19:第八試合《ペナクォン》
前回の投稿からかなり時間が経ってしまいました。すみません。
またまた戦闘シーンですが、お楽しみいただけると幸いです。
赤い胴鎧が左へ動いた。それを追ってアシルは体をひねって追いかける。そこへイアンの直剣が襲いかかった。
「あう!」
後退って避けたが、剣先がアシルの左腕をしたたかに打ちつけた。
アシルは間合いを取って、剣を構える。左腕がジンジンと痛む。そのほかにも大腿や肩に痛みが残っていた。
剣闘会3日目の第1試合。1日目に勝ち上がったドリエ国のイアン・ハンドリアとマト国のアシル・シロキサンの試合であった。
すでに試合開始から20ズーサ(約9分)も経っているが、アシルは決定打を打ち込めていない。それどころか、ドリエのイアン・ハンドリアにあしらわれてる感じだ。避けてもいるのでそれほど強打ではないが、体のあちこちに打撃を受けている。第一試合よりもイアンはよく動き、右から左から攻撃を仕掛け、アシルの大剣を振らせないような戦法を取っていた。
「兄上、アシルは勝てるでしょうか?」
スーナが心配そうにショーンに声をかけた。
「ああ、なんとか勝てるだろう・・・」
答えるショーンの声にはためらいがあった。ドリエ国のイアン・ハンドリアは細かい動きで左右からアシル・シロキサンを翻弄しているように見える。アシルは大剣を振る間合いを取らせてもらえず、苦戦しているようだ。それでも、決定的な一撃を受けていないのはさすがと言える。いずれにせよ、どちらも決定打に欠けるといった様相だった。
一瞬の間合いの隙をアシルは逃さなかった。素早く大剣を振り上げ、左足を踏み込むと同時に振り上げた剣を下ろす。アシルの剣をイアンは左腕の丸い盾で受け止めた。
ガキンと金属音が響き渡る。それを予期していたようにアシルはすぐさま剣を上げ、イアンに向かってたたみかける。大剣を小刻みに動かして、イアンを攻め立てた。
右上から剣を下し、正面から剣先で突き、左下から斬り上げる。アシルは大剣を高速で振り回し、イアンを退かせる。先ほどのイアンの猛攻を立場を変えて再現されるかと皆が思った瞬間、アシルが攻撃を止めて飛び退った。
アシルの大剣の攻撃をイアン・ハンドリアは左手に装着した赤い盾ですべてを受け止めていた。右から左から変化自在に襲い来る攻撃を盾一つで受け、流す技術は生半可ではないが、その攻防の中でイアンはもう一方の手に握った剣を活かす機会を窺っていた。
左から突き出された剣を盾で受け流すと、相手の体が右に開いた。左側ががら空きになる。そこへイアンは右手の直剣を突き出した。
だが、アシルはその剣先に宿る殺気を感じ、本能的に後方へ飛んだ。イアンが放った剣はアシルの腹のすぐ手前で空を斬る。
「チッ!」
イアンが小さく舌打ちした。当たれば確実にダメージを与えられる一撃だった。開始直後からの連続攻撃で、かなりダメージを与えたはずだ。体力を削ったはずだが、さすがに剣闘会出場者というところか。なかなか勝負は着きそうにない。
少し間合いを取って、アシルは大きく息を吐き、呼吸を整えた。今のは危なかった。最初に何度か攻撃を受けたのが効いているのか、やや呼吸が荒い。だが、まだまだ戦えそうだ。体力はまだ残っている。
アシルは肩に力を入れ、両手で握った剣を構え直した。
ガチャリと肩鎧が音を立てた。その瞬間、アシルは右足を踏み出し、構えた剣を赤い鎧の男に向かって突き出した。
イアンは体を曲げて、低くした姿勢から鷹の図柄が付いた盾を突き出し、向かってくる剣先を受けた。衝撃を感じると同時に盾を上に跳ね上げる。盾を持つ左腕を突き出したことで自然に後ろに引いた右手の剣を振り戻すように斬り込んでいく。
盾で受けられるのは予想通りで、アシルにとって今の一撃は軽い打ち込み程度だった。アシルは弾かれた剣先を下に向け、盾の下をくぐらせる。そのまま切り上げるようにして、左側から振り下ろされるイアンの剣を外側に弾いた。アシルは両手で握る大剣であり、イアンは片手剣である。重量も威力も違う。イアンの片手剣は簡単に外側に弾かれた。アシルは腕を反らし開けた相手の肩にめがけて、剣先を突き込む。
「あうっ!」
叫声を上げたのはアシルの方だった。
アシルが付き込んだ剣刃はイアンの右肩をかすったが、打撃にはならなかった。イアンは背を低くしたままかろうじてその剣先を避け、逆に左腕の盾をアシルの脇腹へ叩き込んだ。アシルが剣を突いた勢いとイアンが盾を突き出した勢いが重なり、アシルは加算された殴打を受けてしまった。
「なっ!」
よろめいた隙を突いてイアンの剣がアシルを襲う。アシルは慌てて大剣ではじき、よろめきながら後退った。
さらにイアンはアシルを追い、左足で踏み込むと同時に左腕の盾を水平にしてアシルに突き出す。
「あうっ!!」
先ほど受けた傷に再度盾の殴打が加わった。肋骨に強烈な痛みが走り、アシルの顔がゆがむ。打撃の勢いと激痛のため、アシルはよろけるように左足を引いて体をひねった。あまりの痛みに左手が柄を放し、思わず脇腹を押さえる。
イアンはその隙を見逃さなかった。
片手持ちになった大剣に向かって、イアンが剣を振り下ろした。
ガキン。
アシルの剣が下がって、剣先が大地に当たって砂が巻き上がる。その衝撃でもアシルは剣を放さなかった。
だが、そこにイアンの盾が追い打ちをかける。
剣の鍔を狙った一撃はアシルの体勢を崩し、右手の握力を失わせるのに十分だった。アシルの手を離れた大剣はカランと音を立てて、大地に転がった。
体勢を崩したアシルはそのまま大地に座り込むように尻餅を付いた。剣を握っていた右手がジーンとしびれていた。最初の盾の攻撃からあっという間の出来事だった。
盾を攻撃に使うという発想はアシルにはなかった。さすが強国ドリエの代表者である。自分が弱いとは思わないが、相手はアシルよりも上だった。座り込んだまま、ぼんやりとアシルはそういうことを考えていた。
「勝者! ドリエ王国、イアン・ハンドリア!」
神官の声に被さって、歓声が沸き上がった。
イアンはひとしきり観客に両手を挙げて応えたあと、まだ座ったままのアシルに手を差し伸べた。
「いい試合だった」
イアンはそう言って、アシルに笑いかけた。アシルは無言で苦笑いをして、右手を差し出した。
「あ、痛!」
まだ痺れが残っている右手を掴まれ、アシルが声を上げた。イアンはその声を無視してアシルの右手を引き上げた。
「あうっ!」
アシルはかろうじて立ち上がったが、右腕全体にきしむような痛みが走った。イアンはその様子を見て笑い声を上げた。アシルはイアンをにらみつけ、すぐに相好を崩した。
立ち上がったアシルに闘技場の観客から惜しみない拍手が送られた。アシルは痛みのない左腕を上げて、その歓声に応えた。
「兄上、アシルが・・・・」
スーナが涙目でショーンを見た。ショーンは力尽きたように観覧席に背を預けている。
「・・残念だ」
ショーンはつぶやくと同時にため息をついた。負けが決まった時の喪失感はかなり大きかった。自国の選手が負けるのを見るのは辛い。
「兄上・・・」
スーナは両手を口に当てて、何かをこらえていた。ショーンは立ち上がり、スーナの肩を抱いた。スーナはショーンの肩に頭を当てて、グスグスと鼻をすすっていた。
「・・・アシルに頑張ったなって励ましに行こうか」
ショーンの問いにスーナは無言でうなずいた。
「アシル!」
声の方に頭を回らし、アシルはぼんやりとした視線を投げかけた。青と白のドレスと黒と白の騎装が見えた。次の瞬間、アシルは電撃が走ったように立ち上がり、続いて片膝を折って、姿勢を正した。
「王女様、王子様・・・」
近づいて来る二人の人物は。彼の祖国の王族であった。
ショーンがアシルに軽く手を振ると、アシルはかしこまって、頭を垂れた。
「申し訳ございません」
頭を下げたまま、アシルはむせるような声で王子と王女に謝罪した。
「ご期待に応えられず、何とふがいないことか・・。マトの名声を貶めた責任は万死に値します・・・・」
「まあまあ」
ショーンは腰を屈め、アシルの肩に手を置いた。肩甲をしていてもその下に鍛えられた筋肉があるのが分かる。そのたくましい肩が小刻みに震えていた。
「よく頑張ってくれた。礼を言う。」
ショーンの言葉にアシルはハッと顔を上げた。その眼力のある目に似合わぬ涙がうっすらと浮かんでいた。
「・・・さすがドリエは強かったな」
「ショーン王子・・・」
「いい試合を見せてくれて感謝する」
ショーンは自分よりも10歳ほど上の剣士に微笑みかけた。
「王子・・。何と申し上げて良いか。この敗残の身にもったいないお言葉・・」
「頑張ってくれたことは皆が知っている」
ショーンは首を縦に振って自ら頷いた。
「今日は負けてしまったけど、もし次があったら負けないだろ?」
「王子・・」
アシルはショーンの気遣いに胸が苦しくなるのを感じた。
「・・もちろんでございます。次は必ず勝って見せます」
アシルは王子の優しい顔を見つめて、そう宣言した。
「うん、頑張ってくれよ」
「はい。お見苦しいところをお見せしました」
アシルは短く答えて、再び首を折った。
「・・・悪いけど、スーナが次の試合が気になって仕方ないんだ。これで失礼するよ」
「兄上!」
自分をダシに使われたことにスーナが抗議の声を上げた。だが、すぐにアシルの方へ顔を向けて、笑顔を見せた。アシルには花が咲いたように感じた。この王女の笑顔にはどんな兵士も気を震わせる。
「アシルは本当に頑張ってくれたわ。私が応援していてよく知っている。だから、何も落ち込むことなんてない。マトのアシル・シロキサンは最強よ」
「スーナ様・・」
アシルはまた涙が出そうになった。
「・・私たちは残りの試合も見ていくので、また国で会おう」
そう言って、ショーンは立ち上がった。
「ショーン王子、スーナ王女、このような所まで足を運んでいただき、あまつさえ、叱咤いただくべきところ、お優しいお言葉を掛けていただき、身に余る光栄でございます。」
「じゃあ、また」
「またね」
ショーンとスーナはそれぞれに挨拶し、背を向けた。付き添っていた従者のランドルとメイドのキャスがアシルに頭を下げ、二人の後を追った。
アシルは去って行く王子と王女に深々と頭を下げた。
戦闘シーンが思ってたより長くなってしまいました。
さすがに剣闘会出場者の戦いで、簡単に終わってくれませんでした(笑)。
もっと投稿間隔を短く出来ればいいのですが。。。
毎日更新している方はどうやって書いているのでしょうか。
能力の無さを感じる、今日この頃です。




