09:王女スーナ
「済みません」
ショーンがスーナを後ろから引き寄せ、アーティスから引き離した。
「妹が失礼を。初めまして。私はショーン・エランドと申します」
「アーティスです」
お互いに頭を下げて名乗る。
「先日はオキシラン城でお世話になりました」
言ってからショーンは少し首を傾げた。
「申し訳ありません。ご挨拶していなくて・・・」
「いや、私はこの1年このアルルアに居まして、オキシランにはおりませんでしたので。今が初対面ですよ」
「あ、それは失礼しました」
アーティスは「いやいや」と手を振って、恐縮するショーンをなだめた。
そこへ、近衛兵が7人、馬蹄の音を響かせながら、駆け寄ってきた。
「メルフォターゼ様!! ご無事でしたか!」
兵士長らしい男は、メルフォターゼの前で馬を止め、すぐに下馬した。膝まづいて首を垂れる。他の6人も同様に馬を降り、その背後で片膝をついた。
「メルフォターゼ様がいらっしゃるとは思いませんでした・・」
魔法士見習いから聞いていたことは違う上に、皇女がいるのは大問題だった。
「アーティス様に助けていただきましたので、私もマト国のお二人も無事です」
メルフォターゼはそう言って、兵士の顔を上げさせた。だが、兵士長の顔は全く晴れなかった。
兵士長は立ち上がると、体の向きを変え、ショーンとスーナに頭を下げると、さらに向き直ってアーティスに頭を下げた。
「皇女殿下をお助けいただき、感謝に堪えません」
「たまたま通りかかっただけですがね。何にせよ、皇女殿下がご無事でよかった」
アーティスは恐縮する兵士長にそう言って、辺りに倒れている兵士を見回した。
「・・・それより・・」
アーティスは倒れている兵士をぐるりと見回した。
兵士長はほかの兵に指示して、倒れている兵士を見に行かせた。4人が倒れているが、いずれも近衛兵の服装だ。その顔を見た兵士が、驚いた顔で首を横に振った。
兵士長もそれぞれの顔を見たが、倒されていたのはすべて見覚えのある顔だった。
「これは・・・」
兵士長は困惑した表情で介抱されている兵士たちを眺めた。
「確証はありませんが、何かに操られているようでした」
肩を落とす兵士長にアーティスが声を掛けた。
「視線とか動きが変でしたから」
「そうですか・・・」
近衛兵が皇女を襲ったという事件は大問題になるだろう。監督する立場の兵士長としては重大責任であった。良くても重刑、最悪の場合は死刑ということもある。気が重くなるのも仕方ないことだった。
「わたしも魔力を感じました。彼ら本人のものでない、邪悪な感じがしました。アーティス様がおっしゃっている『操られていた』、というのはその通りだと思います」
メルフォターゼの意見に、兵士長は納得したように無言で首を縦に振った。
「いずれにせよ、彼らが回復したら尋問しますので、それで判明すると思います」
兵士長は頭を下げて、兵士たちの方へ駆けて行った。
「アーティス!」
兵士長が去ると、騎馬が一頭近づいてきて、アーティスの名前を呼んだ。
「キュリアン・・・」
キュリアンは、馬を降り、小走りに走ってきた。
「無事か?・・・というより、無事だよな」
そもそもキュリアンはアーティスの心配はしていなかった。近衛兵4人とはいえ、剣闘会出場者が負けるはずがない。アーティスの強さはキュリアンがよく知っている。感覚が鋭い上に、身体能力が非常に高い。剣術が素人のキュリアンが見ても、その辺の兵士に負けるとは思えなかった。
「・・・これは、皇女殿下、失礼いたしました」
アーティスの後ろにメルフォターゼの顔を見つけ、キュリアンは慌てて片膝を付き、頭を下げた。
「キュリアン殿、頭を上げてくださいな」
メルフォターゼは優しい声で言い、キュリアンは恐縮して立ち上がった。アーティスもキュリアンも1年前からアルルアで修行しており、メルフォターゼと面識がある。アーティスの方は王子であり、メルフォターゼと会う機会はキュリアンより多い。だが、キュリアンもアーティスを一緒にいることが多く、一般人として皇女に会う機会も多かった。
また、メルフォターゼがその出自などを気にすることなく気さくに話しかけたりするので、キュリアンとしてもそれほど卑屈にならずに済んでいた。
「こちらは、マト国のショーン王子とスーナ王女です」
キュリアンがメルフォターゼのさらに後ろにいる少年と少女に疑問の視線を送ったことにメルフォターゼが気付き、二人を紹介した。
「王子様と王女様・・」
キュリアンはまた慌てて、片膝を付き頭を下げた。こんな場所に皇女と王子と王子と王女が揃っているとは・・・。頭を下げたまま、キュリアンは苦笑した。さすがはアルルア城内というべきか、貴族どころか王侯がそこら中にいる。改めて、皇城に自分がいるということを認識した。
「ああ、気を使わないでください。頭を上げてください」
ショーンの方も慌てて、キュリアンの肩に手を掛けた。キュリアンは頭を上げ、立ち上がった。
「キュリアン・デュランドと申します」
立ち上がって、キュリアンはもう一度頭を下げた。
「アーティス殿のお知り合いですか」
「私もアルファムの出身で、仲良くさせていただいております」
「なんだ、その余所行きの言い方は」
アーティスが二人の話に割って入ってきた。
「こいつは、幼馴染です。今は魔法士見習いですよ」
「魔法士さまなんですかー」
アーティスが紹介すると、今度はスーナが入ってきた。
「魔法を使えるんですよねー?」
「ええ、まあ、少しですが・・・」
「すごーい。すごいです!」
スーナ王女の勢いにキュリアンが苦笑する。
「済みません。マトには魔法士がいないもので、魔法士の方に初めて会ったんです」
ショーンがまたも頭を下げて、王女の腕を後ろから引っ張った。
「アーティスさまは魔法士の方ともお友達なのですね」
腕を引かれて1歩下がったスーナは、それでも身を乗り出して、キラキラした目でアーティスを見上げた。
「はあ」
アーティスが困った顔をして、キュリアンと目を合わせた。
「メルフォターゼ様、これからどうされますか?」
一通り処理が終わったようで、兵士長が話しかけてきた。
「・・私としましては、皆さま、一度城の方へ戻られた方がよろしいかと・・」
兵士長が控えめに提案すると皇女メルフォターゼは胸の前で軽く手を叩いた。襲われたとはいえ、アーティスがすぐに片付けてしまったので、皇女にはあまり危機感が沸かなかったようだ。
「そうですね。その方が良いでしょうね」
皇女の言葉で、5人は皇城へ戻ることになった。兵士長は、「必要ない」というアーティスの言葉を丁重に断って、兵士3人を護衛に付けてくれた。
皇城に戻ると一行は解散して、それぞれの部屋へ戻ることにした。
「兄上、アーティス様はアルファムの第1王子様ですのよね」
ショーンとスーナにあてがわれた連室の共有客室に戻ったところで、スーナが思いついたように質問を始めた。
「ああ、そうだね」
スーナの質問の意図が見えず、ショーンは首を傾げながら答えた。スーナ付きのメイドのキャスが冷たいジュースを二つ運んできて、二人の前のテーブルに置いた。
スーナは胸の前で両手を合わせ、その手を合わせたまま左右に振る。ショーンはその様子を目の端で追いながら赤い色のジュースを口に運ぶ。
「奥様はいらっしゃるのかしら?」
「さあ・・・?!」
曖昧に返事したショーンであったが、質問の意味がわかって思わず口に含んだジュースを噴き出した。キャスが慌ててタオルと布巾を運んでくる。
スーナはそんな兄のことなどかまわず、上目遣いで自分の世界に入っていた。
「・・・雰囲気的に結婚はしていなさそうですわね。まあ、第2妃というのでも悪くはないかも。向こうは第1王子ですしね。マト国のことは兄上がいらっしゃいますし、わたくしがいなくても大丈夫でしょう・・・・」
スーナは部屋の中を歩き回り、自身の未来について妄想を膨らましていた。
「おいおい・・・」
その様子を見ながら、ショーンは両手で頭を抱えた。
あと少しで休暇に入りますので、もう少し早く投稿できるになるかもしれません。
できるだけ忘れられないように続けていくようにします。




