34:決勝戦-ラジーン -2
最後の決勝戦ですが、この回は剣戟のシーンのみです。
めんどくさい方は読み飛ばしてもらっても構いませんが、ここが真骨頂なので是非読んで感想などいただきたいと思います、
何十合も打ち合い、闘技場には重い剣が咬み合う音が何度も響き渡った。2人とも疲れを知らぬのかと思われたそのとき、アーティスの剣を弾いた瞬間、スルフォンが足をよろめかせた。その隙を狙って、アーティスは剣でなく、右足をスルフォンに向かって蹴り上げる。それを予期していたようにスルフォンが後ろに飛んで逃げ、四度めの間合いを取る状態になった。
「あぶない、あぶない。そっちの流派は蹴りも危険だよな」
危なげなくかわされた後に言われても全く真実味がないが、スルフォンは大げさに首を振って見せた。まだまだ余裕があるようだ。
よろめいたのもわざとではないかとアーティスは疑っている。剣戟は続いていたが、お互いに手詰まりになっていた感もある。かといって引けば追われるのも分かっていて、千日手のようになっていた。そこでわざと隙を作ったのではないか。飄々としていて、本気を掴ませないのもこの男の手だろう。だが、その剣技は達人といってもいい。変化自在。豪も柔も可能な剣さばき。さすがは聖剣士というところだ。
「さてさて」
つい浮かんだ言葉が口を突いて出た。さてさて、もしくは、やれやれ、である。スルフォンとしては、相手に打たせておいて隙が出来たところを一気に突くつもりだった。だが、この王子殿はそう思い通りには行かなかった。過去の試合や昨日の洞窟で戦いから、かなりの腕前であることは分かっていた。だが、ここまで苦戦するとは思いもよらなかった。速さも強さも互角と言っていい。勘もいい。アルルアの近衛兵団で揉まれたというので、それなりだとは思ったが、正直聖剣士の自分にここまで付いてくるとは思ってなかった。楽勝でないのは分かっていたが、気を引き締めていかなかれば負ける可能性もある。ただ、それだけに楽しい相手でもあるが。
スルフォンが剣を立てた構えから右に飛び、アーティスの左から斬り込んでくるように見えた。アーティスはそれに合わせて左に体を向けるが、その瞬間スルフォンが左に飛んで逆から斬り込む。咄嗟にアーティスは体をひねり、その剣を受ける。さらに、スルフォンは斬撃を振るった。
「そろそろ!、終わりに!、したいね!、王子!、殿!」
一音節ずつ振り下ろされる大剣をアーティスが左右に打ち返す。
「そう、です、ね!」
同じように打ち返しながら体勢を立て直し、今度はアーティスがたたみかける。
連続した強打がスルフォンを襲い、守勢一方に追い込まれる。
ガキン!
何度目かに打ち下ろされた剣刃をスルフォンの直剣が捕らえた。二人の動きが止まり、互いの剣刃を合わせたまま、押し合いが続く。
お互いの剣刃越しににらみ合い、両腕で押しながら相手の出方を探る。
そろそろ潮時か、とアーティスが思い始めたとき、スルフォンが片方の口端を上げてにやりと笑った。それを合図に2人の剣士はお互いに飛び退り、一瞬間合いを空けて、再度前進し剣を振るう。
ほぼ同時だったが、ややスルフォンの剣の方が速く、アーティスが受ける形になった、基本スルフォンの剣は剛の剣である。その膂力を活かした重い剣を振り下ろしてくる。
受けるアーティスも決して柔のみの剣ではない。スルフォンに比べれば細身に見えるが、その筋力は十分に鍛えられている。スルフォンの剛剣も何度となく受け止めている。
だが、先んじられた分、アーティスの方が受け身で、やや押されていた。長剣を受けながら、アーティスの足が少しずつ下がっていく。
「あっ!?」
すり足で下がるアーティスのかかとが何かに当たった。おそらく小石であろうが、アーティスの足の動きが止められ、後ろに体勢を崩してしまう。咄嗟のことで、体は開き、剣を持つ手も外へ振れる。
その機会を見逃さず、スルフォンは渾身の一撃をアーティスに向かって振り下ろす。振り下ろされる剣先が陽の光りに照らされて、キラリと光った。
アーティスは仰け反るような体勢になっていて、振り下ろされる剣を受けることも避けることも出来そうになかった。悲鳴に似た歓声が闘技場に響き渡る。
アーティスはほぼ無意識に倒れ込んだ体をやや左にひねって、左腕を大地に突き立てた。さらに倒れ込む勢いを利用して、右足を大きく蹴り上げる。その振り上げた踵がスルフォンの剣を蹴り上げた。
アーティスは左腕を大地に付いたまま、足を振り上げた勢いを利用して後方宙返りの技を見せた。
一歩間違えば、足を断ち切られるところであったが、アーティスの踵は正確に長剣の腹を蹴り上げていた。
「うおっ!」
叫声を上げたのはスルフォンだった。振り下ろした剣を蹴り飛ばされ、危うく柄を放すところだった。スルフォンは一瞬勝利を確信したが、本当に一瞬だった。強い。まさにその一言だった。
「そういや足はくせ者だったな」
再び視線を合わせて対峙したスルフォンがにやりと笑う。まだ余裕があるのか、そう見せているだけなのか。アーティスの方もつられてやや疲れ気味に口角を上げた。さすがは聖剣士というところか。強さの次元が違う。アーティスの最大限で、どうにかついて行けてる感じだ。
一瞬のにらみ合いから、2人は同時に剣を振り上げ、互いに前進して間合いを詰める。渾身の斬撃を放ち、金属の刃がぶつかり合い悲鳴を上げた。間髪を入れない剣刃の攻撃をお互いに打ち出しながら、押し、引き、互いの位置を入れ替える。
闘技場の歓声は次第に大きくなって行くが、闘っている2人の耳には、その喧騒は入ってこなかった。むしろ静寂の中で闘っているぐらいに静まっていた。2人の集中力はそれぐらい高まっており、途切れる兆しもなかった。今の2人にはお互いしか見えていなかった。
「楽しいねぇ、王子殿」
鍔競り合いで刃を合せながらスルフォンが声を掛ける。余裕がありそうに見えるが、内実やや焦っていた。決着がつかない状態が続いている上に、アーティスの体力が落ちている気がしない。スルフォン自身は体力に自信があったが、それでも疲労してきている。このまま長引くと不利になることも考えられた。
「・・・だけど、そろそろ決着したいねぇ」
言って、アーティスを押し返すと、それを追うように突きを入れ、それを直剣で弾き返されるとさらにその軌道をひねって剛剣を振り下ろす。
アーティスは剣で受け止めるが、その強烈な斬撃に体勢を崩してしまう。さらにスルフォンが剣を振り下ろしてくる。アーティスの剣は先の斬撃で打ち下ろされ、受けるのに間に合わない。咄嗟に、アーティスは左腕の手甲で受け止めた。
ガツンと音がし、衝撃が左腕に走った。間髪を入れずにスルフォンの攻撃が襲い来る。体勢を崩し、片膝を突いた状態で、左腕一本で受け続ける。だが、スルフォンの連撃は強烈を極め、薄い銅製の手甲がひしゃげだした。
バキン!
手甲が剛剣に耐えきれず、真っ二つに割れて弾け飛ぶ。だが、スルフォンの連撃は止まらない。再度スルフォンの直剣がアーティスの左腕に振り下ろされる。
バチン!
「何?!」
アーティスの左腕をたたき折るはずの斬撃は、左腕に触れた瞬間、青い輝きが発生し弾かれた。剣を弾かれた勢いで、スルフォンは二歩ほど後退り、怪訝な顔でアーティスを見つめた。頭上に振り戻された剣を持つ両手がジンジンと痺れている。
確かに剣刃はアーティスの左腕に達していた。叩き切るか、少なくとも前腕を折っているはずの剣は、アーティスの左腕から一瞬発せられた青い光に弾かれたように見えた。スルフォンはその青光が輝く瞬間にそアーティスの腕に鱗のような文様が見えた気がした。
剣闘会の規定では、攻撃に関する魔法はもちろん、防御に関する魔法も禁止されている。大怪我をしないように神官から最低限の致死回避の聖法は授けられるが、それはこのような防御の光を発するようなものではない。
だが、スルフォンには、この王子がそんな規定違反を犯すとは思えなかった。これだけの強さならその必要はないし、決勝戦へ来て、そんな意気地のないことをするとも思えなかった。少なくともこの王子の戦い方を見て、誠実さはくみ取れても、卑小な気質があるように考えられない。
当の王子を見ても多少の戸惑いが見える。意図したことではないようなそぶりに見えた。
アーティスは眼前で左腕を構えたまま、しばし動かなかった。それから一回息を大きく吐いて、ゆっくりと立ち上がった。両手で柄を握りなおし、右前に剣を立てて構える。
スルフォンも頭上の剣を体の正面に下ろしてアーティスに剣先を向けた。
中止の合図はかからなかった。審判である神官が一瞬の光を見逃したのか、それを防御魔法の類いではないと判断したのか。いずれにせよ、試合は続行された。
スルフォンの両手にはまだ痺れが残っていた。柄を握れないことはないが、力が入らない。
「は~」
スルフォンが声になるほど息を吐き出した。呼吸法の一種であり、聖剣を使う際に呼吸を整える作法である。全身の筋肉に力を送り、筋力を取り戻す。
「ふん!」
全身に力がみなぎり、スルフォンは短く剣を振った。両手の痺れもなくなり、むしろ筋力が増している気がする。
「それじゃあ、決着を付けようか、王子殿」
スルフォンが不敵に笑うと、アーティスのそれに答えるように左の口角を上げた。
「望むところ!」
二人は再び、相手に向かって剣を振り下ろした。正面からの剣戟が二合三合と続いていく。
連撃を競い合う二人の顔には薄笑いに似た表情が浮かんでいた。
スルフォンは引かなかった。全身の力を込めて直剣を振り斬る。先ほどの青光の件はどうでもよくなった。これだけの剣士が魔法を使うという器の小さい真似をするはずがない。何かわけがあるのだろう。だが、今はそんなことはどうでもよかった。強い相手と剣を交える、その行為そのものに快感を得ていた。剣士の性と言うべきものだろう。
「どうしようもないな」
何故か、にやけた笑いが止まらない。
アーティスは勝機を見いだせず、どちらかというと守勢に回っていた。自身も斬撃を繰り出すが、ことごとく弾かれる。経験値の差というものだろうか。スルフォンはギリギリでかわしているように見えて、実に効率的に攻撃と防御を繰り返していた。一見大振りなように見えて、動きに無駄がない。独特な剣法だが、邪道ではなかった。間違いなく、アーティスが闘った中で最強であった。強い相手に向かうと何故か心が躍る。今はその最高潮を感じていた。
打ち、受け、突き。
上、下、右、左。
二振りの直剣が空を裂き、宙を斬る。
アーティスとスルフォンは全力で剣を振るう。歓声が舞う闘技場に剣刃がぶつかり合う音が響く。
次回がこの章の最終話となる予定です。
ようやく、ここまでこぎ着けました。
楽しんでいただいているかは疑問ですが。。。。




