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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
31/89

030:王子


 地上では、紅の雪狼(ボラ)と郡兵の戦いが続いていた。すでにお互いに数人は倒れ、戦闘も散発化していた。

「クリス!」

 紅の雪狼(ボラ)の首領バック・リージェンは近くにいた若い男に声を掛けた。二人とも、別々の郡兵を相手にしている。

「イノはどうした?」

 郡兵が撃ち込んだ剣を受けながら、バックが叫ぶ。

「知りません!」

 クリスは郡兵とつばぜり合いをしながら答えた。

「アーティスとそっちの塔の方へ行ったみたいです」

 クリスが郡兵を押し返し、よろけた郡兵の腕に剣を叩き込んだ。

「あうっ!」

 郡兵は悲鳴を上げて剣を落としてしまった。すかさず、クリスは郡兵の肩口に剣を振り下ろした。肩から赤い血が噴き出し、郡兵の白い服を赤く染めた。

 

「頭領!」

 正門の上から、バックを呼ぶ声がした。

「まずいぜ! 軍が来る!」

 城壁の上の男が、西の方を指差した。


 城壁の上からは、街道を東進してくる一団が見えた。白い軍服に身を包んだ騎士を乗せた騎馬が20頭以上。後ろにも続いているので、50頭近くいるかもしれない。馬群は埃を蹴立てて突進してくる。

 マコム城からの援軍と見えた。このまま城に乗り込まれたら、情勢は一気に悪くなる。だが、正門を閉じることができないため、止める手立てはない。


 バックは郡兵をかいくぐって、城門の上に登った。見れば、もうすぐそばまで騎馬が迫って来ていた。先頭を切る騎馬に乗った騎士は、白銀の鎧を着け、白銀の兜をかぶっていた。ただの郡兵には見えない。その後ろに追従する騎馬の兵は赤い三角の旗をひらめかした長柄を担いでいた。赤い地に白虎をあしらった図案の旗。


「近衛兵?!」

 バックは昔王都で一度だけ見たことがある。近衛の儀仗兵が持っていた旗だった。王都から来たのか。バックは首を捻った。


 あっという間に騎兵は跳ね橋を渡り、場内に進入した。その勢いに門の近くにいた男たちが逃げ散った。

 先頭を走っていた白銀の鎧の騎士が正門前の広場の中央辺りで、手綱を引き馬を止めた。騎乗した馬が前足を上げ、急停止する。


「双方とも剣を引け!」

 その白銀の騎士がよく通る声で叫んだ。旗手兵はその後ろに控え、数頭の騎馬がその騎士を守るように前に出た。

「我が名はショーン・エランド。国王セルロガの子にして、その名代(みょうだい)として参った」


 ショーンと名乗った男は、腰の剣をスラリと抜き放ち、天を突くように振り上げた。

「王の名代として、命ずる! 双方とも剣を引き、戦いをやめよ!」

 落ち着かない馬首を巡らしながら、辺りの男たちを一望する。

「・・・命に逆らうものは、国に弓引くものとして、この場で斬り捨てる!」

 ショーン王子の声は城中に響き渡り、呆気にとられた男たちは剣先を下げて、その命令に従った。


 よく見れば、まだ幼い面影を残す顔立ちで、20歳にも満たぬ年齢に見えた。だが、その凛とした声は、王子としての威厳を十分に備えていた。長身で細身に見えるが、白銀の鎧に包まれた身体はそれなりに鍛えられているようにも見える。


 とりあえず、戦闘が終わった事を満足そうに見回して、ショーンは剣を腰の鞘に収めた。それから、近くにいた郡兵に尋ねる。

「郡令官はどこだ?」

 尋ねられた郡兵は慌て、片膝をつき、剣を置いて、ショーンに首を垂れた。そして、周囲に視線を巡らすが、目的の人物を見つけられず、その首を左右に振る。

「・・・分かりません」

 短くそう答えた。


 すると、周りで、ガチャガチャと剣や鎧の音がして、郡兵たちが同じように片膝をついて、ショーンに首を垂れた。ようやく相手が王子であることを理解したようだ。

 一方、紅の雪狼(ボラ)の男たちは、所在無げにその場に立ち尽くした。彼らにとって王子などは遠い存在であり、夢物語と変わりなかった。それに礼節などという言葉は教えられたこともない。


「貴様ら、王子の前であるぞ。剣を置き、礼を尽くさんか!」

 ショーンの前にいた近衛兵の一人が、立ち尽くす紅の雪狼(ボラ)の連中を叱責した。それを聞いても男たちは何をしてよいかわからず、立ち尽くす。

「よい」

 ショーンは短くその近衛兵に言い、その近衛兵は無言で頷いた。


「誰か、郡令官を呼んで来い」

 ショーンが言うと、近衛兵の内から2人が騎馬を走らせ、中央の尖塔の方へ走っていった。

 それを見て、ショーンは立っている山賊の方へ視線を送った。

「そちらの責任者は誰だ?」

 その声に山賊の男たちは互いに顔を見合わせる。


「俺が、頭だ」

 バックは城壁の上から答えた。すると、先ほど声を上げた近衛兵が怒鳴った。

「王子の上から声を発すなど無礼であろう! 即刻降りて来い!」

 今にも剣を抜いて飛びかかってきそうな勢いにバックは怯んだ。

「ランドル、よい」

 ショーンはその近衛兵に手をひらひらさせて、落ち着くように言った。


 それから、ショーンは城壁の上のバックを見上げて、同じ内容を告げた。

「すまないが、降りてきてくれないか」

「ああ」

 バックがあいまいな返事をして、城壁にから降りようとしたとき、突然大地が揺れた。


 ごごごごっと地の底から湧き出るように音が上がってきた。その音に少し遅れて、大地が震えた。揺れがひどくなり、馬が興奮して暴れ出す。

「うわあっ!」

 大地の揺れに男たちが慌てふためく。


 ドコン!


 揺れが急に大きくなり、何かが爆発したような音と衝撃が走った。


 バックが見たものは、城のすぐそば、東側の森の一角が土ぼこりを上げて沈んでいく光景だった。森の木が大地に引きずられていくように内側に倒れ、強大な円形に崩れていく。木々に留まっていた鳥たちが慌てて飛び立ち、鳴き声を上げて土煙の中から次々と飛び出した。


「ぐおおおおーん」

 その穴の中から、巨大な咆哮が響いた。立ち上る土煙の中に黒い巨大な影が浮かんでいた。


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