23:準決勝戦《ケト・ラジーン》
大変お待たせしました!
本業(会社員)が忙しくなり、なかなか書けませんでした。
実は一度この章は書いたのですが、時間的なつながりに問題があり、全部書き換えることになってしまいました。
そんなこんなで、いつの間にか2ヶ月も経ってしまいました。
でも、以前から書いてきたように止めるつもりはありませんので、時間がかかっても最後まで書くつもりです。
気長にお付き合いいただければと思います。
翌日には剣闘会も6日目、準決勝の日を迎えていた。残す試合はあと3試合。人々の盛り上がりも最高潮に達していた。すでに出場者は半分に減り、勝ち上がってきた4名が激突する。いずれもその強さを見せつけてきた4人であり、好試合が期待された。
今巷で一番注目されているのは、アーティス・トランだった。王子が参戦したというだけでも目を引くが、準決勝まで勝ち上がり、実力もあると知れると瞬く間に人気になった。特に女性の人気が高く、王子という身分も相まって、女性人気はダントツだった。闘技場に黄色い声が増えたのは明らかにアーティスのおかげと言えた。
そのほか、下馬評で1位だったスルフォン・ソマは、圧倒的な強さを見せ、順当に準決勝に勝ち上がっている。強国ドリエのイアン・ハンドリアも下馬評では上位で、その強さは認められていた。残る一人、デセン・ステアリンも強国と言われるテルアーナからの参加者であり、アルファムのもう一人の出場者であり、前回優勝者フォン・リックを倒して準決勝に勝ち上がってきている。
誰が優勝しても文句ないほど実力者が揃っている。これからどういう戦いが始まるのか、世間の話題は尽きない様子だった。
第1試合は、アルファムのアーティス・トランとドリエのイアン・ハンドリアの対決であった。アーティスは青の鎧、対するイアンは赤い鎧と、武具の色は対照的で、目にも映える試合となった。
勝った方が決勝戦へと進み、栄光を勝ち取る舞台に上がることができる。イアンは試合前から長剣を振り、やる気満々だ。赤い鎧にはいくつか傷が付いているが、それは歴戦の証しだった。アーティスを睨みつける視線は野獣のように鋭い。
一方のアーティスもこれまでとは違う雰囲気を漂わせていた。1回戦や2回戦は余裕がありそうに笑みを浮かべていたが、この試合では相好を崩さず、真剣な眼でイアンを睨み返していた。
剣闘会が始まる前までは負けてもいいと思っていた。だが、1試合勝ち、2試合勝つと、この剣闘会の重みが分かってきた。いずれの出場者も己の国を背負っており、真剣だった。街や観客はお祭り気分だが、この剣闘場の中は真剣勝負の場だ。ルールがあり殺すことはないが、皆が鍛錬し、工夫し、持てる能力を使い、勝とうとしていた。剣を交えてそれを感じたアーティスもそのような戦士の思いに心を動かされていた。勝った以上は、さらに勝ち続けなければならない。それが勝った者の責務だ。
アーティスとイアンはお互いに距離を取りながら、二人で円を描くようにじりじりと右へ回り始めた。耳が痛くなるほどの歓声の中、二人の戦士は無言で相手の隙をうかがい、剣先を小刻みに振る。
ほぼ半回転し、お互いの位置が入れ替わった辺りで、アーティスが足を止めた。不意に剣を振り上げ、イアンめがけて足を出す。あっという間に距離を詰め、アーティスは第1撃を振り下ろした。
とっさにイアンは左腕を挙げ、丸い盾でアーティスの斬撃を受け止める。ガンッと金属がぶつかる音が闘技場に響いた。予想以上に重い一撃にイアンはガクッと片膝を落とした。
「あうっ!」
思わず声を上げたが、イアンも膝を付いたまま剣を横に薙ぎ、アーティスの足下を狙う。
アーティスは飛び退って、その刃を避ける。一歩下がって剣先に空を斬らせると、下がった反動で再び前に出る。アーティスはその間合いを急激に詰めて、右手の剣を下側から斬り上げていく。
盾の下から迫り来る剣先にイアンは上半身をのけぞらせる。そのまま体をひねり、右足、左足とステップを踏むようにして体を回転させ、間合いを取った。ザッと足を踏みしめ、再び剣を構える。
が、その変えた剣にアーティスの剣が襲いかかる。
「なにっ?!」
アーティスは逃げられたイアンを追い、その勢いのまま、剣を振るっていた。イアンの体勢が整わないうちに剣を打ち下ろす。驚くべき速さでアーティスが攻撃を仕掛けてくる。
受けた剣の先に相手の顔があった。そのアーティスの口角が上がり、笑ったように見えた。
次の瞬間、アーティスの剣が再び頭上から襲いかかった。再度左腕の盾でその痛撃を受けるが、間髪入れずに次々と剣撃が振り下ろされる。
全く隙のない連続攻撃にイアンは守勢一方になった。しかも巧妙にイアンの右側から攻撃を仕掛けており、どうしても剣で受けることになる。さらにイアンが持つ剣の鍔付近に剣撃を当ててきており、右腕に負荷をかけ剣を落とさせる狙いが明らかだった。
だが、そう分かっていても剣撃の速さと苛烈さから避けることは出来なかった。アーティスは身長はあるが決して力自慢の体格という訳ではなく、どちらかと言えば細身の体つきだったが、その剣は重く強力で、連続でその衝撃を受け続けるのは拷問に近かった。
イアンは右手にしびれを感じ、「やばい!」と思った途端、持っていた剣が弾き飛ばされた。体を右にひねって後方へ離れていく剣を右手で追ったが、一度手を離れた柄に届かなかった。イアンの剣は3リルク(約2.5メートル)も飛んで、むなしく大地に落下した。
イアンは痺れて力が入らない右手を見つめ、次いで天を仰いだ。闘技場は割れるような歓声にあふれ、アーティスの勝利を宣言する神官の声が聞こえないほどだった。
アーティスは高々と長剣を掲げ、闘技場を見回した。歓声が一段と大きさを増し、熱狂が渦巻いた。
狂熱は出場者の二人が闘技場を去っても冷める様子は見えず、歓声がいつまでも続いた。すでに次の試合の準備も出来ていたが、判定官3名が協議の上、2ズーサ(約2時間)の休憩が取られることになった。
闘技場内がようやく落ち着いた後、準決勝の2試合目が宣言された。
戦うのは、テルアーナのデセン・ステアリンとガイデスメリアの聖剣士スルフォン・ソマの両名。いずれも2戦2勝で勝ち上がってきた強者だった。だが、接戦を超えてきたデセンに比べ、聖剣士として知られているスルフォンは圧倒的な強さで勝ってきている。
残念ながら、強さの差は歴然で下馬評でもスルフォンの勝利を予想する方が多かった。
試合は大方の予想を裏切ることはなく、スルフォン・ソマが序盤から剛剣を見せつけ、デセンに反撃する隙も与えずに剣を叩き落とした。
第1試合と同じような展開に剣技の大会としては面白みに欠ける2試合であったが、観客の方は見応えのある試合に大いに興奮したようだ。
早くも巷では、明後日に行われる決勝戦の話題で持ちきりだった。
何しろ、アルファムの第1王子とガイデスメリアの聖剣士の戦いである。しかも両者ともに準決勝でその剛剣を見せつけていた。
剛剣対剛剣。
剣闘会としてこれほど盛り上がる試合はないだろう。
明後日まで待ちきれす、衛兵を捕まえて「明日試合をしろ」と要求する酔っぱらいまで出て、街の喧噪は最高の盛り上がりを見せていた。
ぶん、ぶんと音が鳴るほど直剣を2-3度振り、アーティスは剣を垂直に立て、顔の右側に構えた。
「勝てそうなのか?」
アーティスの傍で草むらに腰掛けたキュリアンが尋ねた。
「勝てるわけないだろう。相手は聖剣士だぞ」
アーティスが剣を下ろして、キュリアンに向き直った。
「・・・ただ、ここまで来たからには全力でぶつかるさ」
アーティスは剣を下ろして、息を吐いた。
「胸を借りるってやつか」
「そんなのじゃない。言ったろ、全力でって」
アーティスがにやりと笑う。
「やるからには勝ちに行くさ」
決意めいた言葉を吐いて、アーティスは直剣を横に一振りして、鞘に納めた。
「アーティスさま~」
最近聞き慣れた声がして、アーティスが振り向くと、予想通りの人物が駆け込んで来た。
白にピンクとベージュをあしらったドレスを着た王女がアーティスの前で止まった。
「昨日も同じ事があったような気がする」と隣でキュリアンがつぶやき、アーティスも苦笑いを浮かべる。
「やはり、ここにいらっしゃいましたか」
スーナ王女は宝のありかを言い当てた探偵のように、胸を反らして口端を得意げに持ち上げた。
遅れて、メルフォターゼ皇女がやってきた。今日は薄いピンクに茶色の太めのベルトを腰に巻き、肩には花をイメージしたフリルが付いている。可愛い感じだが、気品のある立ち姿から大人びて見える。さすがは皇女という立ち振る舞いだ。
「やっぱり、昨日と同じ・・・」
キュリアンがぼそっとつぶやいて、肩を落とした。
「ごきげんようございます」
皇女はスーナ王女の傍らに立ち、優雅に会釈した。
「・・ああ、ごきげんよう・・・」
やや気後れしながらアーティスが答える。いつ見ても皇女は美しく、傍にいるとその雰囲気に気圧されてしまう。皇女はソロ神殿の巫女であり、昨日見たとおり聖力の使い手でもある。そこにある種の威光が見えるのかも知れない。
「今日もこちらでしたのね」
言って、メルフォターゼはフフッと笑った。スーナ王女が昨日に続いて遊びに来たときに、アーティスはおそらくここにいると期待して来たのだ。果たせるかな、アーティスとキュリアンが昨日と同じ場所にいた。スーナに合わせているつもりだったが、昨日はこの二人と話が出来て楽しかったと感じていた。
「屋敷にいると落ち着かないのですよ」
アーティスが苦笑いをして答えた。皇都アルルアではアーティスはすでに超が付くほどの有名人になっていた。アルファムの第1王子であり、剣闘会の決勝進出者という箔付の青年である。近付きになりたいという者だけでなく、嫁ぎたいという女性から娘を売り込みに来る貴族など、ひっきりなしに来客の呼び鈴が鳴る。
そのため、昼間は屋敷に居られず、ここまで逃げてきている、というのが現状だ。このやや高みの草地は、皇城のすぐ傍にあり、ここまで追っかけてくるのは遠慮するようだ。また皇城の裏手で人気が少ないのがいい。
「話題の人ですものね」
「正直なところ、うれしくないですよ」
アーティスが肩をすくめると、その横でキュリアンが悪戯っぽく笑った。
「嫌われるよりマシだって言ってやってるんですがね」
メルフォターゼはふふふと笑い、スーナ王女は意味が分からなかったのか、3人の顔をキョロキョロと見回した。
アーティスとキュリアンは着ていたチュニックを提供し、メルフォターゼとスーナは恐縮しながら、その上に腰を落とした。
アーティスもその対面に腰掛け、剣を傍らに置いた。
「大変なんですよ、本当に・・・」




