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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
外伝の1 アルルア剣闘会
41/89

01:皇都アルルア

第2章、とい言いたいところですが、ここで外伝をはさむことにしました。

第1章で出てきたショーン王子とアーティスの出会いの一幕です。



 緑の森を抜けると、正面に切り立った巨大な崖が見えた。アルファム国を縦断してアルルア州に入る最後の道であった。大地が数ガバ(=数百メートル)も盛り上がったようにほぼ垂直に立った崖が1ハーラ(=約6キロメートル)も続く。そして、その上に皇都アルルアがあるはずだ。昨日歓待してくれたアルファムの王都アーレゼンは後方にあり、もう見えなくなっていた。

 馬車は右の方へ方向を変え、崖の南側の道に向かって行く。長い洞窟のような坂道をひたすら上がって行くと、急に視界が開け、左に大きな湖が見えた。ファルアニア中央部に位置するブレガン内海(カール)と呼ばれる大陸最大の湖である。その反対側、左の方に大きな城壁と尖塔が見えた。


「兄上! あれがアルルア城ですか?!」

 馬車の窓から身を乗り出さんばかりに窓にかじりつき、スーナが叫んだ。

「ああ、そうだね」

 一応、兄の威厳として落ち着いて答えたが、ショーンも内心興奮が治まらなかった。

 今回の旅は初めて見るものばかりだった。アルファムに来たのも、アルルアに来たのも初めて。

これほど長く旅をしたのも初めてであったし、両親がどちらもいない旅も初めてだった。そもそも、他の国に足を踏み入れたのは、隣国フライシャーに父王と共に行ったのが一度だけだ。今回は見るものすべてが目新しかった。


「兄上! ほら、見て! 白鳥(ワイレス)ですよ! 初めて見たーっ!」

 今度は反対側の窓から首を出して、スーナが叫んでいた。見れば海のようなブレガン内海(カール)に真っ白な鳥が飛んでいる。

「姫様! 危のうございます」

 スーナの隣から、メイドのキャスがスーナの腕を引っ張った。ショーンは右手を額に当て、首を振った。もともとは一人で来るはずだったのだが。。。




・・◇◇□□


「アルルアで開かれる剣闘会に行ってもらおうと思うのだが」

 キラル城の広い謁見室に招き入れられたショーンは、父王セルロガにそう話しかけられた。

「我が国からもアシルを出すので、本来なら私が行くべきなのだが、別に用ができてな。それで、お前に私の代わりに行ってほしいのだよ」

「はあ」

 いきなりのことでショーンは一瞬戸惑ったが、頭の中で父の言葉を反芻した。アルルアでの剣闘会。父王は行けない。皇都アルルアに行けるという絶好の機会。しかも、一人で自由に行ける。

「はい!」

 急に笑顔でショーンは返事をした。

「父上は行けないのですねー。残念です」

 目を輝かやせて残念そうには思えない声でショーンが言う。

 セルロガ王は怪訝な顔をしながらも、承諾されたことに安堵したようだった。

「ふむ。よろしく頼む。皇帝にお会いできるかもしれんが、粗相のないように」

「心得ております」

 踊る心を抑えて、ショーンは父王に頭を下げた。


「兄上、ずるーい」

 謁見室に薫風が吹き込んだように部屋の中の空気が緩んだ。白いドレスに身を包んだ少女が転がるように入ってくる。

「スーナ!」

 王と王子が同時にその娘の名を叫んだ。父王の前に進んだ白い少女はドレスの裾を掴み、腰を落として、4割増しなら優雅という仕草でお辞儀をした。頭を上げるとすぐにショーンの方を向き、頬を膨らませた。

「兄上だけズルいです。わたくしもアルルアにいきたいですぅ」

 言ってから、くるりと父王の方へ振り向き、両手を胸の前で組み合わせ、澄んだ青い目を父王に真っ直ぐ向ける。

「ねぇ、お父さま、スーナも一緒に行っていいでしょ?」

 父王(セルロガ)は明らかに困った顔をした。危険はないと思うが、隣国アルファムを縦断する長旅である。子供たちだけでいいものか。ショーンはすでに元服を済ましているが、スーナはまだ13歳である。父としては愛娘をあまり遠くにやりたくはない。

「え、と、その」

 普段はてきぱきと命令を下す王が口ごもった。すでに立ち聞きしていたことを咎めることも忘れている。

「私はかまわないと思うが、母上に聞いてみなさい。母上が良いと言えば行ってよい」

 父王が出した結論がそれだった。「父上はスーナに甘い」とショーンは心の中でつぶやいていた。

「ありがとう。お父さま」

 満面の笑顔でスーナが答えた。

 そのあと、スーナは母にねだりまくり、根負けした(サーシャ)は「ショーンが一緒なら」と要らぬ条件を付けて許可を下した。


□□◇◇・・



 ということで、今回は妹連れということになった。ショーンも妹が嫌いなわけではないのだが、今回は一人で自由にと思っていたので、ちょっと残念だった。

 いずれにしても、初めてのことが多く楽しい旅だった。それももう終わり、間もなくアルルアに到着するはずだ。

「あとどれくらいで着くのかしら」

「あと2ズーサ(注:約1時間)ぐらいですかね」

 ショーンの向かいの席に座ったキャスが答えた。


「えーっ!」

 キャスの隣に座っていたスーナが声を上げ、キャスの顔を見た。ショーンも声を上げるところだった。

「もう、見えてるのよ。あそこに」

 スーナもショーンと同じことを考えていたようだ。アルルアの城が見えているのだ。すぐ近くだと思ったが。。。

「アルルアはカービアンよりずっと大きいですよ。それに、街への入り口は東側で街を大きく迂回しなければなりません」

 キャスの答えにスーナが眼を丸くした。スーナもショーンもマト国を出た事がほとんどなく、王都カービアンより大きい街など見たことがなかった。昨日宿泊したアルファムの王都アーレゼンはカービアンよりは大きく華やかだったが、それほど大きいとは思わなかった。さらに大きいアルルアはさすが皇都というべきか。ますます興味が沸き、期待が大きくなる。


 巨大な城壁の傍を延々と馬車は走り、ようやく皇都アルルアの城下町の入り口を通過した。大きな城壁の大きな門をくぐると、広い街が一望できた。崖の上に立つアルルアの主城まで一直線に広い街道が続いている。主城までは、すべて上り坂になっており、入り口の門からは見上げるように城も街も広がっていた。中央の街道の左右にはカービアンの倍ほどの街が広がっていて、その広大さが見て取れた。

 門も城壁も皇都にふさわしく大きく高かったが、ショーンはふと思った。この皇都にこれほどの守りが必要なのだろうか。聖剣を持つ皇帝が居り、難攻な崖の上に立つという自然の防壁もある。しかもこの120(ボルユ)に渡って、ファルアニアには大きな戦乱もない。何を恐れているのか。だが、ショーンの心に浮かんだ疑問は、アルルアの街並みに驚嘆する気持ちに奥へと押し込まれてしまった。

 中央街道は馬車が4台並列で通れるほどの広さがあり、脇には一段高い歩道があった。石畳と違って粘土で舗装されており、馬車で通っても揺れが少ない。沿道には様々な店が並び、色とりどりの看板が眼を引いた。剣闘会のせいか、人通りも多く、活気に満ち溢れている。

「わー! すごい! すごい!」

 街に入るとスーナは、左右をキョロキョロ見回し、息もつかぬほどずっと声を上げていた。

「落ち着け」と言いたいところだったが、ショーンの方も皇都の賑いに目を奪われていた。



第2章の内容が固まらなかったので、外伝としてショーンとアーティスの前日譚を書くことにしました。

本編の3年ほど前の話です。

しばらくお付き合いください。


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