04:闘技場リーケシオン
翌朝、ショーンとスーナは、闘技場の地下に設けられた修練場を訪れた。アルルア城の外壁の近く、城下街のはずれにその闘技場は建っていた。およそ38年前に建てられたそれは巨大な建造物である。闘技場そのものは直径1ガバ(約97メートル)の円形で、その周囲は階段状に組み上げられた4段の観客席が取り囲んでいる。観客席の東側は貴賓席で、皇帝の席が最上段に設えてあった。豪奢な椅子が皇帝と皇妃のために置かれてあり、屋根も備え、その席には巧妙に直射日光が当たらないようになっている。その下段は招待された王侯の席になっており、一般客席より大きさも豪華さも比較にならない席が作られている。
闘技場の地下には2層の地階が広がっており、出場者の控室や修練場、そのほかの施設が収められている。8つある観客の入場門と別に出場者の用の入り口が3か所あり、それぞれがその地下の修練場に繋がっていた。出場者はこの地下の修練場から専用の通路を通って、直接闘技場の出入り口に出ていくことができる。
基本的に石と煉瓦と漆喰で作られているが、建造から40年近く経った今でも、それほど古びた感じはしない。この剣闘会のためによく手入れされているようだった。
上部が半円になった大きな門をくぐり闘技場の中に入ると、案内役の兵士がショーンとスーナを地下へと案内した。壁には松明が焚かれていたが、ところどころに巧みに穴が穿れ、陽の光も差し込んでおり、地下という割には明るく感じた。地下というには天井も高く、閉塞感がないように工夫されているようだ。
修練場はいくつかの部屋に分かれていたが、そのうちの一つにショーンとスーナは案内された。数十人が入れるほどの広い部屋で、3人の剣士が剣を振ったり、瞑想したりしていた。
「これは、王子! 王女様も!」
ショーンが修練場の入り口に立つと、近くにいた偉丈夫が声を上げた。身長はショーンよりも1トーム(約7センチメートル)以上高く、体躯は二回りも大きい。
アシル・シロキサン。マト国近衛部隊の副長を務めており、大剣の使い手としてマト国では一目置かれる存在だった。近衛隊長の推薦で今回剣闘会の出場者として抜擢された。国の威信がかかっている重圧で最初は出場を渋っていたが、近衛隊長の説得で出場を決意したのだった。
剣闘会は36年前、前皇帝セントーリオ・セム・トレリウスが提唱して始まった剣術大会である。各国の交流と剣技を競う場として、各国代表者による勝ち抜き戦方式で、第1回剣闘会は開催された。闘技場はそのために多額の国費を投入して2年がかりで建設されたものだ。
剣闘会は4年ごとに開催され、今年で10回を数える。判定者が設定されたり、前回優勝国に2名出場の権利ができたりと、多少の変更はあったが、剣で戦うという基本は変えずに続いていた。
剣闘会では基本的には剣のみを使い、その他の武器は使用禁止されている。使用する剣は出場者が用意するが、剣の大きさなどは規定があり、一定の制限が加えられていた。素手のみの出場は認められていないが、剣を持った状態での殴る、蹴るという行為は認められる。
勝敗は両手から剣を放して、地面に落とすと負けとなる。もしくは選抜された3人の判定者が戦意なしと判定した時点で、銅鑼が鳴らされ試合終了とする。真剣を使うとは言え対戦者を死亡させることは禁止されており、明らかな不可抗力を除き、殺した方の負けとなる。
祭事的な色が濃くなった現在でも、各国の代表者が競うということで、それぞれの選手は国の威信を背負って来ているので、選手にとっては気が抜けない戦いになる。
アシルは恐縮したように金髪を刈り込んだ頭を下げた。
「このようなところまで、おみ足をお運びいただきまして、・・・」
「いや、昨日着いたんだが、昨日は来れなかったんでな」
「ご連絡いただければ、こちらから参りましたのに」
「アシルは剣闘会のことだけ考えてくれればいいから。こちらも連絡してなかったしな」
済まなさそうに巨躯を縮めるアシルに、ショーンは笑って答えた。
「そんなことは気にせずに、明日の試合に集中してくれよ」
「もちろん、全力を尽くします」
アシルは握った右拳を胸の前で構えて答えた。意気込みと覚悟のようなものがショーンにも伝わった。
「勝てそうなのですか?」
周囲の剣士たちを見回しながら、スーナがアシルに尋ねた。アシルは表情を引き締め、頭を振った。
「もちろん優勝を狙っていますが、今年は強敵が多いですからね」
アシルは苦笑いを王女に返した。
「・・なにしろ、聖剣士がいますし・・・」
ショーンも今朝配られた取り組み表を見ていたので、そのことは知っていた。優勝候補の筆頭は、ガイデスメリアのスルフォン・ソマ。碧の剣グラン=サイバーを持つ聖剣士として世に知られている剣士である。
もちろん剣闘会では聖剣は使用禁止だ。剣は聖力や魔力のない通常の剣を使うことが定められている。それでも、聖剣士というだけでもすでに一流の剣士の証であり、試合で持っていなくても聖剣の加護を受けているはずで、有利なのは間違いない。
また、皇都アルルアの選手は常に優勝候補であり、今回出場のファラーン・ランスフォードはアルルアの近衛兵団の隊長でアルルア随一といわれる剣の使い手だった。そのほかにもアルファムのフォン・リックは前回の優勝者であり、テルアーナやエステルは過去優勝したこともある強豪国であった。さらに前回優勝のアルファムは優勝国特権で2名出場している。そのほかの国もそれぞれに屈強な剣士を出場させていて、強敵ばかりということになる。
いずれにしても、各国ともその沽券にかかわる事だけに、優勝は簡単ではない。どの国も名誉のため、国の威信のため、必死なのだ。
闘技場があるアルルアは比較的高地にあり、その気候になれるために各国の出場者は1週間以上前にアルルア入りして、鍛錬を続けていた。城外に出場者用の館が用意されており、出場者は自由に鍛錬場などの施設も使うことができる。食事や身の回りのことは各国に任されているが、館や施設は皇都が用意するのが習わしだった。優遇された状態で過ごすことができるが、その分重圧も感じる。
「明日の試合を期待しているよ」
「はっ! 全力を尽くします!」
アシル・シロキサンは顔を引き締め、ショーンに向かって敬礼した。ショーンも笑って敬礼を返した。
「邪魔をして悪かったな」
「いえ、ありがとうございました」
アシルを励ます言葉を数言交わして、ショーンは別れを告げた。
アシルは明日から始まる剣闘会の第2試合に出場することになっている。今日は最終調整で、あまり邪魔しても悪い。ショーンは早々に暇するつもりだった。
出口まで見送ろうとするアシルを留めて、ショーンとスーナは闘技場を離れた。
投稿する間隔が長くなってしまいました。
なかなか書く時間が取れていません(泣)。書きながら寝落ちしてしまっていることが多いです。
また、今回は説明ばっかりでした。ちょっと冗長でしたかねー。
次回からはちょっと動きがあると思います。




