31:緑の魔獣タルカス
緑色の巨躯で、四本腕、名前が「タルカス」とくれば、ピンと来る人が
いるかも知れませんが、しょーもない映画版ではなく、イメージはあくまで
原作の小説です。敬愛する故武部本一郎氏の挿絵がベースです。
まあ、そんなことはさておいて、本編をどうぞお楽しみください。
「だからといって、放っておくこともできない」
アーティスはタルカスと数撃剣を交わしながら当然の返答をした。
「まあ、そういくことなんだけどな」
スルフォンは聖剣を両手でぐっと握りながら、自嘲気味に答えた。
『聖剣は魔獣を倒すためにある』
聖剣の先代の持ち主である叔父からよく聞かされた言葉だ。通常の剣では強い魔獣を倒すことはできない。魔獣を倒すために聖獣である竜と鍛冶神ヘルオコスが協力して作ったのが聖剣である。世界に生きる者ならば誰もが知る神話だった。それゆえ聖剣を持つ剣士は魔獣を目の前にして逃げることは許されない。それが聖剣を持つ意味であり、持たされた宿命でもある。
「・・そんなことはわかっているけどね・・」
口の中でつぶやいて、スルフォンは中段に剣を構え、緑の魔獣に斬り込んでいった。
タルカスは2人の剣士に対してよく対応していた。体は一つだが、左右に2本ずつ腕が生えている。左右の上の腕には文字通りの大剣が握られており、それを自在に振り回していた。うまくその間合いに入っても、剣を持っていない下の腕が拳を突き出してくる。それも剛腕ゆえの高速な突きだ。その両方を避けて魔獣の体に剣刃を入れるのは至難の業だった。
時折、スルフォンが雷撃を打つがすべて地中へ流されているようで、効果が無かった。タルカスの体表には先ほど戦った黒の魔物と同様に雷を流してしまう特性があるようだ。
半ズーサ(約14分)ほども斬り合ったが、魔獣も人間側もお互いに致命傷になるような斬撃は与えられなかった。まだ疲労と言うほどではないが、いずれ体力が続かなくなる時が来るだろう。魔獣の方は全く衰えが見えなかったので、人間側の方が不利に思えた。
「これなら!」
叫んで、スルフォンはたまたまがら空きになったタルカスの顔面に向かって剣を突き出した。すぐにタルカスの下の腕が伸びてきて間合いは縮められない。
だが、それは予測していた。タルカスの剣撃は単調とは言わないが、それほど千差万別というほどではない。特に防御は同じような動作が多かった。
届かない剣だがそれを持つ腕を無理に伸ばし、スルフォンは魔獣の顔をめがけて、雷撃を飛ばす。光の束がタルカスの顔に当たって一瞬はじけたが、散った以外の光りは魔獣の体を伝って、大地に溶け込んだ。
魔獣は鋭い眼光を放つ目を開き、しっかり閉じていた口を開いて「おお~ん」と雄叫びを上げた。
「ちぇっ、ダメか」
飛び退ったスルフォンは舌打ちをして、口の端をゆがめた。
「外から当てるだけじゃだめだな」
スルフォンはタルカスの方を向きながら、アーティスに聞こえるように声の音量を上げた。それから意味ありげにアーティスに向かって目配せをする。
視線を合わせたアーティスは、スルフォンが魔獣の正面に移動するのを見て、スルフォンに頷き返し、スルフォンの背後に回るように足を動かした。
聖剣士は緑の魔獣と十分間合いを取ると、一気に駆け寄り剣を突き出した。タルカスは右の大剣を振り下ろして、近づく剣先を叩き落とそうとした。スルフォンは左に体を寄せ、その大剣を避ける。そこへタルカスの左の大剣が振り落とされた。
スルフォンが剣の軌道を変えて下段から、振り下ろされる大剣を思いっきり弾き返した。ガツンと音を立て大剣がもと来た軌道を戻っていき、天を指した。
さらにスルフォンは体をひるがえして、先に振り下ろされたタルカスの右の大剣も下から叩き上げた。こちらの大剣も宙を差し、タルカスは万歳をしたように体を反らす。
そこにアーティスがスルフォンと同じように駆け込んできた。
「失礼!」
アーティスは飛び上がり、さらにタルカスの前にいるスルフォンの背中を蹴った。
アーティスの体が宙に舞い、タルカスの頭上から落下する。アーティスは逆手に持った直剣を真下の魔獣めがけて突き出した。おあつらえ向きに魔獣は頭上のアーティスを見上げ、あんぐりと口を開いている。
「外がだめなら・・」
その口にめがけてアーティスは剣先を押し込んだ。
「内側に!」
落下するアーティスの体重も加えた勢いで、直剣は魔獣の喉の奥まで突き込まれる。魔獣の肩に着地したアーティスはさらに奥へと剣を突き立てる。
「ぐああああぁぁぁ!」
タルカスはくぐもった叫びを上げた。その声とともに口から赤い血が噴き出す。大剣を振り回し、肩の上の敵を叩き落とそうとする。アーティスはその剣先が届く前にタルカスの上から飛び降り、宙で一回転して、岩の床に膝を付いて着地した。
タルカスは叫びながら、牙のある丈夫な歯で噛み砕こうとしてガッと歯噛みしたが、ガツンと音がして歯が止まった。一度の噛砕では剣は折れなかったようだ。アーティスが突き込んだ直剣は口から喉を貫いていて、タルカスは上を向いたままになっている。苦しそうな魔獣は喉に突き立てられた直剣を抜こうと両腕を伸ばした。
だが、その手が届くまでにスルフォンが渾身の雷撃を喉に突き立てられた直剣に放つ。金色の光束が聖剣から放たれ、アーティスが突き立てた直剣に吸い込まれるように落雷する。
バギバギと雷鳴が轟き、目を開けていられないほどの閃光が辺りを包みこんだ。
緑の魔獣の口と目と脇の切り傷から赤い炎が吹き出し、巨躯がさらに大きくなったように内側から体が膨らんだ。そのまま緑の体が次第に黒に塗り替えられていく。シュウシュウと音を立て、全身が炭化していく。緑色から黒くなった巨体のあちこちから白い煙が立ち上った。肉が焦げるような臭いが鼻を突く。
やがて真っ黒になった巨体は崩れ落ちるように倒れ、石床にぶつかって四散する。2本の大剣が持ち主の握力を失って、ガシャリと音を立てて床に落ちた。
アーティスとスルフォンはお互いに視線を合わせ、握った拳を合わせる。
「お怪我はありませんか」
アーティスははメルフォターゼの方を振り向いて、薄い緑のドレスを着た皇女に声を掛けた。
「大丈夫です」
皇女はうなずいて答え、そこら中に飛び散った黒い塊を気にしながら2人の方へ歩み寄った。
「ありがとうございました」
皇女は胸の前で手を組み、2人に頭を垂れた。
アーティスは無言でもと魔獣の頭であったろう黒塊から長剣を抜き出した。2-3度剣を振って、剣刃に付いた炭を払い落とす。剣先の裏表を見てから腰の鞘に納めた。
アーティスはあらためて炭となった魔獣の残骸を見回し、「はぁ」と肩を落とした。ようやく息が継げる。ただ、周囲にはまだ焦げた臭いが立ちこめていて、深呼吸することははばかられた。
「お二人とも大丈夫ですか?」
メルフォターゼが同じように肩を落としている二人の剣士に声を掛けた。
「とりあえずは大丈夫です」
アーティスは無理矢理笑顔を作って見せた。スルフォンに至っては、手を上げて返事するだけであった。疲れた。その一言に尽きる。特に怪我はしていないが、腕や肩や足が疲労で鉛のように重かった。皇女の手前、どうにか立っているが、ベッドがあれば倒れ込んでいるだろう。
だが、アーティスには心配なことがあり、倒れてもいられなかった。
アーティスが重い足をどうにか元来た入り口に向けようとした時、その奥からガチャガチャと鎧の音が聞こえ、白い鎧を来た兵士が数人飛び込んできた。白い鎧の形式からアルルアの近衛兵であった。
剣と盾を構え入ってきた兵士たちは、異臭に顔をしかめ、辺りの様子を窺った。すでに戦闘は終わったように静かで、3人の男女がたたずんでいる。
「皇女殿下、ご無事で?」
最初に近衛兵が声を掛けたのは、その部屋で唯一の女性であった。薄緑色のドレスはあちこちが破れ黒い汚れも目立ったが、皇女の気品と美貌を損なうものではなかった。白い鎧をガチャガチャと鳴らしながら、二人の兵士がメルフォターゼ皇女の前にひざまずいた。後の3人の兵士は周囲を窺うように剣を構えたまま、広い部屋全体を見回している。
「私は大丈夫です。アーティス王子とスルフォン殿にお助けいただきました」
そう言って、メルフォターゼは疲れたふうの2人の剣士に手の平を向ける。
近衛兵の二人は立ち上がり、それぞれアーティスとスルフォンに深々と頭を下げた。
「こたびは皇女殿下をお救いいただき、お礼の申しようもございませぬ」
頭を下げたのは、近衛連隊副隊長ファラーン・ランスフォード。アーティスやメルフォターゼの剣の師であり、剣闘会出場者であった。
「いや、まぁ」
師に頭を下げられ、返答に困ったアーティスは頭を掻いた。
魔獣を倒し、皇女も助け出されました。
よかった。よかった。
・・・・
私ごとですが、今家のリフォームをやっておりまして、昼間は工事でバタバタしています。
いや、こちらは見ているだけなのですが、何か落ち着きません。
そんな中で書いているので、文章的にもちょっとうまく書けていないように思います。。。




