13:剛剣カーミン・キアノール
剣闘会の第一試合は、ドリエのイアン・ハンドリアの勝利で終了した。
会場は割れんばかりの拍手と歓声で勝者と敗者を讃えた。今大会の最初の試合であったが、すでに熱狂は最高潮に達しているかに見えた。3年に1度のお祭り騒ぎであり、人々がこの瞬間を待ちわびていたことは明らかだった。
次の第2試合までに1ズーサ(約30分)の休憩が告げられた。観客は今の試合について意見を戦わせるもの、一息ついて椅子に体をあずけるもの。席を立って休息するものなど、思い思いに休憩時間を使っていた。
ショーンも一息ついて、メイドのキャスが用意してくれた果実を絞った飲料を口に含んだ。甘味とそれよりもやや強い酸味が乾いた口内に広がり、さっぱりとしたあと口が緊張していた気分を解きほぐした。
右隣でスーナも同じように果実飲料を飲んでいたが、こちらはすでにグラスの中の橙の液体を一気に飲み干していた。
「兄上、次はアシルの番ですよね」
スーナがやや巻き毛の金髪を掻き上げながら、ショーンの方を向いた。先ほどの試合の興奮も冷めやらぬように、瞳が輝いている。その脇でキャスがそっと飲み干したグラスを引き上げ、2杯目をスーナのテーブルの上に置いた。
「ああ、そうだよ」
ショーンがやや気のない返事をした。まだ、先ほどの試合の興奮が冷めやらぬ。半ズーサ
(約14分)ほどの短い時間ではあったが、ショーンはもっと長く感じていた。こういう水準が高い戦いを見ることができるのは望外の喜びであった。
もちろん、ショーンにとっても次の試合は重要だった。
ジルクル国のカーミン・キアノールと戦うのは、マト国のアシル・シロキサン。つまり、ショーンたちの国の代表だった。
アシルは国内の大会でも優勝した強者で、剣に関しては最強と謳われている。少なくとも国内最強と言われている男だ。この世界の大会でどれほどの実力が発揮されるのか。楽しみであると同時に不安もあった。
勝ってほしいという気持ちは大きいが、何しろ各国からそういう最強の剣士が集まってくるのだ。負けてしまうという不安を無くすことはできなかった。
ざわめきが少し静かになった。開始の時間が迫ってきている。人々の動きが静かになってゆく。観客の関心が次第に次の試合に移っていくのが見えるようだ。
そうしているうちに、大きなこん棒のようなものを持った男が銅鑼の前に立った。その人の腕ほどあるような太い桴を振り上げ、銅鑼の中心に向かった振り下ろした。
ド~ンと銅鑼のやや低いがよく響く音が闘技場にこだました。
「第2試合!」
白い礼服の神官が進み出て、開始を告げる。
すると、闘技場の扉が開き、二人の剣士が現れた。
一人は固い皮のような胴着をまとい、堅甲を肩や腕、足に付け、胴にも帷子を付けている。兜は丸い簡単な形状のもので、鎧甲は青銅の鈍い金色に輝いている。アシル・シロキサンであった。
「マト王国より、アシル・シロキサン!」
名が告げられ、アシルが頭を下げると、歓声が沸き起こった。
「アシルー!」
スーナとショーンも立ち上がって、アシルに激励の拍手を送る。
「ジルクル王国より、カーミン・キアノール!」
もう一人は、長身のアシル・シロキサンよりもさらに背が高く、体格も一回りも大きな剣士であった。文字通りの偉丈夫で、肩に背負った大剣も幅が2トーム(約14センチメートル)、長さは2リルク(約1.7メートル)もありそうな大きなものであった。その体格を誇示するように上腕や大腿には鎧もなく、大木のような筋肉をさらしていた。
「兄上、アシルは勝てるでしょうか?」
スーナが不安げな視線をショーンに向けた。
「・・大丈夫。アシルは強いよ」
そうは言ったが、ショーンも不安がないわけではなかった、体格から言ってもかなり不利な戦いになりそうなのは明らかだった。だからと言って、負けるとは言い難い。
「とにかく、応援しよう。必ず大きいものが勝つと決まったわけではないからね」
そう言われてもスーナはまだ不安げな様子を残しつつ、闘技場のアシルに視線を移した。
闘技場の中心では、2人の剣士が試合開始の合図を待っていた。
「手加減はせんから、けがぐらいは覚悟しておけ」
背中の大剣を抜きながら、カーミンがアシルをなじった。
「ぬかせ。貴様こそ、逃げるような真似はするなよ」
アシルも負けじとカーミンを煽る。すでにお互いの闘志は最高潮であった。
対峙する二人の気持ちを察したように、銅鑼が高らかに鳴った。
銅鑼の音が鳴り止む前に大剣を頭上に掲げたカーミンが、その体躯を活かして2歩でアシルの眼前に迫った。突進の勢いのまま、大剣を振り下ろす。
アシルは右に飛び退き、高速で襲い掛かる大剣をかろうじて避けた。その左側を暴風がごーっという音を立てて通り過ぎる。
ざくっと大きな音をたてて大剣の先端が大地にめり込んだ。大剣の切っ先がその幅ほども地中に突き刺さっており、その威力の大きさが知れる。
「おいおい、殺す気か・・・」
大地に突き刺さった大剣を眺めて、アシルがつぶやいた。もし、この剣を受けていたら、自分の剣ごと頭を叩き割られてしまったに違いない。だが、剣闘会では故意に殺めることは重大な規則違反であり、即失格となる。
「悪い、悪い、緊張で手が滑った」
カーミンは悪びれずにニヤリと笑って答える。このくらいは避けて当然という表情だった。アシルを煽るのはやめないらしい。
「ふん!」
カーミンが両足を踏ん張って、力任せに大剣を大地から引き抜いた。突き刺す力も尋常ではないが、地面に深く食い込んだ剣を引き抜く方も常人離れしていた。
カーミンは引き抜いた剣を一旦肩に担いで、ゆっくりと腰を落とした。
(来る!)
カーミンの腕の筋肉がピクリと動いた瞬間、アシルは咄嗟に後ろに飛んだ。その胸の前で太い剣先が空を斬った。
その剣を振りぬいたまま、体ごと回転し、カーミンは2撃目をアシルに向ける。アシルは剣を立て、渾身の力でその剣を受け止めたが、回転が加わった大剣の勢いに身体ごと飛ばされた。
3リルク(約2.5メートル)ほど横っ飛びに跳び、左手をついて一回転し、地面に倒れるのを防いだ。
「これは・・・」
一旦膝まづいた体を起こして、アシルはため息をついた。とんでもない剛剣だった。熊が相手でも一撃で倒せるだろう。
だが、このカーミンはその豪腕だけではない。最初の一撃での踏み込みと2撃目を避けられたときの素早い反応からみて、俊敏さも兼ね備えている。大剣を振るうだけでもやっかいなのになかなかの難物だ。
前回の投稿から時間がかかってしまいました。
最近、PCをつけたまま寝落ちしてしまっています(泣).
なんとか頑張って続けていきます。
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