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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
外伝の1 アルルア剣闘会
62/89

22:聖魔具《オーポーラ》


 翌日、剣闘会(リクザード)4日目の1戦目は今大会最も注目の組み合わせだった。

 アルルアの近衛連隊長ファラーン・ランスフォードは皇都アルルア(いち)の剣士と呼び声が高く、ファルアニア全土でも5本の指に入ると言われている剣士である。

 片やガイデスメリアのスルフォン・ソマは碧剣グラン=サイバーの聖剣士であり、その豪快な剣技は聖剣がなくても魔物を倒せるのではないかと言われるほどであった。。下馬評でも1番2番の組み合わせであり、巷では事実上の決勝戦とも呼ばれている。

 そのため、試合前から、闘技場の興奮は最高潮に達していた。まだ、出場者が出てきていないのにもかかわらず、すでに喧噪が巻き起こっている。


 だが、その会場で一人、ショーンはその熱狂に乗り切れないでいた。昨夜本国の謀反の話を聞いたばかりで、よく眠れなかった。本当はこんな所で剣闘会などを見ている場合ではないのだ。しかし、そのことは口外無用と自分でも言っており、スーナにも話をしていない。秘密を抱えているのは、なかなかに辛いことだった。


「兄上、もうすぐ始まりますわよ」

 昨日アーティスが勝って上機嫌のスーナは、闘技場の雰囲気に同調しており、すでに頬を上気させて対決の時間を待っていた。

「どちらが、アーティス様と戦うのでしょうね」

 アーティスは昨日2回戦に勝利したが、まだ2日後の準決勝を勝たないと、この試合の勝者とは当たらない。この試合の勝者にしても、今日の2戦目の勝者と準決勝を戦って勝たなければ、決勝には出られない。まだまだ先は見えないのだが、少なくともスーナの中ではアーティスが決勝戦に出場するのは規定の事実らしい。

 仕方のないことだが、ショーンは脳天気な妹姫を見てやれやれと頭を抱えた。


 激烈な第1試合は、1ズーサ(約27分)の試合時間を超え、時間切れとなった。このあと判定人による勝敗が決まるのが通例であったが、甲乙付けがたいと判定が付かなかった。過去に例のないことであるが、延長戦が選択された。半ズーサの休憩のあと、時間制限のない延長戦が宣言され、強者2名による熾烈な試合が再開された。


 さらに1ズーサほど攻防が続き、一瞬の隙を突いたスルフォン・ソマがファラーン・ランスフォードの大剣を叩き落として、長かった死闘に決着をつけた。闘技場の観客は強者対強者の戦いに大いに沸いた。時間的にも2試合分を超えており、すでに決勝戦のような盛り上がりであった。おそらくこれ以降長く語り継がれる伝説の試合となるであろう。


 あまりの盛り上がりに、次の試合まで長い休憩が取られた。第2試合は、アルファム国のフォン・リックとテルアーナ国のデセン・ステアリンの戦いとなった。いずれも1回戦を勝ち上がってきた強者であったが、前回優勝者のフォン・リックの方が優位と思われていた。だが、デセンの巧みな剣術によって大方の予想は覆され、フォン・リックは苦杯を嘗めさせられた。僅差と言うべきであろうが、勝ったのはデセン・ステアリンであった。


 ともに好試合で観客は大満足で帰路についた。ショーンたちも客館に戻ったが、ショーンに取っては試合の結果よりも自国の内乱の方が気になって仕方がなかった。本国からの連絡はなく、気に病んでも仕方ないと思いながらも気にせずにはいられない。だが、スーナをはじめ、一部の者以外には悟られないようにしないといけないので、普段よりも疲れが大きい気がした。



 その翌日は試合のない休会日であった。準決勝が翌日、また1日休んで決勝戦となる予定だ。出場者が連続で戦うのは負担が大きいため、準決勝戦と決勝戦の前に1日休みの日が設定されている。

 各地から集まった観客たちは街に出て、四人の準決勝の進出者について論議を交わし合った。


 ドリエ王国のイアン・ハンドリア。

 アルファム国のアーティス・トラン。

 ガイデスメリア国のスルフォン・ソマ。

 テルアーナ国のデセン・ステアリン。


 いずれも強者であったが、聖剣士スルフォン・ソマに優勝の呼び声が高い。だが、残りの三人もこのファルアニアで強国と呼ばれる3国の代表者であり、そう簡単には勝たせてもらえないだろう。

 いずれが勝つにしても、好試合が期待された。



 スーナはメルフォターゼ皇女に会いに行き、二人で中庭を散歩していた。

「ここはあまり人が来ないので、静かでいいところなの」

 白を基調にオレンジと黄色をあしらったドレスにみを包み、優雅な足取りで先を歩くメルフォターゼに見とれていたスーナがやや小走りにその後を追った。

「アルルアは人が多いのか、と思っていましたけれど、こういう場所もあるのですね」

 若草色で、腰に大きめのリボンが付いたドレスのスーナがメルフォターゼを見上げる。

 スーナはショーンに一緒に出かけることを持ちかけたが、ショーン兄は気分がすぐれないと言い、部屋に引きこもってしまった。

 スーナはそこでにわかにできた()の元へ遊びに来ていた。


「あれは・・?」

 メルフォターゼが指さす先に人影が見えた。

「アーティスさま!」

 声と同時にスーナは駆け出していた。



「難しいな」

 アーティスは、手元の短剣の柄を見つめた。

「そう簡単にできたら、俺たちが勉強する意味がないって」

 ははっと笑ってキュリアンが右手の短剣を振った。その短剣の刃先にはほのかに青白い光が包んでいた。だが、すぐにその光は消えてしまった。

「維持するのが難しい。でもやり方さえ分かれば、お前さんなら無敵だと思うけどね」

 キュリアンがアーティスに人差し指を立てて、笑った。


「アーティスさま~!」

 ドレスの裾を持ち上げて、スーナが軽やかな足取りで駆け寄ってきた。

「スーナ王女・・」

「アーティスさま、こんな所で会えるとは、今日のスーナは大幸せですっ!」

 スーナは両手でアーティスの左腕を掴んだ。アーティスは思わず右手を伸ばし、握った短剣をスーナから遠ざけた。

「危ないですよ、王女」

 アーティスは困った顔を向けたが、スーナは意に介した様子はなく、逆にアーティスに微笑み返した。


 スーナに遅れること数ペラゴ(数秒)。メルフォターゼが足早に追いついてきた。揺れる金髪を手で押さえ、色違いの瞳を二人に向けた。

「アーティス様、キュリアン様」

 メルフォターゼが頭を下げ、つられるようにアーティスとキュリアンも頭を下げた。そのあと、メルフォターゼがスーナに困った顔を向ける。仲の良い姉妹のようにも見えたが、口を結んだメルフォターゼが保護者のようにも見えた。


「何をされてたんですか?」

 スーナがまだアーティスの腕に捉まりながら聞いた。頭一つ分小さいスーナはアーティスの腕にぶら下がっているように見える。視線はアーティスが右手で持っている短剣に注がれている。

「魔法の練習ですよ」

「アーティスさまは、魔法もお出来になるのですか?」

「いや、魔法は使えないんですが・・」

 アーティスが首を振ると、キュリアンが口を開いた、

聖魔具(オーポーラ)の使い方を教えていたんですよ」

「聖魔具?」

「魔力や聖力を付与した道具のことです」

 魔法の使い方にはいろいろとあるが、その一つが聖魔具の作成である。様々な物体に魔力や聖力をまとわせることで通常ではできないことができるようになる。例えば、岩を飛ばしたり、布を強力な棒に変えたりするすることができる。聖力を付与した場合を聖具、魔力を付与した場合は魔具と呼ばれるが、一般人には聖力と魔力の区別が付きにくいため、合わせて聖魔具と呼ばれることが多い。


「アーティスの聖力がとんでもないので、聖具が作れるんじゃないかと・・・」

「無理矢理付き合わされたんですよ」

 不満げにアーティスが言うと、メルフォターゼがアーティスが持っていた短剣を取り上げた。

「聖魔具ですか」

「メルフォターゼ様はご存じですか?」

 キュリアンの質問にメルフォターゼは少し悪戯っぽい微笑で答えた。

「ああ、出来ますよ」

 平然とメルフォターゼが答えたので、アーティスもキュリアンも一瞬その意味を取り損ねた。

 

「ええっ?! 出来るんですか!」

 アーティスとキュリアンがほぼ同時に叫んだ。

「はい」

 驚く二人に戸惑いながら何故か微笑むメルフォターゼ。黄色い右目が妖しく光ったような気がした。

 すると、アーティスから受け取った短剣をおもむろに胸の前で横に倒した。その柄を握っている右手に左手を添える。

 一瞬短剣が震えたように見えた。すると、短剣の刃の表面が金色に光り出した、金色の炎のような物が刃の周囲で揺らめいている。


「おおっ!」

 アーティスとキュリアンが声を上げた。そのあとキュリアンが首を横に振った。

「さすが、ソロ神の巫女。そういう修行もあるのですか?」

「ありますよ。聖力と魔力の使い方はきちんと習います」

「お姉さま、さすがです!」

 スーナが憧れの目で皇女を見る。

「私もお姉さまみたいな巫女になってみたいです」

 メルフォターゼは形の良い眉を少し寄せて、困り顔になった。

「巫女になるには、ちょっと早いかな」

 やや控えめな回答は言葉を選んでいるように聞こえた。

「ええーっ」

 スーナは少し口を尖らせて見せた。実際のところ、神殿の巫女になるにはそれなりの素質が必要とされており、メルフォターゼが見た限り、残念ながらスーナにはまだその資質を感じなかった。一般にその資質を持つ者は非常に少なく、それ故に特殊な役務であった.


 メルフォターゼが左手を離すと、短剣から光が消えた。それから、手首を返してアーティスに柄の方を向けて差し出した。

 アーティスは短剣を受け取ると、不思議そうに見つめてから腰の鞘に戻した。

「コツを掴めばそれほど難しくないですよ」

 メルフォターゼは色違いの瞳に微笑みを浮かべて、にっこりと笑う。

「それが難しいんですよ」

 苦笑いをして、アーティスが頭を掻いた。

「まあ、訓練あるのみだな」

 そう言ってキュリアンがアーティスの肩を叩いた。

「聖魔具なんて使う時がないよ」

 アーティスは笑って、そう答えた。


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