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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
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029:魔穴


 イノが黒蔓に捕らえられたまま、アーティスの頭上を越えていく。アーティスは身動きができないまま、聖力を高めていた。体中が青白い光を放っている。

 ドカン!

 爆発音が響き、アーティスが居た場所から白煙が広がった。濛々と広がる煙の中から、アーティスが飛び出した。

「うぉぉぉーっ!」

 3リルク(注:約2.5メートル)も飛び上がったアーティスは、振りかぶった青剣を叩き付けるように黒い蔓に振り下ろした。青い聖剣の剣身がボゥと青白い炎のようなものに包まれている。


 ガキン。

 金属のぶつかる音が鳴り、黒い蔓は抵抗しきれず青剣によって千切れるように切り落とされた。イノの身体を締め付けていた力がスッと弱まり、体がふわりと浮かんだ感じがした。

 アーティスは落ち行く体から手を伸ばして、イノの腕を掴んだ。イノの身体に取り付いていた黒い蔓がかき消すように霧散していく。

 掴んだ腕を引き寄せ、空中でイノの身体を片手で抱えて、ゆっくりと着地する。若干よろめいて右足を引いたが、イノを脇にしっかり抱いたまま、倒れずに立つことに成功した。


「ぬぅ」

 蔓の一本を切り裂かれたキュリアンは怨嗟の声を上げた。あの蔓縛を抜けられるとは思いもよらなかった。相手が聖剣士としても力づくで抜けられるものでないはずだ。だが、あの聖剣士は身を犠牲にして、その黒蔓を破壊した。

 アーティスがとった手は緊急で危険なものだった。体の表面で水を爆発させて黒蔓の呪縛を破壊する。それは自身も傷つけ、最悪の場合、命すら脅かす可能性があった。実際にアーティスが着ている皮鎧は傷だらけになっていた。怪我を恐れていては蔓を断ち切ることができない。掛けられた魔力を上回るだけの爆裂を仕掛ける加減が難しかった。


「大丈夫か」

 荒い息のまま、アーティスが聞いた。だが、その声をかけられた方よりかけた方が疲弊していた。

「ああ、ありがとう・・・」

 次々と変わる状況に頭がついていかない。イノが自分の状況を理解するのに数(バーロ)かかった。床に降ろされ、自分の足で立った時にアーティスの服がぼろぼろになっているのに気が付いた。

「アーティス・・・」

 イノは命がけで助けてくれた聖剣士を見つめていた。


「うわーっ!助け・・・」

 黒蔓にさらわれた郡兵の一人が、巨大な穴に放り込まれた。黒い穴の中に男は落ちて行き、やがて姿が見えなくなった。どれほど奥が深いのか、その穴の底が見えない。


 アーティスはイノを放すと、再度剣を構えて、駆け出した。その勢いで宙へ飛び上がる。アーティスは再度振り上げた聖剣を、もう一人の郡兵の体を持ち上げている黒蔓に向けて振り下ろした。聖剣はガキンと黒蔓に斬り込む。アーティスが力を込めると、黒蔓が千切れ飛んだ。


 だが、すでに蔓の先は黒い穴の縁に届いていた。黒い蔓は消えたが、宙に浮いた郡兵の体は支えを失って落下していく。アーティスは手を伸ばしたが、その指先を郡兵の体がすり抜けていった。郡兵の体は、穴の周囲に積み上げられた死体の上に落ちる。郡兵は必死に腕を動かすが、掴んだのは積み上げられた死体だった。

「うあああーっ」

 若い郡兵は叫び声と掴んだ死体と共に穴の中に落ちていく。


「くっ」

 アーティスは唇を噛んだ。青剣を地に突き立てて、崩れそうになる脚を支えた。疲労がかなりかさんでいた。まだ限界ではないが、健勝というわけでもない。


「うわああああーっ!」

 叫び声が上がって、また一人黒蔓に巻き上げられた。

「もう一人・・・」

 キュリアンはつぶやいて、その男に腕を伸ばして黒蔓を操っていた。時間がなく、手近な男を掴んだようだ。


 その男ーシャリオ・フェードソンは宙で四肢をバタバタさせていた。

「助けてくれー!」

 シャリオは必死だった。まさか、という言葉がシャリオの脳裏に渦巻いた。


 貴族の出であって、王都でも知れた一族の端であった。何もなければ栄華を得るはずだった。ところが、ちょっとした失敗がシャリオをこの地に追いやった。それも他の貴族の前で恥をかかされた。シャリオに取っては屈辱の一日。

 この地で復讐を考えていた時、黒い魔法師が現れた。そして、国に、国王に復讐を果たし、この国を支配する道を伝えたのだった。魔獣を使役して国を奪う。それを現実のものとするために言いなりになってきた。そして、もうすぐ事は成るはずだったー。


「こんなところでーっ!」

 シャリオは叫んだが、黒蔓の動きは全く止まらなかった。シャリオの身体はあっという間に穴の上まで運ばれ、穴の中に放り投げられる。

「あああああーっ」

 シャリオの叫びが遠く消えていった。


「キュリアン!」

 アーティスは叫んで剣を閃かせた。長剣がキュリアンに向かって突き出される。

 キュリアンは地に刺した黒剣を引き抜き、アーティスの青剣を弾いた。剣を弾かれたアーティスは一歩後退る。アーティスは剣を一旦腰だめに構え直して、再度キュリアンに斬りかかった。


 が、アーティスは一歩踏み出した途端、体を翻し、その剣で背後から突き出された鋭爪を弾き返した。突き出した爪を弾かれたムーマは飛び退って、2撃目に備えた。

 アーティスは一旦足を引き、無造作に黒剣を構えるキュリアンと両の爪を構えたムーマを交互に見た。二人を同時に相手をするのは厄介だ。聖剣の力を使うにしても、聖力を込める時間が必要になる。


 にらみ合いがしばらく続いていると、大地に微かな振動が生じた。穴の端からパラパラと砂や石が穴の中に落ちていく。

「ぐおおおおおおおーん」

 穴の中から獣のような咆哮が沸き上がってきた。低い唸り声のような声が洞窟に響き渡る。その声で震えるように壁や天井からもパラパラと小石が落ちてくる。地の底から振動が伝わって、次第に大きくなっていく。

 大地が揺れ、立っているのが難しくなってくる。大地の震えと共に穴の咆哮が大きくなり、底知れぬ穴の中から、何かが這い上がってきた。



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