21:謀反~マト
「謀反・・・だと?!」」
ランドルが静かに告げた口火はショーンの中で爆発した。言葉の爆弾はショーンの脳裏を破壊するのに十分だった。
ショーンは一瞬息を飲み、ランドルの顔を見つめた。ランドルが大きく頷く。その目が語るのは嘘や冗談でないということだった。
「誰が・・・」
ショーンは絞り出すようにそれだけを声にした。
ランドルはリーガンの方に顔を向け、話すようにと頷いた。
リーガンも頷き返し、ショーンに向き直った。
「私が聞きましたのは、リドカラム・リベンス卿、クラマッド・スネア卿、ピアス・ガバリエンス卿、シャリオ・フェードソン卿、オットー・ハインケル卿・・・」
貴族の名が次々と告げられると、ショーンはため息をついた。衝撃を飲み込み、利発な王子は落ち着きを取り戻しつつあった。
「リドカラム卿か・・。懲りない方だな」
ガーラン公リドカラムは、5年ほど前にも反乱を計画した廉で領地を半減、謹慎2年を言い渡されていた。建国当初からの名家で、かつてはその令嬢を王妃にしたこともある家名であった。そのため温情をもっての沙汰だったが、どうやらそれでは野望を諦めることは出来なかったらしい。リドカラムはかつて王族と姻戚であったことを自尊自大しており、陰では副王を僭称していたらしい。
「分かった。すぐに帰国だ」
そう言って、ショーンは立ち上がった。だが、ランドルは両手を挙げて、ショーンを制した。
「お待ちください、王子。・・・今はご帰国になれません」
ランドルの真剣な顔を見て、ショーンも顔を引き締めた。自国で謀反が発生したのだ。王子である者がその危機に駆けつけるのは当たり前の話だ。それをあえて止めるというのは、なにか重大な理由があるはずだった。
「どういうことだ?」
その質問にランドルが躊躇して、リーガンと顔を見合わせた。話辛そうに二人は頭を振る。どう話して良いのか、戸惑っているようにも見える。
「国王陛下か」
ショーンはハタと気がついたようにつぶやいた。ランドルの顔に陰りが走った。先ほどランドルは『国王陛下から内密にするように』と命を受けたと言っていたではないか。
「なるほど、父上に止められているということか」
ランドルは無言だったが、それが肯定を意味していた。
ショーンは、頭の中で父王から剣闘会の話を持ちかけられた時からこれまでのことを思い返した。
この話の際に父王は『外せない用ができた』と言っていた。
「そういうことか・・・」
父王セルロガは謀反が起こることを事前に知っていた。そう考えると今回の旅でいろいろと疑問であったことに合点がいった。
おそらく、父王は謀反のことを事前に知っていたのだ。そこに今回の剣闘会の招待があり、一計を案じた。ショーンとスーナを剣闘会に出席させることで、事が起こった際に二人に及ぶ危険の回避と人質に取られたりしないようにという配慮を両立させた。だから、出立を急がせたのだ。そのため、わざわざアルファムで10日も宿泊し、時間を費やすことになった。
さらにランドルには戻ってこさせないように指示することで、万が一の場合エランド王家の血を残すことも考えたはずだ。近衛兵団の副隊長であるランドルや優秀な近衛兵を同行させたのも後の再興も見据えてのことだろう。
「まんまと乗せられたわけか」
ショーンはつぶやいて、ドッと豪奢なソファーに腰を落とした。もちろんショーンは知らないことであったが、無邪気に旅行に出られると喜んだ自分に腹が立った。
父王の、そしておそらく母上も知っていたはずのことで、子供たちの命を守るという意志はうれしかったが、王子として母国の危機に居合わせないということは悔しかった。スーナ一人で来させるわけにも行かず、兄としてはスーナのそばにいることは大事であると思えるが、なんとか自分はそこに居たかった。考えるほどに気持ちが揺れ動き、軽い吐き気すら覚えた。
「お察しの通り、セルロガ王にあらせれましては、密かに迎撃の準備をされており、近衛兵団全軍、王都防衛の第1師団などには、命令が下されておりました」
今は戦はほとんど無く、平和な時代であり、父王セルロガも武を誇る人ではないが、決して柔弱な君主ではなかった。ショーンが幼い頃に鎧姿の父王を見たことがあった。
「練度が違いますし、負けることはありますまい」
「そうあって欲しいな」
ショーンが重い声で応えた。
「マクザインは大丈夫なのか?」
ショーンが別の心配事を問いかけた。
マトは大陸の北西に位置し、どちらかと言えば寒い地域になるが、そのさらに北にはマクザインという国がある。ファルアニアの北方は、西側のマクザインと東側のキャプリの2国が占めており、その北国のさらに北には前人未踏の大氷原が広がっている。
マクザインは北国であり、決して豊かな国ではない。マクザインが豊穣な南へ下ろうとするとマト国が立ちはだかる。そのため、マクザインはしばしばマトとの国境を脅かすことがあった。この数年はおとなしかったが、常に国境に気を遣う必要があった。
さらに今回謀反を起こしたリドカラム・リベンスの領地ガーランはマトの北方に位置し、マクザインからの介入も疑われる。
「セルロガ王もその点は危惧されており、3週間前に2個師団を国境線に送っております」
「私が考えるようなことはすでに対処済みか」
ショーンが苦笑いをして、腕を組んだ。当たり前だが、ショーンが考え得ることに父王が思い至らぬはずはない。自分の浅はかさにあきれる。元服したとはいえ、所詮世間知らずの若輩者にすぎないのだ。ショーンは軽く自省の念に捕らわれた。
「こちらは何もせずに待つだけか・・・」
ショーンがため息混じりにつぶやいた。
「今はご辛抱ください」
「分かっている」
憮然とショーンは答え、背筋を伸ばした。今の自分にできることは知れている。今はまだ。
ふと思いついてショーンはランドルに顔を近づけた。
「スーナには内緒だぞ」
「もちろんです」
スーナにこんな思いをさせるわけにはいかない。結果によっては辛いことになるかも知れないが、今はまだ知らなくていい。
「この話は、同行している近衛兵でも知っている者は限られています。他国に知られるわけにいきませんから」
ランドルは王子を安心させるように静かに言った。
敵となるのはマクザインだけではない。いずれ知れるにしろ、遅ければ遅い方がよい。そのためにも知っている者は少ない方が良い。
「リーガン、ご苦労だった。今日は休んでくれ」
「ありがとうございます」
リーガンは頭を下げ、王子の気遣いに報われた気がした。早馬で2ヶ月駆けてきた甲斐はあった。この王子は王公の素質を持っている。
「あとは吉報を待とう」
ショーンのその言葉がこの場の解散の合図となった。
ちょっと休んでいた分、今回は早めに投稿できました。
マト国は大変なことになっていますが、この話は外伝の外伝となり、今のところ、これ以上は話が出てきません。合戦を期待された方、ごめんなさい。
本章もまだまだ続きますのでよろしくお願い致します。




