11:試合開始パーレ・リーカ
歓声は鳴り止むことを知らないようであったが、メルフォターゼ皇女が退くと、少しずつ音量が下がっていった。
その頃合いを見計らってか、銅鑼の音が響き再度歓声が静まった。
張り出し床にいた騎士が下がり、今度は白い衣装の男が出てきた。金糸銀糸が縫い込まれた白の祭祀用衣装である。神官長であった。
その神官長が右手を高く掲げた。観衆の視線がその右手に集中する。三度めの静寂が闘技場を覆う。
「これより、第10回剣闘会の開会を宣言する!」
神官長の宣言のあと、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。
楽隊が歓声に負けないほどに吹管の高音を響かせた。
闘技場の観客席の下にある門が左右に開いて、剣士が現れた。
一人、二人、・・・。軽装備や鎧装など、さまざまな外装を身に着けた剣士が闘技場の中央に進み出た。貴賓席を前に1リルク(約85センチメートル)ずつ間隔を空けつつ、剣士が並んでいく。
剣士が現れるたびに観客席から声援が飛ぶ。
15人の剣士が、皇席に向かって一列に並んだ。
ざわめきが収まらない中、神官長が右手を上げた。
「イアン・ハンドリア、ドリエ」
名を発表された一番右の剣士が一歩進み出て、深々と頭を下げた。それを合図にしたように闘技場に歓声が響いた。観客席の一部が特に歓声が大きい。おそらくドリエ国の応援団だ。国によって差はあるが、各国とも王侯の出席だけでなく、応援団を送り込んできている。自国の剣士には熱心な応援が送られるのは当然のことだった。
「ホラン・フォーリア、マクザイン」
二人目の剣士の名が告げられた。先ほどとは違う場所の観客から大きな歓声が上がった。マクザインは北方にあり、アルルアからは2番目に遠い国だが、相当数の応援団を送り込んでいるようだった。
剣士の紹介は出場順で紹介されるようだ。先の二人は第1試合の組み合わせだった。
「リーガン・バランス、ジルクル」
3人目の剣士が前へ出る。出場者の中でもひときわ大きな体躯を持った剣士だった。髪は剃っているのか無毛で陽光に光っており、表情も自信ありげだ。
「アシル・シロキサン、マト」
4人目の名が告げられると、また別の一角の観客席が沸き上がった。ショーンも立ち上がって拍手した。
「アシルー!」
ショーンの隣で、スーナが声を上げた。
「頑張れー! 優勝よ!!」
スーナの声が届いたわけではないだろうが、1歩踏み出したアシルが、深々と頭を下げた。マト国は過去に優勝がない。だが、今回出場のアシルには期待がかかっていた。過去の出場者の誰よりも強いと言われている。そのため、国名では今回こそ優勝を、と期待が高まっていた。
剣士の紹介が続き、7番目の剣士の名が告げられると、歓声と共にスーナが立ち上がった。
「アーティス・トラン、アルファム」
「アーティス様っ!!」
スーナは両手を上げて頭を下げるアーティスに手を振る。
「わたくしのために優勝してくださーい!!」
ショーンは手に持っていたカップを落としかけた。若干聞き捨てならない台詞だったような気がした。
「アーティス様! スーナが応援しています!」
観覧席から身を乗り出して、アーティスに手を振る。
「あぶない!」
ショーンは思わず、スーナの腰を抱きかかえて引き寄せた。
次の剣士の名が呼ばれると、ようやくスーナが席についた。だが、まだ興奮冷めやらぬ感じで、頬が上気してピンクに染まっていた。
「・・あの~、スーナ」
ショーンは控え気味にスーナに声を掛けた。
「はい?」
スーナがにこやかな顔でショーンを振り返った。
「アーティス殿を応援するのは悪いことではないけど、ちょっと熱が入り過ぎじゃないか?」
「そうですかぁ? アーティス様はスーナの大事な方ですから」
「そうだけど、・・いや、そうじゃなくて・・・」
ショーンは困った顔で右手を振った。
「私たちはマト国の応援をしないと」
「応援はしましたよ。アシルには頑張ってほしいです」
「アーティス殿とアシルが戦ったらどうするんだ?」
「う~ん」
スーナは右の人差し指を形の良い顎に当てて、首を傾げた。
「アシルには勝ってほしいですが、アーティス様には優勝してほしいです」
今度はショーンが首を傾げた。
「どちらも勝つというわけには・・・」
「ん、でも、アーティス様は王子様ですから優勝していただいて、スーナを迎えに・・きゃっ」
ショーンは言葉を失って、自分の妹を見つめていた。どうも彼女はショーンが知っている世界には居ないようだった。
「はあー」
ショーンは両手で頭を抱えた。
「ファラーン・ランスフォード、アルルア」
最後の剣士の名が告げられた。アルルアの剣士はがっしりとした体格の偉丈夫であった。
ファラーンが頭を上げると、銅鑼の音が2度響いた。
剣士たちは、割れんばかりの拍手に送られながら、観客席の下の出入り口に消えていった。ただ、2名の剣士だけが、闘技場に残った。
ざわざわとざわめく闘技場に、新たに現れた神官の声が響いた。
「第1の試合!」
その声に、期待を込めてざわめきの音量が下がっていく。
「ドリエ王国よりイアン・ハンドリア!」
闘技場の2人のうち、赤い胴着を付けた剣士が剣を持つ右腕を掲げた。闘技場全体から歓声が上がる。だが、次の名乗りを急かすように、その声はすぐに音量を落としていく。
「マクザイン王国より、ホラン・フォーリア!」
もう一人の剣士が剣を天に突き上げる。再度歓声が上がり、闘技場の期待は一気に高まった。
二人の剣士は闘技場の中央で互いに向き合い、お互いに一礼した。剣士が顔を上げると同時に、闘技場が一瞬静まり返った。その静寂の中を神官の声が通り抜けた。
「始め!」
その声と共に対峙した剣士が剣を構える。そして、試合の開始を告げる銅鑼の音が闘技場内に響き渡った。
ちょっとアップするのに時間がかかってしまいました。
年末から腰を痛めてしまい(脊柱管狭窄症というらしいです)、本業の仕事でもちょっとめげることがあり、気力が落ちていました。
画面を開いても、一行もかけないまま寝落ちしてしまうことがしばしば。
ようやく投稿にこぎつけました。
時間がかかっても続けていきますので、どうかお付き合いください。
励ましのお便りも待っていますwww




