26:突入-アーティス&キュリアン&ショーン
アーティスは一度身をひき、振り向いてキュリアンとショーンに頷いた。二人とも無言でうなずき返す。
金色の髪はメルフォターゼ皇女とスーナ王女に間違いない。眠っているのか、眠らされているか、意識はないようだった。誘拐犯の連中は同じような革鎧を着けており、傭兵などの雑多な集まりではなさそうだ。
「皇女と王女は奥の方の柱にいる。見える範囲で相手は5人」
頭を寄せた2人にだけ聞こえるような小声でアーティスが状況を伝えた。
「応援を呼ぶか?」
キュリアンの問いにアーティスは頷きかけたが、ショーンが首を振った。
「すぐに助けましょう。待っていられない」
ショーンは明らかに焦っていた。スーナを早く助けたい。そういう気持ちが面に出ていた。
「いや・・・」
ショーンの様子にやや苦笑しながらアーティスが口を開いたが、ショーンが遮った。
「だめです! すぐに助けましょう!」
ショーンが声を荒げた。キュリアンとアーティスは同時に口の前に指を立て、「シッ」と小さく息を吐いた。
ショーンが(しまった)という顔をして、両手で口を押さえた。
「なんだ?」
「誰か、いるのか?」
部屋の中で声がして、ガチャガチャと鎧の音がした。気付かれたらしい。一時引き上げることは可能だが、そうすると逃げられる可能性がある。この部屋の奥にまだ部屋や通路があるかも知れない。
「チッ」とアーティスが舌打ちした。
「俺とキュリアンが右側に飛び込む。ショーンは左から回って皇女と王女を助けてくれ」
アーティスが早口で2人に告げる。
「キュリアン、飛び込んだときに明かりを増やせるか?」
「灯光の魔法か? 出来るが、俺たちのことがバレるんじゃ」
「どうせバレてる。それより暗がりに潜まれている方が不利だ」
確認できたのは5人だったが、それだけとは思えない。女性とはいえ、人を2人も誘拐して運ぶのであれば、10人ぐらいいる可能性もある。
「分かった」
キュリアンは短く答えた。
「これを貸しておく」
言いながら、アーティスが腰の剣を抜いてキュリアンに押しつけた。キュリアンは魔法士であり、剣は帯びていなかった。だが、剣が使えない訳ではない。
「お前はどうする?」
「最初の奴から奪うさ」
キュリアンの問いにアーティスは笑って答える。
「行くぞ!」
アーティスは言って、足を踏み出した。キュリアンがすぐ後に続き、ショーンは剣を抜き反対側へそろりと動き出す。
アーティスは広間に駆け込むと、すぐ近くの柱の傍にいた兵士の首に腕を掛けた。
「なっ! ぐっ!」
首に腕を絡められた兵士は喉を潰されうめいた。首を何者かに捉まれ、上半身がその勢いで後ろに押される。さらに足を掬われ、そのまま背を後ろに落ちていく。大理石の床に背中と後頭部を打ちつけ、一瞬息が詰まった。そして、その兵士は何が起こったのか分からないまま、気を失った。
アーティスは倒した兵をほとんど見ずにその腰の鞘に収まっていた剣を抜き取った。立ち上がるとすぐ近くにいた兵士に剣を振り下ろす。
アーティスに遅れて部屋に入ったキュリアンは、アーティスが兵士の一人に飛びかかるのを横目で見ながら、左手を口に近づけて魔法の言葉をつぶやいた。短い言葉を言い終わると、その左手を天井に向かって掲げ、握った手を開いた。
光の粒が天井に向かって飛んでいき、天井付近で花が開くように光が広がった。
「なに!?」
兵士たちがそのまぶしさに一瞬目が眩んだ隙に、アーティスは二人目の犠牲者の腹に剣を突き立て、周囲に視線をめぐらせた。最初に確認した5人以外に柱の陰で見えなかった兵士を4人確認した。合計9人。すでに2人をアーティスが倒し、残り7人。
アーティスは素早く計算し、他に隠れている者がいないか辺りを見回した。。
「おう!」
キュリアンが兵士の一人と剣を交えた。2合咬み合い、剣を合わせたまま動きが止まる。
キュリアンは魔法士見習いであって、剣士ではない。だが、アーティスとお互いに魔法と剣を教え合ってきた。アーティスの魔法能力は未知だが、キュリアンの方はそこそこの剣の腕前になっていた。
押し合いから、お互いに一歩退いて間合いを取る。
アーティスとキュリアンが兵士たちの注目を集めている隙をついて、ショーンは柱の陰を伝ってスーナとメルフォターゼの傍に駆け寄った。
「スーナ、皇女殿下」
潜めた声で呼びかける。返事がないので、再度名を呼び二人の肩を揺すった.
「あ、兄上・・」
スーナがうつろな目でショーンを見た。メルフォターゼは小さく頭を振っている。ショーンはスーナの肩を抱いて、体を支えた。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「皇女殿下」
スーナに肩を貸しつつ、メルフォターゼを呼ぶと、皇女は両手で頬をパンパンと軽く叩いた。何をやってもこの女性は綺麗だ。現実を一瞬忘れ、ふとショーンはそんなことを思った。
「ショーン王子!?」
「こちらへ」
自身もスーナを抱いたまま後退り、驚くメルフォターゼに後方を指示した。
メルフォターゼは一瞬周囲を見回し、アーティスとキュリアンと自分たちを拉致した兵士たちを視線の先に捉え、すぐに状況を把握した。
柱を手を添えて立ち上がると、無言でショーンに従った。
その動きに兵士の一人が気がついた。
「待て!」
叫ぶとその兵士が剣を振り上げて、近づいてくる。
ショーンは皇女と王女を背にかばいながら、剣を構えてその兵士に対峙した。
「貴様!」
兵士が頭上の剣を振り下ろそうとして、突然動きを止めた。
「ショーン王子・・・」
その兵士の口からつぶやきが漏れた。
「なに?」
ショーンは困惑気味にその兵士を見た。顔に見覚えはない。装備にも特徴がない。ぐるりと兵士の体を見回した視線が兵士の襟に付いている紋章を見つけた。ショーンの瞼が一瞬ピクリと動いた。
「ショーン!」
アーティスの呼ぶ声がショーンを現実に引き戻した。ショーンは中途半端に下ろされたままの剣を弾き飛ばし、スーナとメルフォターゼを背にしたまま後退る。
だが、その先にもう一人兵士が現れた。
「チッ!」
二人の兵士を相手に剣を振るっていたアーティスが、横目にその様子を見て舌打ちした。ショーン一人では2人をかばって戦うのは厳しい。だが、アーティスも二人を相手しており、キュリアンも一人を相手に奮戦中だ。
「まずい」
1本の剣を弾き、2本目の剣を受け止めながら、アーティスは今日3度目の舌打ちをした。
外伝もようやく終盤になってきました。
もう少し早く投稿できればいいのですが。
そういえば、8月で開始してから1年経ちました。
当初の予定では、もう3章辺りが終わっているはずなんですがね。
なんとかがんばります!




