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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
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036: 狂撃


「アーティス!」

 イノとショーンが同時に叫ぶ。魔獣の両拳がアーティスを押しつぶしたように見えた。

 だが、その拳の間から、微かに青白い光が漏れている。魔獣バルシェットも拳を放すことなく、まだそこに何かいるように逆に力を込めているように見えた。


 バルシェットの拳の間から漏れる青白い光の量が増していった。押しているはずの拳が徐々に広がっていく。その間で、青白い人影が両腕を広げていた。右手には輝きを放つ青剣を持っていたが、左右に広げた両腕が魔獣の拳を押し返している。

 アーティスの全身を包む光が弾けるように広がった。その光に押し出されるように魔獣バルシェットの拳が弾かれた。その光の中心でうなだれたように首を落としたアーティスが佇んでいた。全身から聖力があふれ出ているように青い光に包まれている。


 魔獣バルシェットは青い光を放つアーティスをその一つ目で眩しそうに見ながら、拳を開いた。その開いた両手でアーティスを捕らえようと、左右からその強大な手を近づける。

 その時、青い光が一閃した。

「ウガッ!」

 魔獣が声を上げて、手を引いた。その右手から、ゴトンと何かが落ちた。魔獣が右手を広げると小指が無くなっており、その傷口から赤い血が噴き出た。

「オオオォォーン」

 魔獣バルシェットは痛がっているのか、小指が無くなった傷口を見て声を上げた。左手でその右手の小指辺りを押さえる。その手にぐっと力をいれると、小指の傷口が閉じ出血が止まった。それから睨むようにその指を切り落とした相手を見る。


 その剣士は剣を下げたまま、じっと佇んでいた。頭は下を向いていて、立ったまま寝ているような様子にも見える。そして、その全身が青白く光っている。体の内側から発しているようにボゥと仄かな光が体を包み、肌が出ている腕などの光が特に強い。


 魔獣が小指をなくした手で拳を作り、再びアーティスに向かって振るう。アーティスは左側から迫る強大な拳にすぐには何の反応もなかった。首を垂れた姿のまま動かない。しかし、その拳が当たる直前、無造作に左腕を上げた。

 ゴン。

 鈍い音と共にアーティスの左腕が光を放った。高速で近づく魔獣の拳は力が入っていなさそうな左腕一本の前に停止した。アーティスは立っていたところから一歩も動かず、まるで飛んできた紙切れが当たっただけというふうに微動だにしていなかった。


 アーティスは軽く扉でも開くように左腕でクイと巨大な拳を押し返した。身長が5倍も違う巨人の拳はその力を無くしたように押し返される。魔獣バルシェットは戸惑ったように一度拳を引いた。先ほどはこの一撃で吹っ飛ばしたはずが、今は簡単に止められた。青く光る聖力は感じるが、自分よりはるかに小さい人間がこれほどの力を持っているとは考えられなかった。


 再度殴りつけるためにバルシェットは拳を振り上げた。

 その時、不意にアーティスが動いた。顔を上げ、剣を振り上げたかと思うとその拳に向かって聖剣を振り下ろした。握っている長剣の長さではその拳には届かない。だが、その青剣は眩い光を放ち、青い光が数リルク(注:数メートル)剣先から伸び出た。剣身が伸びたような長大な剣に変化した聖剣はその青い光刃を魔獣の拳に振り下ろす。


 ズダン。

 光剣は魔獣の右手首を切り落とし、その勢いのまま城壁の床まで突き刺さった。切り落とされた魔獣の右手首が城壁に向こう側に落ちていく。さらに光剣によって破壊された城壁の外壁も堀の水面に崩落していく。

「グオォォォーーーーン!」

 手首を切り落とされた魔獣バルシェットは天に向かって吠え、手首から先を無くした右腕を突き上げた。その切り口から血が大量に流れ出る。バルシェットは屈み込むと、左手で堀に落ちた右手を拾い上げ、切れた手首に合わせた。それから、魔獣は口の中で何かを唱える。すると切れた手首の傷が消えていき、元のように繋ぎ合わされた。バルシェットは、無くなった小指以外の指をにぎにぎと動かしてつながっていることを確認する。


 バルシェットが手首の修繕をしている間、アーティスはまるで立ったまま寝ているように首を垂れて、やや身体を揺らしていた。右手に剣は握っていたが、両腕はだらんと下げている。意識がないのか、上半身が小さく揺れている。


 バルシェットは両手を広げて、今度はアーティスを捕まえようと手を伸ばす。魔獣の太い指が近づいて、アーティスを囲んだ。

 その時、アーティスの右腕が動いた。右手に握った長剣が左右斜めに宙を斬る。あまりの速さに剣自体は見えず、青い光が尾を引いて残像を残す。


 青い閃きが消えると、ボトッボトッと魔獣の指が落ちてゆく。

「アオォォォォ」

 バルシェットは再び、手の平を見た。両の手を開いていたが、左右の手の平とも親指を覗く4本の指が無くなっていた。切り口から滝のように血が流れ落ちる。


 イノたちは声を出すことも忘れて、その光景を見ていた。アーティスが青い光に包まれてから明らかにその強さが変わっていた。青い光は聖力の光か。様子もかなり違ったように見える。

 アーティスはゆっくりと顔を上げた。口元がゆがんで笑っているように見える。首をぐるりと回すと、一瞬見えたアーティスの眼の色が金色に輝いていた。もともとは黒眼であり、明らかにアーティスの体に異変が起きている。両手で握った聖剣に体を包んでいる青い光がまるで水の様に波打ち流れ込んでいく。剣が眩い光に包まれる。


 アーティスがニヤリと笑ったように見えた。次の瞬間、アーティスは石床を蹴り、宙へ飛び上がった。人の背の倍ほどの高さまで飛び上がり、指をなくしたバルシェットの右手に向かって、聖剣を振りかざす。空中で足場のないまま、聖剣を何度も振り回した。剣が放つ光が空中で乱舞して、幾何学的な模様を描く。


 アーティスは宙で一回転して、石床に着地する。膝を曲げて落下の衝撃を弱めると、そのまま伸び上がり、もう一度空中に飛び上がった。身を翻し、今度は魔獣の左腕に剣を放つ。上下左右に何度も剣を振り、魔獣の腕に絵を描くように剣先を動かしてゆく。落ち際まで剣を振るい、アーティスは石床の上に片膝をついて静かに着地した。


 すると、それを合図にしたようにバルシェットの両腕が、こま切れ肉のようにバラバラと崩れ落ちた。魔獣の肘より先が原型を留めない形の肉片と化して大地に落ちてゆく。

「グオオオォォォーン」

 魔獣は悲鳴とも雄叫びとも分からない声を上げた。


ちょっと体調を崩して、アップするのが遅れました。

季節の変わり目は気をつけないと行けませんね。


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