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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
外伝の1 アルルア剣闘会
42/89

02:皇帝ガレリオン


 お祭り騒ぎのような街並みを抜けると、アルルア城の城門がショーンたちを迎えた。街の城門よりもさらに一回り大きな城門で、見上げると一つの城のように見える。

 城門の前で馬車は止まり、城門を守る兵士の誰何が入った。先導する騎士が通行証を見せ、それを確認するという一連の手続きが終わり、馬車は巨大な正門を潜り抜ける。

 その先には、広大な緑の広場とその奥に目を見張るほどの巨城がそびえ立っていた。


 天を衝くという表現はこのためにあるのだろうと思うような尖塔が中央にあり、その周りをそれより低い尖塔が囲んでいる。その尖塔群だけで、一国の城を凌駕する大きさがあった。どこを見てもその規模は桁違いの大きさだった。

 馬車は指示された通り、尖塔の右の方にあるやや低めの建物に進んだ。その一角には小館がいくつか立っており、その一つに案内された。来賓用の宿舎というところだろうが、小館と言っても、なかなかの広さがあった。

 今回の剣闘会も各国から代表が出るので、それぞれの国から王族や貴族がたくさん訪れている。もてなす方も大変だろうと思われた。


 掃除の行き届いた部屋に案内され、少し休んでいると、皇帝ガレリオン2世から夕食会の招待が届いたという知らせが来た。

 ショーンとしては、面倒くさいことは避けたかったが、国賓扱いになっているので、無下にするわけにはいかないし、父王からくれぐれもと念を押されている。

 メイドのキャスにスーナの支度を頼んで、ショーンも白い正装に着替えた。

「めんどくさいな・・・」

「仕方ありませんな」

 ショーンのつぶやきに、ランドル・フォーンが苦笑しながら答えた。ショーン王子より9歳年上のランドルは今回王子・王女の護衛を仰せつかっていた。近衛兵として王子や王女とは接していたが、今回のように単独で護衛を任されるのは初めてであった。重大な任務であり、緊張もするが、ランドルはこの春風のような兄妹が好きだった。兄妹共に真っ直ぐに育っており、国民にも人気がある。


「兄上!」

 ちょうど剣を佩き、ショーンの支度が整ったところで、スーナが部屋に飛び込んできた。薄い黄色のドレスで、同色の花の飾りが腰の周りにあしらえてある。肩にも同じような花飾りがあり、年齢相応の可愛らしい感じのドレスであった。

「どうですか? おかしくないですか?」

 ショーンの前でくるりと一回転してスーナが訊いた。

「ああ、よく似合っているよ」

 ショーンはニコリと笑って答えた。可愛いと思うのは身内びいきだろうか。ショーンはこの妹姫が大好きだった。その屈託のない笑顔は宝物のように大事に思っていた。


 ショーンとスーナは、護衛のランドルとメイドのキャスを伴って馬車に乗り、皇城へ向かった。御者も近衛兵であったが、皇都内のためこの二人以外の護衛は付けていない。

「あんなに大きいお城は初めて見ました!」

「皇帝陛下にお会いしたら、どうしましょ」

「ほかのお国の女性はもっと艶やかなのでしょうねー」

「・・・・・」

 矢継ぎ早に言葉を発するスーナに、ショーンは一言も答えられないでいた。というより、スーナがずっと話しているので、口をはさむ暇がないのだった。ショーンも興奮していたが、スーナの高揚に圧倒されていた。


 結局、主塔の前で馬車を降りるまで、スーナはしゃべりっぱなしだった。そのスーナも主塔に入る前には大きく息を吐いて、口を結んだ。圧倒的な高さの主塔の前で、急に緊張感が沸き上がってくる。首が痛くなるほど塔頂を見上げて、ショーンも息を飲んだ。真っ白な壁に包まれた巨大な塔には威圧感があり、自然に背筋が伸びた。横をみると、黙りこんだスーナが泣きそうな顔をしている。


「ではな、我々はここまでですが、お帰りの際にはお迎えに上がります」

 馬車から降りて、跪いたランドルが頭を下げた。その隣でキャスも首を垂れていた。

「ああ、また、後で」

 ショーンはそれだけ言って、歩き出した。迎えに出てきた文官らしき若い男が先に立って案内する。主塔の前には、兵士が整列しており、その奥には騎兵が控えているのが見えた。いずれも屈強な感じの兵で、整然と列を組んでいる様子は規律正しくいかにも強い軍隊であることを誇示しているようにも見えた。

 案内の男の後に続いて主塔に入っていくと、今度はメイドや執事の群に迎えられた。天井も高く、壁の装飾や飾られた絵画が上品でいて、威厳がある様子を醸し出していた。男に案内されるまま、大理石で作られた豪華な長い廊下を進むと、大きな扉の前で止まった。


「こちらで皇帝がお待ちです」

 そう言って、案内してきた男が扉を引いて開いた。

 ショーンもスーナもシュッと背筋を伸ばして、部屋に入っていく。

「マト国、ショーン・エランド様、スーナ・エランド様」

 ショーンとスーナの後ろで、扉を開けた男が来訪者の名を告げた。


 ショーンとスーナは謁見室というには広過ぎる部屋の真ん中を進み、4段高くなった玉座の前に跪いた。

「よく参られた」

 広い部屋によく通る声が玉座から発せられた。

「ご拝謁賜ります。マト国セルロガの子、ショーンでございます」

 片膝を付き、首を垂れたままショーンが挨拶の言葉を発した。緊張で舌がもつれそうだ。すでに口の中が乾いている。

「・・おなじく、スーナでございます」

 スーナは腰をかがめ、ドレスの端を両手で持ち、腰を折って続けた。こちらも普段の様子と違って、緊張で体が硬くなっているようだ。動きがカクカクと人形のようなしぐさだった。


「そう硬くならずともよい。お二人ともお顔を上げられよ」

 その言葉でショーンとスーナは頭を上げた。壇上には豪華な椅子が2つ据えられており、右側に顎髭を湛えた壮齢をやや過ぎた感じの男が座っていた。皇帝ガレリオン2世。この世界で頂点に君臨する皇帝。13国の王のさらに上の存在。肖像画を見たことはあったが、本人に会うのはもちろん初めてだった。だが、印象はその肖像画よりも柔和に見えた。

 その皇帝の隣では黒髪の美女がニコリと笑っていた。皇妃マリアリーカ。皇妃に相応しい気品が漂っていて、それでいて優しそうな雰囲気の女性だった。


 そして、皇帝の左側には、玉座に劣らぬ装飾を施された剣立てがあり、そこに直剣が立てかけてあった。聖剣ラング=リスベック。白竜アランカンの鱗から作られたという伝説の白剣である。今は数種の宝石を散りばめた鞘に収まっており、その剣刃は見えないが、鞘から抜くと白銀に輝くという。皇帝が所持し、それを所持することが皇帝の証とされる聖剣であった。


「そなたがセルロガが眼に入れても痛くないという王女どのか」

 笑いを浮かべてガレリオンがスーナに視線を投げた。目を向けられたスーナはドギマギして返事ができなかった。

「失礼ですよ」

 マリアリーカ妃が皇帝をたしなめた。言葉は柔らかったが、目は笑っていなかった。

 皇帝ガレリオンはバツが悪そうに視線を宙に這わせ、それから気を取り直したようにショーンに顔を向けた。

「セルロガ王はお元気かな」

「・・はい、おかげさまで健勝でございます。この度も本来はセルロガがご拝謁あずかるはずでしたが・・・」

「ああ、よい。そなたたちのような若者に会う方が楽しいしな」

 ガレリオン2世は、笑いを浮かべながらショーンに答えた。かつて、父王(セルロガ)が若かりしとき、アルルアで半年ほど居たことあり、その際にガレリオンと肩を並べて剣の修行をしていたとショーンは聞いたことがあった。ガレリオン皇帝と父王はその頃からの友人でもあったのだ。


「・・・剣闘会を楽しんでいってくれ」

 国の情勢や今回の剣闘会についての話を数度交わしたのち、ガレリオンはスーナが小刻みに震えているのを見た。どうやら、あいさつした中腰のままで、足がしびれてきたらしい。ガレリオンはニコリと笑い、同じく笑みを浮かべている皇妃と顔を見合わせると、「ははは」と笑い声をあげた。

「これは、長い時間取ってしまったな。別室に食事など用意しておるので、楽しんでいってくれ」

 それが、退出の合図でもあった。

 ショーンとスーナは最初と同じようにお辞儀をして、皇帝に背を向けた。足がしびれているスーナの歩き方がぎこちなかったが、どうにか扉にたどり着き、再度振り返って皇帝と皇妃に頭を下げる。顔を伏せる際に、皇妃が小さく手を振っているのが見えた。そのまま、後ろ向きに部屋を出ると、従者により扉が閉められた。


投稿に少し間が開いてしまいました。

毎日投稿は難しいですね。

でも、続けていきますので、気長にお付き合いください。

それから、ブックマーク登録、評価ありがとうございます!

ポイントが増えていたので、読んでいただいているんだと嬉しく思います。

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