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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
外伝の1 アルルア剣闘会
50/89

10:剣舞リーカファリダ

あけましておめでとうございます。

今年はいろいろなことが良くなるとよいですね。

小説の方は、ぼちぼちと進めていきます。

今年もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。



 翌朝、ショーンは少し寝坊しかけた。不覚にもスーナに起こされてしまったのは、昨夜興奮して眠れなかったからだ。

 今日から剣闘会(リクザード)が始まる。そう思うと意識が冴えてしまって、眠気が飛んでしまった。ショーン自身も王子として剣の修行は重ねており、その最強を決める祭典には以前から興味があった。それが本当に見られると思うと目が冴えてしまうのだった。


 ショーンは急いで着替えて、部屋から飛び出た。スーナとキャスがすでに支度を終えて、控室で待っていた。

「兄上、遅いですよー」

 スーナは笑って、口唇を尖らせた。

「ごめん、ごめん」

 ショーンは頭を掻き、スーナに頭を下げた。


 ショーンとスーナは、メイドのキャスと護衛のランドルを伴って、闘技場へと出かけた。

 闘技場の周囲は、すでに人があふれていた。屋台の群れも並んでおり、長蛇の列を作っている。酒の瓶に口を当てている人もいて、祭りの喧騒がすでに始まっていた。

 ショーンたちは一般とは入り口が違うので、そういった群衆を横目に見ながら、闘技場の正面近くの入り口に馬車を止めた。形だけの誰何があり、すぐに観覧席へと案内された。


 貴賓席は、闘技場の正面に据えられており、最上段に皇帝の席が設けられている。その下に3段あり、5席、4席、5席と14の貴賓席が設置されている。そのうちの右下の席にショーンたちは案内された。皇帝の席ほどではないが、一般席に比べると十分に広く、ゆったりとした配置になっていた。2つの豪華な席が用意されており、その奥に4つほどの椅子が並べられていた。ショーンとスーナは前席に座り、キャスとランドルは奥の席に控えた。


 一般席はすでに大半が埋まっており、喧噪がまだ無人の闘技場を包んでいた。すり鉢状になった広い闘技場には熱気が渦巻いていた。

 その状況にショーンとスーナは圧倒されていた。初めての闘技場の雰囲気はかつて経験したことのないものだった。これが、まだ競技前なのだ。否が応でも期待が膨らむのだった。


 ショーンは周りを見回した。いくつか空席があるものの、貴賓席のほとんどは埋まっていた。一昨日の祝宴であいさつは済ましておいたので、すべて顔は知っている。もっとも半数は交流がなく、一昨日初めて会った人々であった。基本的にファルアニア13国のすべてから王、女王、王妃、王子、王女のいずれかまたはその複数が列席している。いずれの国も選手を出しており、国の威信がかかっていると言ってよかった。もっとも、実際には選手の間に実力差があることは認識されていて、参加するのみと割り切っている国もあるようだ。だが、選手を出さないことも沽券にかかわる。優勝を狙える国以外は頭の痛い問題でもあった。


 ショーンは昨日配布された組み合わせ表に目を落とした。参加する13国に皇国(アルルア)、さらに前回優勝国であるアルファムからはもう一人参加でき、計15名で争われる。1対1で戦い、勝った者が勝ち上がり、最終的に2人で優勝を争うことになっている。出場は15人なので、1回戦は7試合行われ、慣習的にアルルアが不戦勝で2回戦からの出場となる。対戦はくじ引きで決められ、当日まで選手にもその組み合わせは知らされない。


 その対戦表が今朝配られてきた。マト国のアシル・シロキサンは2試合目、ジルクルの選手と対戦することになっていた。それよりもショーンが驚いたのは、4試合目だった。

 『アーティス・トラン(アルファム)』という文字を見た時に2度見してしまった。

 昨日、助けてくれたアーティス王子が選手として出場している。かつては、王族の出場はあったようだが、面子であるとか体裁だとかの問題があって、ここ最近そういった出場者はいなかった。昨日のアーティスの戦いを見たら、出場は納得するものがあったが、さすがに驚きはあった。


 さらに、困ったことにスーナがそれに反応してしまった。


・・◇◇□□


「まあ、まあ、まあ」

 スーナの眼が大きく開かれた。

「アーティス様が剣闘会の出場者なのですか!」

 スーナが満面の笑みを浮かべた。

「剣闘会に出られるって、そーとーお強いんですよね?」

「ああ、まあ、そりゃ強いと思うよ」

「すごい! すごいですわね! 昨日もお強かったですしね!」

 スーナはスキップをしそうな勢いでソファの周りを歩き出した。

「さすがですわねー。優勝なさるのかしら」

 ショーンは何か答えようとしたが、スーナはすでにショーンの言葉を待っていなかった。

「優勝されたら、お祝いはいかがいたしましょう・・」

 スーナの妄想が進化したようだった。


□□◇◇・・


 昨夜のやり取りを思い出して、ショーンは頭を抱えた。

 横を見れば、当の本人は目を見開いて、今朝の件は忘れてしまったかのように、闘技場の雰囲気を楽しんでいるようだった。


 ざわざわした闘技場に突然大きな銅鑼の音が響き渡った。ざわめきが一瞬にして静寂に変わる。

 貴賓席の下に設けられた張り出し床に正装の騎士が現れた。その騎士は少し体を逸らし息を吸ってから、よく通る声を上げた。

「皇帝ガレリオン・セル・トレリウス様、皇妃マリアリーカ・ソランドイル・トレリウス様、ご入場!」

 短いピッチで太鼓の音が響く。その音と共に貴賓席に2人の男女が現れた。


 豪奢な出で立ちで、皇帝ガレリオン2世と皇妃が進み出る。静寂と緊張が闘技場を包んだ。

 王座の前に立つと、ガレリオン皇帝は、ぐるりと闘技場に集まった観客を見回し、おもむろに右手を上げた。

 耳をつんざくような歓声が沸き上がり、皇帝を讃えた。その歓声の中、ショーンは皇帝の人気の高さを改めて感じた。皇国アルルアはこの人気に支えられている。あらためてそう思い、皇帝の人柄を思いやった。

 歓声と拍手が鳴りやまない中、皇帝と皇妃はゆっくりと席についた。

 少し歓声が収まったところで、銅鑼の音が2度鳴り響いた。


 静寂の中、闘技場に白い衣装をまとった女性が一人現れた。

 真っ白の地の絹衣に太陽神アルーラを表す金と大地神ソロを表す翠の糸が縫い込まれた巫女の衣装で、金色の長い髪を複雑に結い上げ、青い花を模した髪飾りが印象的だ。

 広い闘技場にたった一人なのに、まったく怯む様子もなかった。その女性は闘技場の中央で立ち止まり、貴賓席に深々と頭を下げた。その後、体の向きを変え、残り3方にそれぞれに頭を下げた。


 1周して、その巫女が貴賓席に顔を向けた時、ショーンは思わず「あっ!」と叫んでいた。

「あれ、お姉さまですよね」

 横からスーナが驚いた顔を近づけてきた。その巫女は、メルフォターゼ・アル・セラ・トレリウス皇女であった。太陽神(アルーラ)の神殿アリュシナの巫女であるとは聞いていたが、この剣闘会で奉納の踊り(リーカファリダ)を踊るとは知らなかった。だが、この場に登場するということは、巫女としても、踊り手としても最上級であることを示している。


 闘技場の一角に設けられた楽隊の席から、吹管の音が流れ出た。打楽器の音が混じり、弦楽器が旋律を奏で出すと、メルフォターゼが腰を垂直に曲げて頭を下げた。次の小節で、上体をあげ、両手を上げる。その手には2振りの剣が握られていた。いずれも1リルク(約85センチメートル)ほどの長さの剣で、細身の直剣であった。踊りのための飾り剣であろうが、よく磨かれており、剣先が陽光にきらめいた。

 その剣先が回り、音楽に合わせて、腕がしなやかに振られる。流れるような体さばきでステップを踏む。時に飛びあがり、回り、捻り、早く、緩く、舞い踊る。右手の剣が突き出され、左の剣が空を斬る。そのたびに剣が閃き、闘技場に陽光を散らせた。音楽に合わせて淀みなく、華麗な剣舞が太陽神の物語を紡いでいく。

 広い闘技場を、駆け抜けて、白い妖精が舞う。金と翠の線が白を背景に回転する。衣装の袖や裾から伸びる白い手足が健康的な伸びやかさを現していた。

 闘技場のすべての視線がその踊りに魅了されていた。音楽が最高潮に達し、メルフォターゼの踊りも動きが激しくなる。息も継げぬ剣舞が眼前で閃いていた。


 やがて、音が止み、闘技場の中央で、巫女は胸の前で剣を交差させて動きを止めた。

 数瞬、そのまますべてが止まっていた。

 メルフォターゼが顔を上げ、剣を納めると、どうっと歓声が沸き上がった。観客はすべて立ち上がり、彼らの意識を数十ペラゴ(数十分)の間さらった巫女に最大の拍手や嬌声を送った。

 メルフォターゼは右腕を曲げ胸の前に置いて、お辞儀をした。さらに歓声が上がり、闘技場を揺るがせる。


 ショーンも立ち上がり、手が痛くなるほど拍手をしていた。感動を覚える踊りだった、かつてこれほど感銘を受けた舞はなかった。

「すごい、すごい・・・」

 スーナも横で同じように手を叩き、同じ言葉を繰り返していた。

 会場がすべて同じ気持ちで一体となっていた。


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