表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第2章 銀珠海洋編
77/89

002:海賊

お待たせいたしました。

第2話です。



 約束通り、昼前に船の前まで来ると昨日見た男が寄ってきた。

「金は持ってきたんだろうな」

「ああ」

 言って、アーティスは昨日渡した袋の3倍くらいの大きさの革袋を見えた。男は中身は確かめずにうんうんとうなずいて、近くにいた青い服の若者を呼んだ。

「船室に案内してやれ」

 男はそう言うと顎を船の方へしゃくって見せた。それから思いついたようにアーティスに視線を向ける。

「ああ、忘れていたが、剣は預からせてもらう。安全のためにね」

 含み笑いをした男は手を出して、アーティスに向かってゆっくり縦に軽く首を振った。アーティスが躊躇していると催促するように無言で差し出した手を振って見せる。その青い目には有無を言わさぬ感じが見て取れた。

 アーティスは仕方なく、背中の大剣を肩から外して渡す。男は品定めをするように剣を端から端まで見で、受け取った。思ったより重かったのか、受け取った瞬間男は一瞬腰を落とした。

 重そうにその剣を両手で持ち直すと、男はアーティスの腰に顎をしゃくって見せ、催促した。言われれるままに腰の剣も渡したが、さらに男は訝しげにアーティスの胸元に視線を走らせた。

「そこの短剣も預かろうか」

 アーティスはふうとため息をつき、胸当ての内側に隠してあった短剣を取り出して渡した。隠していたわけではないが、胸当ての内側なので外からは分からないはずだ。護身用だっただけにさすがに少し躊躇した。

「何事も航海の安全のためだ」

お前ら(・・・)の、な)

 心の中でアーティスは悪態をついたが、とりあえず船に乗らないと島に近づけないので、ここは従うしかなかった。いつでも取り返せるという自信もあったが。


 案内された部屋は船の右舷側にある小さな部屋であったが、寝台もあり,棚や机も設置され、この手の船としてはまあまあの部屋だった。

 部屋の隅に荷物を置き、寝台に腰掛けると、唯一ある窓から外を眺めた。空は晴天であり、同じ空の下に魔獣がいるとは思えない。確かに町の様子が変わらないのもなんとなく納得がいった。青い海も空も永遠にこのまま存在するように思える。


「出航するぞー!」

 船室の上の方から声が聞こえ、ぎぎーと船体が軋む音が聞こえた。船室を出ると、船員数人が甲板上で走り回っている。

 甲板の端まで行くと、潮の香りが鼻孔をくすぐる。下をみれば、数本の櫂が統率の取れた動きで、波を攪いている。基本的に帆船だが、港の中は狭いので、櫂で漕いで沖に出る。


 ラファンドの港は左右に砂嘴(さし)が伸び、湾のようになっている。このため湾内は高波などの脅威から守られており、その安全性がこの港に船が集まる理由の一つだ。また、湾内の底を(さら)い、大型船が入れるようにしたのも、港組合の努力のたまものだった。そういったことがラファンドの価値を高め、経済的発展を勝ち得ている。


 その湾を抜け、外洋へと船は滑り出した。帆が張られ風をはらんで船を静かに押し出していく。船が大きいせいか揺れが少ない。もちろん全く揺れないわけではないが、波が静かなせいで大揺れは感じなかった。

 手すりに肘を突いて体をもたせかけると、心地よい風が頬を撫でていった。下を見ると青い海に白い波頭が現れては消える。まだ近海のせいか、魚の影は見えなかったが、この海の先に魔物の島があるとは思えないぐらいの平穏さだった。



「悪いが荷物を持って、甲板に来て下さい」

 陸地が見えなくなると、船員の一人に背後から声を掛けられた。

「荷物?」

「はい、ちょっと部屋の整理が必要でして」

 慇懃無礼な感じで上目遣いな若い船員に胡散臭さを感じたが、拒否する理由もないのでアーティスは一旦部屋に戻った。特に広げたものも無いので、たった一つ持ってきた荷袋を取って、甲板に戻る。


 甲板にはすでに3人の乗客が集まっていた。同じように言われたのだろう、それぞれが荷物を抱えていた。

 一人は40歳代の商人風の男で大きい荷物を二つ持っていた。次の一人は旅人の様相の男で、魔法士か何かの修行の途中に見えた。最後の一人は女で、出で立ちは剣士風だが、アーティスと同じように剣を預けているのだろう、持ち物は肩に担ぐ程度の荷袋一つだった。

 なんとなく2リルク(約1.6メートル)ずつ離れた乗客と同じようにアーティスも左の端にならんで、足下に荷物を置いた。5人の船員が乗客相対するように立っている。乗客の後は船室だが、その両脇の船舷の通路には左右に一人ずつ船員がいた。

 要するに乗客を取り囲んでいる状態だ。

(やれやれ)

 アーティスは半ばあきれたように視線を一瞬空に上げ、小さくため息をついた。

 予想していた展開ではあった。だが、もう少し()に近づいてからの方がよかった。陸地が見えなくなるとすぐにこういう(・・・・)行為に及ぶとは。船員達を見回して、アーティスは小さくチッと舌打ちをした。まだ抜いてはいないが、船員達は腰に剣をぶら下げていた。


 程なく、船長らしい髭面の大男が船員の間から現れ、4人の乗客を見回した。どうやら乗客はこの4人だけらしい。右端の商人風の男だけがおびえているようだったが、ほかの3人は落ち着いていて、この状況を理解しているようだった。

「やあ、皆さん。この『エンテルプライゼ』にようこそ」

 髭男は両手を広げ、愛想笑いをしながら、4人に近寄ってくる。

「さて、集まっていただいたのは、他でもない」

 芝居じみた仕草で、大げさに腕を振る。

「・・・有り金を全部出していただこう」

 ぎょろりとした目で確かめるように4人の乗客を見回す。それから長いあごひげを撫でるが、何の返答もないので、もう一度目をギョロつかせながら、4人を見回す。

「聞こえませんでしたか? 有り金を出してください」

 言葉は丁寧だが、威圧が籠もっていた。


「何故、有り金を渡さねばならん?」

 魔法士風の男が髭男に抗議した。年の頃はアーティスと同じ27-28歳だろうか。背も高く、体も鍛えているようで、むき出しの方や足の筋肉が盛り上がっていた。

「そうだ! カスタマーナに着いてから後金という約束だろう。それも有り金全部とはどういうことだ!」

 今度は商人風の男が食ってかかった。

 カスタマーナは、島の名前であり、その島を中心とした諸島を含めた自治州の名前でもある。この男が言っているのは島の方だろう。カスタマーナ島とヘプターニの間にあるグラナダ島に魔獣が出たことで、カスタマーナ島へ行く船はめっきり減っている。そのために、このようなやくざ(・・・)な船に頼らないと行けない羽目になっている。


「そうよ。前金だってたくさん払ったのに!」

 最後に剣士風の女が叫んだ。アーティスよりはかなり下の年代に見える。24歳は切っていると思われる。だが、負けん気の強さが顔に表れている。

 髭の船長はあごひげを撫でながら、今度は笑顔でなく、食いしばった歯を少し見せながら全員の顔を睨みつけた。

「いい気になるなよ! お(めい)ら!」

 いきなり声を荒げ、恫喝する。

「この船で一番偉いのは俺だ! 船長の命令は絶対だ! それが海の掟なんだよ!」

「何を言って・・」

「四の五を言わずに出すもん出しゃいいんだよ!」

 魔法士風の男言葉を遮って、髭男が威迫する。その声に連動して、乗員を囲っている船員達が腰の剣を抜いた。この地方ではよく見る刃が反った曲剣だ。その刃が傾きかけた太陽の光にきらめいた。

 魔法士風の男と剣士風の女は腰を下げ構えを取るが、どちらも武器は持っていない。


「船長! 船が追ってくる!」

 剣を構えた船員達が前に出ようとしたその時、帆柱の上で監視していた船員が甲板にいる髭男に叫んだ。甲板上にいた全員がその帆柱の先を見上げた。

「右後方! やばい! すげー速い奴です!」

 監視の男が追加の情報を叫ぶ。その声に従って、甲板上の視線が上から右の後に向いた。

 確かに船が近づいていた。帆船で、見る見る近づいてくる。帆の色が赤い。

「まずいですよ! ありゃ『マセルトーラ』だ!」

「何?!」

 船長以下船員の全員が叫んだ。



海と言えば海賊。

と言うわけで海賊の登場です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ