだった。アーティスはこの男に慈悲をかける気はない。悪事は報いを受けるべきだ。


「どこだ?」

「・・・」

 男は無言で拒否を示した。強がるが、右腕はだらんとしていて、もう力が入らないようだ。

「・・・どこだ?」

 アーティスは左腕も男の首に当て、両手で男の首を締め上げた。長身のアーティスに両手を首を締め上げられると男の体が宙に浮く。

「うげ」

 男の顔を蒼白に変色した。アーティスの首締めに一切の躊躇や手加減はなく、その眼の光は容赦する意志がないことを示していた。


「・・1層下の・・船尾の方・・・倉庫・・・」

 男は首を絞められているせいもあり、息絶え絶えに答えた。

 アーティスが手を離すと男の体が壁を背にずるずると落ちて行った。アーティスが船尾の方へ体を向けると、男はその隙に床に落ちていた剣を無事な方で手で掴んだ。

 ガンッ!

 男は掴んだ剣をまた放してしまった。剣を掴んだ瞬間、アーティスの左足が半周しながら男の顔面めがけて飛び込んできた。アーティスの左踵と壁の間で男の顔はゆがみ、悲鳴を上げる間もなく気を失っていた。


 アーティスは振り返り、倒れた男を一瞥すると無言で歩き出した。残された男と女は、驚きの顔をしたまま、アーティスの後を追った。

 聞いたとおりに階段を降り、船尾に向かうと、大きな扉の部屋に行き着いた。船員はすべて甲板に上がってしまったのか、誰にも会わなかった。


 扉には頑丈そうな錠前が掛かっていた。取っ手を引いてみても開きそうにない。

 3人はお互いに顔を見合わせて、同時に頷いた。そして、扉と反対側の壁まで下がる。

「1,2,3!」

 アーティスが数え、全員一斉に扉に向かって突進した。

 どんっ!

 倉庫の扉の蝶番が弾け飛び、戸板は悲鳴のような音を立てて内側に吹き飛んだ。


 部屋は船室の倍ほどあり、木箱や布袋が積み上げられて置かれていた。その一角に取り上げられた剣や杖が立てかけられている。アーティスの青剣はひときわ大きいので、すぐに見つかった。

 3人はそれぞれの得物を取り返し、装備した。いつも付けている剣があると何故か安心する。


「さて、と」

 アーティスは背中の青剣を確かめるように右手で掴むと、壊れた扉を跨いだ。

「どこへ?」

 剣士風の女が尋ねると、アーティスは振り向かずに答えた。

「とりあえず、上へ」



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