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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
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035: 死闘


 ランドルは爆風からかばうようにショーンの前に立ちはだかった、小石が風と共に飛んでくる。

「ランドル!」

 ショーンはランドルと(たい)を入れ替えて逆にランドルをかばった。深手ではないとは言え、ランドルは背中に傷を負っている。それでも、ランドルはショーンをかばったのだった。

「救護兵!」

 ショーンは階下に向かって叫び、救護を呼んだ。2名の兵士が石の階段を駆け上がってくる。。

「ランドル、下に行っておれ」

 ショーンは言って、救護の兵にランドルを預けた。

「王子・・」

「私はこの戦いの行方を見る必要がある」

 ショーンはランドルに向かって、一度頷いて見せた。魔獣を放置できないが、彼ら人間にはなすすべがなかった。見守ることしかできないことに唇を噛んだが、むやみに手を出せば犠牲を増やすだけであることをショーンは悟っていた。


「負傷したものは場外へ連れ出して安全な場所へ。ほかの者は騎乗して、いつでも逃げられるように待機せよ」

 ショーンはランドルを連れた兵士に命令を告げた。

「・・それと、この者たちの仲間にも同様に伝えよ」

 ショーンはバックの方へ手を差し出して、命令を追加する。

「はっ!」

 兵士は、短く返事をして、ランドルを連れて階段を下りて行った。

 それを見送って、ショーンはイノたちと共に魔獣と戦う聖剣士の方へ視線を戻した。



 アーティスは胸を押さえながら体を起こした。全身に痛みが走る。

 ごぼっ。口から真っ赤な血だまりがを吐き出された。

 さらに胃液が喉を這い上がってきた。頭がくらくらする。目は開いているが焦点が合っていない感じで、視界がぼやけて見えた。

 アーティスは剣を杖代わりにして立ち上がった。魔獣の光線はアーティスを確実に狙ったものではなかった。おかげで、致命傷にはならずに済んだようだ。


「アーティス!」

 イノが叫ぶと、アーティスは左手をイノの方へ伸ばし、手のひらを見せて制止の意思を見せた。呼吸は激しく、落ち着かせるのに少し時間がかかる。

 だが、縛めから解放された魔獣は容赦なく、アーティスに拳を放った。

 咄嗟に長剣を立てたが、その剛拳を受け止めることはできずに、受けた剣ごと吹き飛ばされた。アーティスの体は宙を飛び、城壁の反対側の壁に激突した。


「ぐへっ」

 壁の前に転がったアーティスの口から血が流れ出た。アーティスは正気を取り戻すように頭を振って、膝をついた。どうにか立ち上がると、口の中の液体をペッと吐き捨てた。赤い血の塊が石の床に落ちる。アーティスは気合を入れるように右足をドンと前に出し、聖剣を両手で握り直した。


 アーティスを見守るイノたちが握る拳に力が入った。普通の人間なら、とっくに死んでいるだろう。負傷しているとはいえ、まだ立ち上がれるのは、聖なる加護を受ける聖剣士たる力の現れと思える。だが、その聖剣士にとっても、この魔獣は強敵であった。伝説では、かつてフェリアス・カナーンは5人の聖剣士と共に魔獣たちを封印したと語られている。聖剣士一人の力ではこの魔獣を封じることは不可能なのだろうか。だが、今はアーティスに頼るしかなかった。



 強い意志を映したアーティスの目に、同じように見開いた巨大な一つ目が対峙していた。魔獣は両の拳を握った。アーティスはその右拳に向かって走り出す。バルシェットは少し右肘を引いてから、迫ってくる青い騎士に向かって拳を突き出した。アーティスの剣先と魔獣の拳がぶつかると、ドーンと衝撃音を響き、衝撃波が周囲に放射される。床の石畳がめくれ上がり、吹き飛んだ。


 魔獣バルシェットは脅威に目を見開いたように見えた。その強力な拳をアーティスは水平に突き出した剣先のみで受け止めていた。青い剣は剣刃の周りに聖力を放出していて、刃先が輝いて見えた。アーティスの足元には氷が張っており、アーティスの足首まで氷が覆って固定されていた。


 アーティスは瞬時に聖力を高め、自分と聖剣の両方の能力を高めていた。負傷はしていたが、気力は落ちていなかった。だが、アーティスにとってもこれほどの魔獣と戦ったことはなかった。その魔力と身体の強大さは予想外だった。


 バルシェットは拳に力を込めた。ぐっと押されて、アーティスの方も剣先に力を込める。聖力と魔力の押し合いが続くが、不意にバルシェットは拳を引き、すぐに再度拳を打ち込んでくる。アーティスがそれに反応して、剣を構え直した瞬間、バルシェットの左拳が、横殴りにアーティスを襲った。

 

 間一髪でアーティスは飛び退り、直撃は避けたが、完全には避けられず、横腹と右肘が衝撃を受けた。アーティスの体が左回りに回転し、一回転して止まった。基本的にバルシェットの攻撃は拳で殴るという方法しかないようだが、投石機並みの威力があり、攻撃としては十分に効果があった。これ以上の攻撃方法は必要ないと言ってもよいぐらいの威力がある。そのせいか、先ほどの目から放たれた光線は多発することはなさそうだった。


 アーティスは右肘にしびれを感じ、右半身に痛みが走った。かすめただけの攻撃でも、その衝撃は大きい。不意を突かれたとはいえ、魔獣の攻撃は強力だった。

 息を整えるために、アーティスの動きが止まる。そこへ左右から、バルシェットの両の拳が迫った。

 その高速の拳撃に一瞬対応が遅れ、アーティスの体は魔獣の両拳に挟み撃ちにあった。

 ゴンとぶつかる音がして、アーティスの体は魔獣の巨大な拳で見えなくなった。


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