03:皇姫メルフォターゼ
最近寝落ちしてしまって続きを書くのが遅くなっています。
もともと遅筆ですが、もうちょっと早くアップできるように頑張ります(と思っています)。
扉が閉まると同時に、ショーンとスーナは同時に大きく息を吐いた。そのあと、スーナは天を向いて言葉を吐いた
「緊張した―」
ショーンは言葉にはしなかったが、気持ちは同じだ。今まで生きてきた中で、最も緊張した時間だった。まだ、心臓がどきどきしている。
皇帝に会うことなどそう何回もあることではない。王家に生まれたと言っても、マト国は皇都からは遠くの地で、皇帝の存在は現実味が薄かった。もう夢を見ているようで現実かどうかも分からなくなったような感じだった。。
初めて会った皇帝と皇后は、確かに高貴さと威厳はあったが、決して近寄りがたい雰囲気ではなかった。むしろ、自分たちに気を使ってくれていて、優しさを感じる。ショーンもスーナも皇帝夫妻には好意を持つことに何の戸惑いもなかった。
ふと気が付くと、少し離れたところに軽装の男性が立っていて、こちらを見て少し笑っていた。ショーンの視線に気が付いて、その兵士は顔を引き締めて、頭を下げた。
「申し訳ありません」
「あ、いえ・・」
ショーンは顔を赤らめて返事をした。謝られた方が恐縮してしまう。ため息をついたり、ドギマギしていたのは、傍から見ればおかしかったろう。
「こちらにお食事がご用意してございます」
あらためて兵士は手を差し伸べて、ショーンたちを大広間に案内した。
大きな扉が開かれると、そこは巨大な空間だった。大広間には、たくさんの人がおり、ざわめきが耳を刺した。立食形式らしく、広間には幾つかテーブルがあり、肉や魚や果物など、様々な料理が並んでいた。そのテーブルの周りや壁際など、そこここに人々が集まって談笑している。多くは王侯貴族の体であったが、一部には巨躯を有した者もおり、今回の出場者と思われた。
ただ、ショーンには知り合いの姿は見つけられなかった。
「兄上!」
スーナがキョロキョロしている兄の袖を掴んで近くのテーブルに引っ張っていった。
「何?!これ?!」
「スーナ、はしゃぎ過ぎ」
ショーンはスーナの方を見てたしなめたが、スーナの方はショーンを見ていなかった。引き寄せられるように食事が満載のテーブルに近づいて行き、スーナはその豪華な料理に文字通り目を見開いた。
「兄上、知らないお料理ばかりですぅ」
スーナは料理の上に視線を泳がせながら、目をキラキラさせていた。
「食べてもいいんでしょうか」
「いい と思うよ」
ショーンはやや疲れた顔で答えた。周囲を見ると特にこちらを気にした風の人はいないが、ちょっと恥ずかしい。兄が気を使っているうちに、スーナは手当たり次第に料理を口に運んでいた。
「ふぁにうふぇ、ふぉれ、、ふぉいふぃいれふぉよ」
口にいっぱいに料理を含んだまま、スーナが眼を輝かせてショーンに料理を盛った皿を突き出した。ショーンは天を仰ぎ、それからゆっくりと息を吐いた。まだ13歳とは言え、口に料理を頬張った姿は王女らしからぬといってよかった。天真爛漫と言えば聞こえはいいが、王族としてはその振る舞いは褒められたものではない。
「スーナ、もう少し品を持って食べなさい」
「ふぁい?」
たしなめた先から、スーナは口に料理を運んでいる。
「兄上、これは何でしょう?」
ようやく口の中が空になったが、視線はすでに別の料理に移っていた。
「さて?」
何かの肉のようだが、ショーンも見慣れないものだった。
「・・熊肉をはちみつで煮込んだものですよ」
スーナの後ろから女性の声で解説が聞こえた。
見れば、緩やかに波打った輝くような金の長髪の中で、美顔が微笑んでいた。女性にしてはやや長身の方だが、白を基調にしたドレスがよく似合っている。細面の顔に紅色の唇が印象的であったが、それよりも目を引くのは切れ長の目の色であった。左の瞳は澄んだ青、右の瞳は金に輝いている。
「突然、ごめんなさい。食べっぷりがいいものだから」
その女性は軽やかな笑みを浮かべた
「・・メルフォターゼと申します。アルルアは初めてで?」
「あっ、はい」
色違いの眼に見つめられて、ショーンはなぜか鼓動が高鳴るのを覚えた。スーナも食べるのを忘れて見とれている。
メルフォターゼ。どこかで聞いたことがある名前。
ふと、その人物が何者か記憶の奥から沸き上がった。
メルフォターゼ・アル・セラ・トレリウス。
皇帝ガレリオン・セル・トレリウスの一人娘。皇女にして、アリュシナ神殿の巫女。噂通りの美女であった。年齢はショーンよりも3-4歳上だったと思うが、ずっと大人に見えた。
「ショーンと申します。マト国の・・」
ショーンは慌てて名乗った。皇女殿下に名乗らないのは失礼だと思いついたが、うまく言葉にならなかった。
「マトのショーン様ですね。では、こちらは、妹姫のスーナ様?」
「はい、スーナです! お姉さま」
妹の返事にショーンは思わず、スーナの方を見でつぶやいた。
「お姉さま?」
スーナは兄の言葉など聞いていなかった。
「お姉さまと呼んではいけませんか」
目をキラキラさせながら、スーナが拝むように手合わせた。メルフォターゼは形の良い眉を寄せて、少し困った顔になったが、すぐにニコリとスーナに笑いかけた。
「いいですよ。可愛い妹ができたということですね」
「ありがとうございますぅ」
スーナは満面の笑みを浮かべて、メルフォターゼの腕に両手でしがみついた。
「あ、こら!」
思わず声を上げたショーンに、皇女は小さく手を振った。
「構いませんよ」
スーナは腕にしがみついたまま、憧れの眼差しでメルフォターゼを見つめている。以前から姉に憧れていると言っていたが、こんなところでそれが発現するとは思わなかった。いつもこの妹には驚かされる。
「お姉さまは明日お暇はございませんか?」
スーナが尋ねると、メルフォターゼは少し首を傾けた。
「スーナ! いきなり失礼だぞ」
ショーンに睨まれ、スーナは首を縮こまらせた。
「まあまあ」
メルフォターゼが間に入るように手の平を振って見せた。
「・・午後なら少し時間がありますよ」
メルフォターゼの返答にスーナの顔がぱぁと明るくなった。
「じゃあ、じゃあ、ご一緒に街を案内していただけませんか?」
「こら、それはダメだろ」
再度ショーンはスーナを叱ったが、メルフォターゼの方は穏やかに笑っていた。
「いいですよ。それほど長くは居られませんが」
「やったー!」
スーナがパチパチと手を叩いて喜ぶ。反対にショーンはぐったりと疲れた表情をした。
「メルフォターゼ様」
神官の服を着た男が小走りに近づいてきて、メルフォターゼの前で腰を折った。
「明後日のことで、ご相談が・・」
「分かりました」
メルフォターゼはその男にそう言ってから、ショーンたちに向き直った。
「ごめんなさい、明日またね」
そう告げると、その神官の後に続いて宴会場を横切っていく。途中ですれ違う人々に頭を下げながら、優雅な足取りで皇女は扉の陰に消えていった。
「兄上!」
スーナはまたも目を輝かせた。
「私、お姉さまができましたよ!」
「いや、あの・・・」
ショーンは天を仰いだ。




