20:急使リーガン
投稿がかなり遅れてしまい済みません。
ちょっといろいろありまして、書くことが出来ませんでした。
ただ、いつも書いているように遅くなっても書き続けていきますので、
どうかよろしくお付き合いのほど、お願いします。
続く今日の第2試合は2回戦の第2試合であり、アルファムのアーティス・トランとフライシャーのフォスフィン・カルセランドが相対した。
どちらも1回戦を勝ち上がってきており、好試合が期待された。だが、ショーンが見る限り、アーティスの方が勝っており、その差は歴然とも思えた。
体格的には二人とも同じぐらいで、装備も軽装で似通っていた。得物も直剣だけで盾はない。鎧の色だけは違っていて、アーティスは青、フォスフィンは白銀に輝いている。また、フォスフィンの方は兜に赤い房が付いていて、動くたびに激しく揺れるのが印象的だった。
試合当初はほぼ互角と思えた。お互いの長剣を交え、打っては押し、打たれては退き、と一進一退の攻防が続いた。甲乙付けがたい剣戟は会場を沸かせていた。いずれも攻撃の手を緩めず、剣撃の攻防が続いた。
だが、次第にその差が現れた。
戦端を開いたときから、両者ともに激しい攻防を繰り返している。そのため運動量が大きく、序盤から体力を消耗していた。次第に剣を振る動きが遅くなり、額に汗が浮かんでくる。だが、中盤と思われた頃、息を乱すフォスフィンに対して、アーティスの方は大きく息を吐いた程度でまだ余裕が見られた。元々の体力の差か、剣術の差か、いずれにせよ、次第にその動きに差が出始めた。
フォスフィンがその疲れから焦って出す剣撃をアーティスは余裕を持って受け流すようになり、アーティスが放つ一撃をフォスフィンは身を退いて受けるようになった。
フォスフィンの足下がふらついたとき、アーティスがダン、ダン、ダン、と長剣を3連続で打ち込み、その強烈な打撃にフォスフィンが剣を取り落としたことで決着した。
フォスフィンは剣を無くした両手をしばらく呆然と見つめていた。大地に両膝を付き、落ちた剣と両手を交互に見る。何故剣が落ちたのか分からないというような表情が消えたのは、闘技場が歓声に包まれたときだった。
アーティスは長剣を掲げ、2戦目の勝利を告げた。歓声が上がり、闘技場が沸いた。
フォスフィンは空になった両手を自分の両膝に当てて立ち上がる。
「負けたな」
歓声の中、一言そう言ってフォスフィンは落とした剣を拾い上げた。まだ手が痺れていて、剣を握る手に違和感があった。剣勢の差が勝敗を決めた。そう思わざるを得なかった。
愛するアーティスの勝利にスーナは文字通り飛び上がって喜んだ。第1試合でアシルが負けてしまったので、その分喜びもひとしおらしい。メイドのキャスの手を取って、踊り出しそうな勢いで歓声を上げている。
第1試合で自国の戦士が負けた直後だったが、スーナに取っては遠い過去の話らしい。ショーンとしてはもう少しおとなしくして欲しいのが、望みは叶いそうに無かった。
ショーンたちにとっては悲喜双方の1日であったが、剣闘会の3日目は無事に終了した。
館へ戻る間中、ショーンはスーナの途切れない攻撃を受け、その日一番の疲れを感じた。アーティスの優れたところを上げるのにスーナは一度も途切れなかった。
スーナはしゃべりすぎ、ショーンは聞き役で、相当に疲れたので、二人とも館に着くと早々に寝台に沈んでしまった。
「う~ん」
だが、いざ横になるとなかなか寝付けない。何度も寝返りを打ったあと、ショーンは半身を起こした。馬のいななきが聞こえる。扉を開け閉めする音。こんな夜中に散歩にでも出かけた者がいるのか。
「ふう」
大きく息を吐いて、寝台から出た。喉に乾きを感じる。とりあえず、何か飲むものが欲しくなった。
ほのかに明かりが点いている廊下を静かに歩いて行くと、客間の扉の下に明かりが漏れているのが見えた。
「こんな夜更けに・・・」
思わずつぶやいて、ショーンは首を傾げた。誰か起きているのだろうか。それにしても客間ということはあるまい。泥棒にしても客間に入るのは解せない。
その扉の前まで足音を立てないように近づき、ショーンはそっと左耳を扉に近づけた。
「・・・やはり、始まったか・・・」
「・・・陛下は・・・」
「・・・まあ、予測通り・・・」
一人は聞き覚えのある声。もう一人も聞いたことがあるような声だ。どちらも男の声。
不意に声が途絶えた。会話が終わったのだろうか。ショーンは聞き耳を立てるためにさらに耳を扉に近づけた。
その途端、耳を寄せていた扉が勢いよく開いた。
「あっ!」
体の重心が左に寄っていたショーンは扉が開いたために、そこに吸い込まれるように部屋の中へ足を踏み入れた。転ばないように慌てて、一歩二歩と踏み込む。
その顎に向かって左右から2本の剣が突き出された。
「ひぃっ」
踏み出しかけた右足を空中で止め、体は後ろにのけぞる。ショーンはそのままの姿勢で固まった。見下す視線の先で、顎の真下にある剣先がキラリと光った。
「これは、王子!」
声とともに2本の剣が退いた。ショーンが視線を上げると、そこに二人の男がいた。一人はこの剣闘会に護衛として付いてきたランドル・フォーン。もう一人は、すぐに名が出てこなかったが、近衛兵団の伝令を務めていた兵士と分かった。
二人は、ショーンに向かってひざまずき、剣を床に置いて頭を下げた。
「ショーン王子に剣を向けるなど、万死に値します。が、彼は私の命を受けたもので、彼には罪はございません。私はいかなる処罰を受けますれば、彼にはなにとぞ寛大なご処置をお願い致します」
ランドルは頭を床に落とすのではないかと思うほど頭を下げ、頭上の王子にそう口上した。
まだ足を上げたまま固まっていた王子は足を下ろし、腰に手を当てて、大きく息を吐いた。
「死ぬかと思ったぞ」
やや笑いをこらえつつ、王子が頭を下げ続ける二人の兵士に言った。
「申し訳ございません」
さらに恐縮して二人は大きな体を縮こませた。
「もうよい、頭を上げよ」
ショーンが言っても二人は頭を上げない。ショーンは少し首を傾げて困った顔をした。
「剣を向けられたぐらいで、将来有望な兵士の首を刎ねたとあっては、私の方が笑われるわ」
その言葉を聞いて、緊張が解けたか、頭を下げたままの兵士の肩がかすかに揺れた。
「顔を上げよ、二人とも」
ランドルともう一人の兵士は頭を下げたまま、お互いを見やり、ランドルが頷いた。それからおもむろに立ち上がり、剣を鞘に収めた。
「ショーン王子、寛大なお言葉、ありがたき・・・」
「もういいって」
ランドルの言葉を遮って、ショーンは片手を振った。
「それより、こんな夜更けに何の相談だ?」
その質問に二人の兵士は困った顔をしてまたお互いに視線を交叉させた。
ショーンは二人の顔を順に眺め、そこでもう一人の兵士の名を思い出した。
リーガン・バランス。
近衛兵団の伝令係で、最速と言われている男だ。
その伝令がここまでやってくるということは本国に何かあったに違いない。
「本国で何があった?」
ショーンはランドルに向かって詰め寄った。ランドルが視線を外した。
「申し訳ございません。国王陛下より内密にするようにと・・」
ショーンがキッとランドルを睨む。
「私は王子だ。自国に何が起こったのか知る権利と義務がある」
まだ元服から2年、16歳であったが、その立ち振る舞いは王族として堂々たるものであった。ランドルは一度天を仰ぎ、それからショーン王子に視線を戻した。
ランドルはその王子の態度を見て、事態を告げることにした。こういうときのショーン王子は頑なで、ごまかすことも出来ないと知っている。
「分かりました。お話ししましょう」
言ってランドルはもう一人の兵士リーガンに顎で扉の方を指示した。リーガンはすぐに動き、「失礼します」と言ってショーンの背中を通り、半開きになっている扉に向かった。扉から首を出し、廊下に人がいないことを確認して、ゆっくりと扉を閉める。
ランドルはショーンに客間のソファに座るように勧めた。
ショーンは自分が座ると、立っているランドルとリーガンにも座るように勧め、二人はショーンの向かい側の席に着いた。
「本国で謀反が起こりました」
ランドルはショーンに顔を近づけつつ、声を潜めて重大な事態を告げた。




