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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
外伝の1 アルルア剣闘会
57/89

17:試合後~アーティス


 試合終了を告げる銅鑼の音が響き渡った。歓声が上がり、闘技場が沸き立つ。

「勝者、アルファム国、アーティス・トラン!」

 その声とともにアーティスが長剣を高々と突き上げる。歓声が一段上がって、闘技場を揺るがせた。

「負けたよ、王子様」

 折れた剣を拾いながら、エノールがアーティスに笑いかけた。

「できれば優勝してくれよ。その方が俺の株が上がる」

「はは。分かった。頑張ってみるよ」

 アーティスも笑い返して、右手を挙げた。エノールが同じように右手を挙げ、アーティスの手にバチンと当てて、身をひるがえし闘技場の扉の方へ歩き始めた。


「兄上、見ましたか! アーティスさまが勝ちましたよ!」

 スーナが観覧席から落ちんばかりの勢いで身を乗り出して叫んだ。

「スーナ、危ない!」

 ショーンは慌てて、スーナの腰に手を回して、引き留めた。

「見ましたか! 勝ちましたよ!」

 興奮冷めやらぬスーナは止まることを忘れたように口を動かし続ける。

「アーティスさまが勝ちました!」

「いや、だから・・・」

「すごいです! さすが私のアーティスさまです!」

 スーナはショーンの方に顔を向けていたが、その目はショーンを見てはいなかった。


「アーティスさま・・」

 闘技場の出入り門に消えていくアーティスの姿を見送って、スーナが顔を伏せた。

 と思うと、すぐに顔を上げて、すくっと立ち上がった。

「スーナ?」

 ショーンが首を傾げると、スーナは観覧席の出口に向かって走り出した。

「おい、スーナ!」

 ショーンがかけた声はスーナには届いていなかった。

 スーナはあっという間に出口を出ていく。キャスが慌ててショーンに一礼し、スーナの後を追う。あまりの突然のことにショーンはそのまま見送った。スーナは観覧席から闘技場内へ姿を消した。


「アーティスさま~!」

 闘技場の地下通路から地上の待機場に出てきたアーティスを見つけ、スーナが駆け寄った。

 アーティスが自分の名を呼ぶ声に振り向くと、目の前に息を切らせた王女がいた。

「アーティスさま、おめでとうございます!」

 かすかに息継ぎしながらスーナがアーティスを見上げた。

「ああ、ありがとう」

 アーティスはやや引きめに上体を反らした。スーナ付メイドのキャスがようやく追いついてきて、スーナの後ろに控える。キャスは走ってきた割には息は乱れていない。そんなキャスの様子などお構いなしにスーナが矢継ぎ早に口を開く。

「さすがです! アーティスさま。この調子で優勝してください!」

「・・いや・・そんなに簡単にはいかないけどね」

 アーティスは苦笑して答えた。

 

 まだ1回戦を勝っただけだ。優勝するにはあと3回勝たなくてはならない。しかも今回は、アーティスの剣の師匠ファラーン・ランスフォードやガイデスメリアの聖剣士スルフォン・ソマなど、強敵と呼ぶにもおこがましい面々が出場している。この剣闘会で優勝するのは魔獣の山(ガムラッカ)を登るより難しいかもしれない。


「大丈夫です。スーナが応援していますから。絶対優勝できます!」

 瞳をキラキラさせながらスーナがアーティスを見上げる。

「ああ、頑張ってみるよ」

「はい! 私のアーティスさまですから、優勝できます」

「ああ・・・・」

 何か聞き捨てならない言葉が混じっていたような気がするが、スーナからあふれ出る桃色の気配に圧倒されて、思考が追いつかなかった。


「おねえさま!」

 アーティスが思考の波にのまれている間に、スーナのよく動く目がこちらを見てたたずんでいるメルフォターゼを捉えた。スーナが手を振ると、メルフォターゼが右手を振り返してゆっくり近寄ってきた。

「アーティスさま、おめでとうございます。お疲れさまでした」

 薄いオレンジのドレスに身を包んだメルフォターゼが優雅に頭を下げた。剣闘会の出場者を(ねぎら)うのは皇女の務めでもあったが、わざわざ闘技場の控え室まで来るのは異例であった。ただ、アーティスもスーナもそんなことは知らなかった。


「お怪我はありませんでしたか?」

 メルフォターゼがアーティスの右脇腹辺りに視線を落としながら尋ねる。

「ありがとうございます。痛みはありますが、まあ、大丈夫です」

 アーティスは脇腹をさすりながら口端を上げてかすかに笑った。


 ふとアーティスがメルフォターゼの背後に視線を送った。メルフォターゼの後ろには護衛として兵士が二人ついていたが、アーティスはそのさらに後ろの通路の陰を見ていた。特に何もなかったが、そこに何か視線のようなものを感じたのだった。

「護衛はいらないと言ったのですが、父がどうしても、と」

 メルフォターゼはアーティスの視線を後ろの兵士に向けたものと思ったようだ。

「ああ、まあ、それはいいのですが」

 まだ(いぶか)しげにアーティスはその通路の角辺りを見ていたが、もう気配は感じなかった。




「どう思うかね」

 皇帝ガレリオン2世がやや低い声で尋ねた。謁見の間に隣接する控え室。その上座にしつらえられた小ぶりの玉座に座り、目の前で膝をついている男に尋ねた。部屋の中にはこの二人しかない。

剣闘会(リクザード)が始まって今のところ、特に気配は感じません」

 腰を落とし、頭を垂れた偉丈夫が答えた。腰にはやや大ぶりな草色の鞘がつるされていた。

聖剣グラン=サイバーが納められたその鞘を持つものはただ一人。

 スルフォン=ソマ。

 ガイデスメリアの近衛連隊に所属する聖剣士である。


「そうか・・・」

 ガレリオン2世はため息交じりの声を漏らした。剣闘会直前にメルフォターゼが襲われる事件があった。近衛兵が操られていたとのことから、魔法が使われたことは明らかだった。誰が、何のために、行ったのかは分からないままで、人知れず警戒は厳重に行われている。

 近衛兵が操られた、という不名誉なこともあり、メルフォターゼ襲撃の件は関係者に箝口令が敷かれている。剣闘会も中止にはできず、アルルア城の内外で警戒する兵士の数を増やして対応している。だが魔法士が相手では安心できない。魔法院からも魔法師を動員し、警戒に当たらせているが、今のところ何も情報がない。


「動きがあれば分かると思いますが、魔力が小さいか、何かで遮蔽されている可能性もあります」

 スルフォンは、頭を下げたまま皇帝に答えた。聖剣士は聖剣の影響か、聖力や魔力に敏感であった。今回はその能力のためにスルフォンを呼んだのだった。

「取り越し苦労ならよいが・・」

 事件を伏せたため、剣闘会を中止にもできず、様子を見ることにした。相手が何を企てているのか分からないため、手の打ちようもなかった。

 先日の地震で地下宝庫が破られた件もあり、皇帝を悩ます事件が相次いで起こっている。


「今のところは何も気配はありませんな」

 スルフォンは言ってから、顔を上げてにやりと笑った。

「このまま何もない方がいいですな。私も剣闘会を楽しみたいですから」

 その言葉で皇帝は緊張が解けたようにふふっと笑った。

「剣闘会は君の一人勝ちだろう」

「いやいや」

 スルフォンは軽く首を振った。

「・・アルルア(いち)の剣士がおりますからな」

「ファラーンか」

「強敵でしょう」

 だが、その言葉とは裏腹にスルフォンの口ぶりからはかなり余裕がうかがえた。すでに今日の2試合目でスルフォンはヘプターニのフェニル・トリシランに圧勝している。


「まあ、君たち2人のどちらかが優勝だな」

 ガレリオン2世は右手で顎を撫でて、視線を泳がせる。

「陛下ご推薦のアルファムの王子殿もなかなかですよ」

「アーティスか」

「はい。今日の試合を見た限りですがね。まあ、まだ若さはありますが、一度手合わせしてみたいですな」

 どこまで本心かは分からなかったが、スルフォンは嘘をつく男ではなかった。ガレリオンはやや満足げに頷いた。


 アーティスの資質については、ファラーンからも聞いていた。剣技についての上達はかなり早く、もうファラーンでも勝てない時があるという。

 スルフォンはそのアーティスと決勝戦でしか会わない。それよりも先にファラーンと戦う組み合わせになっている。

「今年のアルファムは強いですよ。ファン・リックも勝っていますしね」

 アルファムのもう一人の代表ファン・リックは今日の最後試合、第4試合でクレムのニトロシル・オキシムに勝っている。


「今は剣闘会を楽しむとしようか」

 ガレリオン2世のその言葉で、会見は終わりを告げた。スルフォンは頭を下げて、退出する。

「さて、何もなければいいがな・・・」

 皇帝ガレリオン2世はため息交じりに小さくつぶやいた。


今回は最近にしては少し早めにアップできました。

話はようやく中盤というところです。

まだまだ続きますので、お付き合いよろしくお願いします。


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